戦いの後

 翌日、ギランクスでフェルサと仲間達とテスジェペの技師、そしてカリュスとの間で今後の話し合いの場がもたれた。

 「なるほど、空に磁力を撒き散らせというのか。それでいいのか」

 文書を見ながらカリュスが訊いた。

 「今の人間は未熟だ。このまま空を飛べるようになればまた戦いを起こすだろう。そうなるのは避けたい。消す時期はカリュスが決めてくれて構わない」

 「わかった。こちらに攻めてこられても迷惑だからな。取りあえず五百年後に磁力を止めるように設定しておこう」

 カリュスはギランクスでギラド人やゼロラ人達と暮らし、フェルサは戦いを好まないゼロラ人達と町を作り暮らす事にした。

 「フェルサ、一緒にモスランダに住んでもいいんだぞ」

 「ありがとう。でも俺は人間じゃないからな。そうなると色々と面倒だから。嫌う奴も利用したがる奴もいるだろうし、人間が作り出したゼロラ人だってそういう目で見られながら暮らしてきたんだ。俺は彼らと一緒にのんびり暮らすよ」

 「わかった。たまには遊びに来るからな。その時はしっかりもてなせよ」

 レンディは言うとフェルサは「わかったよ」と微笑んだ。

 「しかし今は仲間がいるが、お前は不老不死の身だ。いつかは別れなければならない。それでも一人で生きていけるのか」

 カリュスが厳しい目つきで睨んだ。

 「俺が決めた事だ。悲しい事もあるだろう。だが決めたからな」

 フェルサが一瞬目を伏せた。カリュスは小さくため息をついた。

 「ちゃんと言えよ『寂しい』と……全く、竜の力を持ってもクソガキだな。これは邪悪な魔人と化したカミラガロルを倒した礼だ」

 カリュスは球状の物体をフェルサに投げた。

 「これは、ポリコか」

 「ああ、空の門から回収した。奇跡的に無事だった。これにはお前の妹の記録が入っている。中継基地を一つくれてやるからその中で復元するといい」

 フェルサや仲間は驚いた。

 「出来るのか!本当に!」

 ベリフは思わず叫んだ。

 「ああ、可能だ。どの時点の記録が残っているかわからんがな」

 「へえ、あの時は怖い顔で私達をボコボコにしたくせにやる時にはやるのですね」

 チャミがポリコを撫でながら言った。

 「お前……まあいい。もう二度と会う事はないからな。じゃあな。ゼロラ人の面倒をちゃんと見てやってくれ」

 カリュスが席を立つとフェルサも立ち上がって「ありがとう」と言った。カリュスは右手を上げて部屋を出て行った。

 こうして交渉は終了した。数日後、ギランクスから放たれた光線で空に磁力が戻った。

 人々にはギランクスとの停戦交渉の結果だと知らされた。不満に思う人々もいたが戦いが長引く事を恐れて渋々納得した。開発されたスレイサは各地で封印された。その後、カリュスはゼロラ人がギランクスに住む事を許し、同じ時期にホルベックのカロク法王がボレダンに新しいゼロラ人の町を作る事が発表した。

 大陸を渡りギランクスやボレダンに行くゼロラ人もいれば各地に残る者もいた。

 それから時が過ぎて……

 「フフフ、ミンゼはいつ見ても可愛いですね」

 レンディとコンファ、そして二人の子のミンゼを見送ったシャルマが微笑んだ。

 「ああ、本当に可愛いな。でもどちらに似ても気が強そうだがな」

 椅子に座ったフェルサが微笑んだ。

ボレダンにある空の門がフェルサとシャルマの家となり、そこには仲間達がよく遊びにきていた。

 磁力に覆われた空では飛べない代わりに地上スレスレに飛ぶ『スレイバル』がランマンに代わる移動手段になり各地を今までより高速で移動できるようになった。

 「みんな年を取っていくな。ロンデゴおじさんが死んでからますますみんなが老け込んで見えてきたよ」

 「それが人間ですから」

 透けた体で歩き回るシャルマが答えるとフェルサはフッと微笑んだ。

 「お互いずっと永遠に生きていこう」

 「はい」

 空の磁力が消えた年、フェルサとシャルマは改良した空の門でこの星を回る衛星『ムナ―』へ旅立った。それ以来彼らはボレダンには帰って来なかった。

 そしてこの星でまた人類が空を飛ぶ時代が訪れた。

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フェルサの旅 久徒をん @kutowon

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