3-08 電波

 夕との相談を終えて教室に帰ってきたところで、ちょうどヤスも部長業務を終えて戻ってきた。ちなみに夕は、午後の授業があるということで、アイスを食べ終わるや否や駆け出していった。今からで授業に間に合うのかと心配したが、なんでもこの高校には昼休みだけ使える抜け道があるそうで……在学生の俺達ですら知らない情報を知っているとは、あいつは一体何者なのだろう。それに、普段は外見相応な子供っぽい雰囲気だが、時には俺より年上かと疑うくらいの大人びた言動を見せることもあり、何とも不思議な子……夕星という名前は聞いたものの、やはり不思議ちゃんがしっくりくる。

 ――っと待て待て、なぜ俺は夕の心配なんぞしてるんだ? これ以上アイツに気を許さないようにしないとな……そう自分自身に言い聞かせておく。


「どうした大地、んな難しい顔して」

「なんでもねぇよ」

「ふーん? いやしっかし、夕ちゃん可愛いかったよなぁ。さっきゆっくり話してみて、増々そう思ったね」

「随分気に入ってんな」

「おうよ。僕が思うにさ、超絶美少女なのは言うまでもないんだけど、何より笑顔を絶やさないところが、夕ちゃんの魅力を何倍にも引き上げてるんだろうね」


 照れたりむくれたりと、喜怒哀楽満載の感情豊かな子ではあったが……たしかに、総じてニコニコしていた。


「なんて言うかなぁ~、ほんっとーに幸せそうなんだよなぁ~」


 ヤスはそう意味あり気に言って、こちらに流し目を飛ばしてきた。ヤメロ気色悪い。


「一体何がそんなに楽しいやら」

「おんまっ……それ本気で言ってんのか!?」


 ヤスは信じられないものを見たと言わんばかりに、目を見開いている。

 

「冗談言ってどうする。あんな不思議ちゃんの考えてる事なんか俺に解るかよ」

「はぁ……あんだけ垂れ流し状態なのにな」


 ヤスはドバーと両手の平を外側へ動かし、体内から何かが吹き出す仕草。うわっ、よう分からんもんをかけんなよ。


「毒電波でも垂れ流してるのか?」


 それなら納得、毒盛りの疑惑もあったことだ。


「ちょ、毒電波て、酷いこと言うな……んまぁ電波ってのは、確かにそうかもね。お互いの波長が合わないと交信できないところとか、まさにそれよ」

「ん、んん? 意味分からん」

「はぁ……僕にゃお前が分からんよ。どうやら大地の送受信機は、驚くほどポンコツらしい――とは言ってもまぁ、お前は昔色々あったし……仕方ない事かもしれんけどさ? でも夕ちゃん苦労するだろうなぁ……よーし、陰ながら応援しよ! 上手くいけば――」


 ヤスは勝手に盛り上がっているが、そもそもナゼ俺があいつと交信できねばならんのだ。


「そんなに言うなら、お前がその電波交信とやらをしてやれよ。俺には荷が重過ぎる」


 不思議ワールドに連れて行かれてはたまらん。こういう時にはヤスシールドに限る。


「ハハハ、できるもんなら僕は大歓迎さ。でも夕ちゃんはとある他の電波用に完全特化チューニングしていて、僕――いや、他の波長は絶対に受け付けないらしい。さっきダメ元で試してみたけど、無慈悲に弾かれたさ!」


 ヤスは嘆きながら、胸の前で両腕を大きくクロスさせる。これは小学生が遊びでよくやるバーリア! かな?


「そりゃ難儀なこった。交信したいお前にとっちゃ、そのとある他の電波とやらはまさに妨害電波だな。なんなら上手くいくように手伝ってやってもいいぜ?」


 そうすれば俺も解放されて万事解決、WINWINってやつだ。


「おい、それは面白い冗談だな!? そんな事させたら、僕は夕ちゃんに毒殺されちゃうよ!」


 ヤスは「あ、それもアリでは?」と気持ち悪いことをブツブツ言いつつ、自分の席に戻って行った。どうやらこいつは、すでにその毒電波に冒されちまったらしいな、お気の毒にも。

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