幕間02 キュウシュツ
大地と喧嘩別れになった私は、
「そうよ、ね…………うん、でも今はできることをしなきゃ」
首をブンブンと振って暗い気持ちを切り替え、現場の様子を確認してみると、なんとあの人はまだ絡まれ続けていた。このチンピラどれだけしつこい――ってか誰か助けなさいよ……そう偉そうなことを思いつつも、この非力な私ではどうしようもない。そもそも絶対に怪我はできないのだから。
まだうだる熱が残る頭で打開策を考えていると……ちょうど良く追い付いてきた金髪頭――
まずは合流と思った矢先――なんと彼が突然走り出し、チンピラ達に真っすぐ向かってグングンとスピードを上げていく。
「うわあぁぁ、どけどけぇ!」
そして靖之さんは大声で叫ぶと、驚いて彼へ向き直ったパンチパーマに全力疾走からの体当たりを食らわし、その勢いで吹き飛んだ二人がゴロゴロと地面に転がった。ただでさえ怪しいチンピラ達に、高校生が突然体当たりしたということで、周りの通行人も驚いて足を止めている。
「や、靖――」
混乱する頭で慌てて駆け寄ろうとしたが、一瞬目を合わせて静止のジェスチャーを出す靖之さん。……んと、これは何か作戦があるってことかな? それに私が居るの気付いてたのね、案外目ざとい人だわ。
「――ッ! ナンじゃぁこのクソガキャァ!」「ナメてんのかワレぇ!」
だけど靖之さん、この後どうするつもりなのよ? 事務所に連れて行かれてボコボコにされちゃうんじゃ……でも私じゃここから見守るくらいしかできないし……困ったわ。
「あいや、すまない! ちょっとやらかしてサツに追われててな。
私の心配をよそに、彼は顔を伏せて早口にそう言うと、早馬のごとく走り出した。
おおお、なーるほど、そういう作戦だったのね! 冴えてるぅ!
「あ、おいテメェ待ちやがれ!」
慌てて追いかけようとするチンピラ達だったが、吹き飛んだパンチパーマを起こそうとして初動が遅れてしまい、気付けば彼は通行人を上手くすり抜けて遠くまで走り去っていた。二人がパンチパーマを放置して追いかけなかったことから察するに、恐らくコイツが親分格で、もしそれを瞬時に判断して的確に狙ったのだとすると……やるわね、靖之さん。大地が一目置くだけのことはあるわ。
「あんっのクッソガキゃぁぁ!!! おいお前ら、顔覚えたか!?」
起き上がるパンチパーマ親分は、真っ赤になった顔に血管を浮かばせており、今にも誰かを殺しそうな形相だ。正直怖すぎて視界にすら入れたくない。
「すいやせん兄貴、あまりの素早さに顔は……でも
「チィ……金中のヤツか……」
アロハとパンチパーマは、靖之さんの捨て台詞にすっかり騙されたようで、隣町の中学生だと信じ込んでいる。これで彼が後々見つかる可能性を減らせるし、しかもひなさんはどうみても高校生なので、関係者と疑われる心配も減らせる。この状況下において限りなく最善手を、あの一瞬でよく考案――んや、野生の勘で動いたのかしらね、ふふっ。それと、慌てて飛び出さなくて本当に良かったというもので、私の足では到底逃げられず、まさに足手まといになるところだった。
「そ、それより兄貴ぃ、あいつサツが追って来てるって……早いとこ逃げた方が――」
うんうん、靖之さんの作戦通りね。ほーらほら、さっさとどっか行っちゃいなさいな、シッシッ。
「わぁっとるわ! ドグサレが! ――いくぞ」
パンチパーマがリーゼントのリーゼント(?)を
ふぅ……体当たりした時はどうなることかとヒヤヒヤしたけど、何とかなったわ。あとそのインパクトのおかげか、ひなさんのことはスッカリ忘れたみたいで、一安心ね。まずは、靖之さんに情報共有のメール……『お疲れ様、とてもカッコ良かったです。あいつらは駅の方へ行ったので、こちらに戻る時は、かち合わないように注意してくださいね』っと。
次いで放心しているひなさんの元へ駆け寄り、声を掛ける。
「ひなさんっ、大丈夫だった? 怪我してない?」
「あ……うん、ゆっちゃん達のお陰で何とか」
「んーん、あたしは……何も、できてないわ……」
今回は靖之さんの一人手柄なのよ。私なんて、大地を連れてくることもできなかったし……ああ、本当に無力だわ。
「……そっか」
ひなさんはとても悲しそうに俯いており……絡まれたことなんかより、大地が見捨てて帰ってしまったことの方が、よっぽどショックだよね……。
