5-07 無駄
夕と別れた後、全力疾走した
そうして一昨日の焼き増しのように、息を切らしながら席に着けば、毎度おなじみのヤスがやって来る。
「ずいぶんお早いご到着で。今日も夕ちゃんかい?」
「あぁ、懲りもせずにな」
昨日のことは聞いているだろうから、どうせ隠しても無駄なので正直に答える。
「ふーん、そっか、夕ちゃんは来てくれたんだね。それも、昨日からの今朝でなぁ……夕ちゃんマジですげぇなぁ……いやぁ、お前ほんっと愛されてるなぁ」
「いや、あれは全然効いてないだけ――」
じゃないんだよなぁ……むしろすこぶる効いてて焦った。
「んなわけないのは、大地も解ってんだろ?」
「……まぁ、な」
喧嘩別れした相手の家に翌朝速攻で乗り込むなんて、大した勇気とガッツの持ち主だとは思う。だがこれはその不屈の精神ゆえだから、ヤスが言うような愛だとかそういうフワフワしたものではない。
「この際はっきり言わせてもらうけど、お前ができる範囲でどんだけ冷たくあしらったって、あの子は絶対
「んなこたぁないだろ? 俺を見くびってもらっては困る」
心を鬼にして頑張れば、そのうち追い返せる……と思うぞ?
「へぇ~、そんじゃぁ聞くけど、お前は夕ちゃんを嫌いになれるのか? そんなん絶対無理だろ?」
「追い返せるかって話と関係無い気がするが……まぁ、嫌うくらい余裕――」
「あい分かった。それならさ、夕ちゃんの嫌なところ、一つでも言ってみなよ? ってもマイエンジェル夕ちゃんにだって、一個くらい嫌な面だってあるか」
「はは、そりゃそうだろ。あいつの嫌なところの一つや二つ、ほら……えっと……例えば………………むぅ?」
あんれぇ、おっかしいな……夕を嫌いになれる要素が何一つ思い浮かばないぞ?
「ちょおま、マジで一個も出ないの!?」
「あ、いや待て!」
このまま出ませんは、ちょっと、マズイぞ……夕にやられて困ったこと……あぁそうだ。
「しつこく付きまとってくるとことか? ……あぁあと、すっげー頑固者!」
「はあぁぁ……」
何とか
「あのさぁ、お前それほんとに嫌なん?」
「ぐ……」
付きまとわれて面倒ではあるが、嫌える程ではない。頑固なところも、言い方を変えれば確固たる信念を持っているということで、俺の感覚ではむしろ褒め言葉だ。……たしかに、自分で言ってて相当無理があった。
「なっ?」
「……くっ」
ほーれみろと言わんばかりのドヤ顔が、くっそ腹立つなぁ!
「あと逆に良いところなら、お前だと五個や十個さらっと出てくるんじゃね、ははは」
「いやいや……」
夕の良いとこねぇ……元気、素直、優しい、礼儀正しい、誠実、勇気、
「うーん、一つも思い浮かば――」
「んなわけあるかいっ!」
一瞬でバレてチョップされてしまった。流石にゼロは無理があるし、ヤスでも
「だから嫌うのなんて無理だし、追っ払うとかもっと無理だって僕は言ってんだよ」
「……あー、そうか。本心から嫌えていないから、表面上でどんだけ追い返そうと頑張っても、夕はそれを見抜いて絶対諦めないと?」
なるほど、ヤスにしては珍しく一理ある。
「え、あぁ、そういうことなんかな?」
「だから何でお前が理解してないんだよ……ほんと直感だけで正解に
「たはは。ということで、詰みだ。お前は完全に夕ちゃんに包囲されている! 無駄な抵抗は止めて、大人しくくっつきたまえ!」
「またそれかよ。いろいろ問題ありすぎて、どっからツッコんだらよいやら……はぁ」
毎度お
チャイムと共に席へ戻って行くヤスを眺め、つくづく変なヤツだと思うのだった。
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