5-16 再度
夕が作ってくれた料理は結構な量だったものの、結局二人で
「ご
「お粗末さまだよ~」
「ハハハ……」
これがお粗末って、そんなバカな話があるかっての。世の料理の九九%はお粗末になっちまうぜ。
「まったく大した腕だな。お世辞抜きに賞賛しか出ないわ」
せめてものお礼とばかりに、正直な感想をお隣に伝える。貰った弁当の出来からして、相当の腕前に違いないとは思っていたが、実際はその予想の数段上だった。しかも食材不足のハンデ付きでこれなので、食材さえ用意すれば満漢全席でも作りかねない。
「こりゃ今すぐ料亭でも開けるんじゃね?」
そう口から出てふと思ったのだが、どこぞのお嬢様と予想していた通り、名のある料亭のご息女殿なのかもしれない。だとすれば、この高い調理技術や教養、時たま見せる妙に気品のある立ち振る舞いなども納得だ。
「やだもぉ~、うふふ、ありがとっ! お料理大好きだし、うんっ、それも楽しそうねぇ~♪」
夕は褒められたことが相当嬉しかったのか、一人で盛り上がり始めると、
「ということでお客さん……」
この流れを
「これ以上の手料理が毎日食べられるということで……そっ、そのぉ……」
さらに、何やら意味深なことを言い出して……
「お嫁にいかがかしらぁ!?」
とんでもない事を聞いてきた!
「──んなっ!? ぶふぉっ、げほっ」
あまりの驚きに
「だ、だいじょぶ?」
そう言った夕の顔は、湯気が出そうなほど真っ赤であり、まずは自分の心配をすべきかと思う。
「んっ、あぁ、すまんすまん」
えーと、なんだ、今確かにお嫁にって言ったよな? この夕のアタフタした様子からしても、
だがこうして少なからず一緒に過ごした今なら、これが十割の冗談ではないのは、鈍感な俺でもさすがに解ってきた。ここでもし「ください」とひとこと言えば、即縁談が成立しそうな気さえしてくる。
「どぉ……かな? じっ、自分で言うのもアレだけど、ユ、ユウリョウブッケン、ダヨ?」
あまりの展開に戸惑う俺をよそに、夕はぎこちなく詰まりながらも自己PRしてくる。
「まぁ、そうなんだけど……」
「ええっ、そうなの!? やったぁ!」
「なんでお前が驚くんだよ」
「えへへ」
それでうっかり肯定してしまったのは失策だが、そう思ったのは間違いない。賢くて話も面白いし、料理もできて、将来美人確定の心優しい誠実な子とくれば、文句の付け所が無い優良物件だと思う。問題があるとしたら年齢差くらいで――って俺は何を真面目に考えてるんだよ! 婚活どころか就活すらまだまだ先だし、そもそもそれ以前の問題が山積みだっての。
「じゃなくて、そういう問題ではなくてだな……」
例の事情が一番大きいが、加えてなぜ夕にここまで好かれているのか全くサッパリ解らない以上、受けるも受けないも無い。だがこれをどうやって夕に説明したら良いものか、実に困ったものだ。
「その何と言うか――」
「うん……解ってるよ」
「えっ?」
夕は言い
「その……答えを持ってきたってさっき言ったじゃない? パパの事情は、もう知ってるの。だから、えっと、ごめんね? 突然こんなこと言って困らせちゃって……。あ、もちろん冗談のつもりもないけど、褒められてついつい舞い上がっちゃってさ? あはは……」
夕はつい勢いで言ってしまったらしく、冷静になった今は気まずそうに
「ヤスか?」
「あっ……うん。パパならすぐ解っちゃうよね。口止めには応じなかったけど、そもそも言う機会もなかったね、ふふっ。でも靖之さんを責めないであげて欲しいな? 無理やりあたしが聞いたんだから、怒るならあたしに……ね?」
「むぅ……」
ヤスの処刑は先ほどの会議で議決されたばかりだが、夕に免じて
ただそれでも、お
「ひゃんっ」
「これで許す」
「ふぁぃ……」
夕は反省した顔をしつつ、おでこを指でコシコシしている。
「まさかこの早さで聞き込みをしていたとは、お前の行動力にはいつも驚かされるぞ」
「あはは……パパのことに関しては、無限の活力で手段も選ばないかも?」
俺がマップにポップした瞬間に、移動回数
「せめて手段くらいは選んでくれよ……」
ある意味ヤスは被害者であり、通り道に生えていたばっかりに粉砕された木というところだ。せめて
「はぁい♪」
あ、これ絶対解ってないやつ。またやるやつ。もうしますんと同じ。
にっこり笑って元気よく手を挙げる夕に、今後の苦労が容易に予想されてしまい、俺は軽くため息をつくのだった。
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