「そのっ、パパは……本当は――」
「うん、大丈夫だよ。本当の大地君、ちゃんと分かってるから。それに……私のせいでも……」
自分の気持ちの整理もできていない中で大地を
「私のせいって、どういう――」
「いやぁぁ、なんとかなったね! にしてもコエーのなんのって、あっはは」
そこで後ろから話しかけきたのは、帰ってきた靖之さんだった。
「天馬さんっ! 大丈夫でしたか!?」「靖之さん、ほんっと無茶し過ぎです!」
「あはは、余裕余裕――ってわけでもなかったけど。でもお陰でこんな美少女二人に心配されて……両手に華ってのもいいもんだねぇ。頑張った
ひなさんと私に両腕を取られて、靖之さんはデレデレと鼻の下を伸ばしている。
「もぉ、ほんと相変わらずなんですから……」
さっきのカッコ良さはどこいったのかしらね、ふふふ。
「でもあいつら、靖之さんの顔は覚えてないみたいだったようですけど……それでも少し心配です。ふと何かを思い出して、子分総動員で捜索されたりとか?」
あのパンチパーマの尋常ではない怒り具合からして、可能性として充分にありえる。
「あー、それは多分大丈夫かな。実は僕、だいぶ昔にやんちゃしてた頃があって、その頃のツテでこの町のグループはOB含めて大体知ってるんだけどさ、あいつらは見たことないね。なんで、多分よその町のヤツらが、たまたまここに居ただけじゃないかと。だとすると、よそのシマでそんな大がかりなことはできないかな、抗争になっちゃう。しかも、僕がでまかせで言った金中はこの界隈ではちょいと有名で、そのバックが……ね?」
「ふぅん、そういうものなんですね」
言われてみれば、パンチパーマが金中と聞いた途端に渋い顔をしていた。ワル達にも、色々と
「それはそうと、本当にありがとうございました、天馬さん。もう何とお礼を言ったら良いか……」
「いやいや、いいってことよ! こんくらい朝飯前さ。まぁ僕がしゃしゃりでなくても大地が――ってあれ? あいつどこいった?」
「ええとぉ……」「パパはそのぉ……」
本来あるべき姿を探して見回す靖之さんに対して、私とひなさんはどう説明したら良いか分からず、言いあぐねてしまう。
「あー、そういうこと……うーん、困ったもんだねぇ」
靖之さんは私たちの様子で察したのか、気まずそうな顔をして
この様子からすると、今回の大地の事情を知っているみたいね。それにひなさんも意味深なこと言ってたし、まずは二人に聞き込みをしないとだわ、うん!
「──まっ、終わり良けりゃすべて良しさ! さっさと帰ろうぜ」
「そう、ですね。私もちょっとこの後用事があるので、失礼します。天馬さん、先ほどは本当にありがとうございました。ゆっちゃんも、またね」
一人で作戦を練っている間に、二人は早々に別れを告げて、それぞれ別の方向へと歩き始めてしまった。
ああ、待って待って、これはどっちを追いかけて聞くべきかな……うーん、まずは靖之さんの方、かな? 今回はなんだかんだで助けようとはしてみたけど、そもそもひなさんはライバルなわけで、借りはできるだけ作りたくないわ。
それで靖之さんの方を小走りで追いかけ、横に並んだところで様子を見てみると……なにやら考え込んでウンウン言っており、私に気付いている様子もない。
これは……やっぱり、大地のことを心配して悩んでるのかなぁ。うーん、靖之さんも手がいっぱいといった感じだし、これは日を改めるべきかしら。急がば回れとは言うもので、なかなか上手くいかないものね。
そうなると、今私ができることは大地に会いに行くくらいだけど、それは……かなりキツイ。正直今は顔合わせるのも辛いし、そもそも何かを話そうにも、私自身の気持ちの整理が全然できてない。それに、いろんな意味でそろそろ時間だし。
それにしても、喧嘩……なんてものじゃないけど、仲直り……できるのかしら。このまま大地に嫌われたままだったら……どうしよう。ううぅ、想像しただけで、涙が出ちゃう。
――んーん、すっごくツライけど、弱気なことばかり言ってられないわ! 今晩はじっくり考えて気持ちを落ち着けて、明日頑張る、ぞっ!
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