フェルサの旅

竜の誓い

　「ハハハ、竜は人間の敵になったか」

　デリミストは大声で笑った。

　「どうして……」

　レンディは落胆した。

　「何でだよ！」

　トトに乗って飛んでいたラックは叫んだ。

　「これが竜の望んだ世界か……」

　カリュスは両腕から血を流しながら呟くと気を失った。

　「そんな、酷いです……」

　テスジェペの病室で外の映像を見ながらチャミは涙を流した。隣のベッドにはベリフが黙って横たわり医師達の治療を受けていた。

　「ううう……」

　「気が付いたかフェルサよ」

　「俺、どうしたんだ」

　「お前はもうすぐ死ぬか生き延びる。それを決めるのはお前自身だ。生き延びるには条件が何個かあるがな」

　「また図々しい事を言う竜だな。取りあえず聞いてやる」

　「カミラガロルを倒す事だ。私は魔人との戦いには関与しない。しかし今のあいつは別の意識、デリミストの配下で動いている部分がある。それは決してあいつ自身の意思で行動している事にはならない。それでもあいつが勝つのなら目をつぶろう」

　「俺に倒せるか試そうというのか。だが無理だ。あの化け物の体には剣は効かない」

　「わかっている。お前に私の血を授けよう。そうすれば身体能力が進化する。しかし私と同じ不老不死の化け物となって生きていく事になる。どうするんだ」

　「ケッ、何かと思ったら自分で戦いたくない卑怯者の提案かよ。まあいい。その話に乗った。シャルマを殺した奴でもあるからな。許す気持ちなどない」

　「それでこそ地の門番の人間だ」

　「竜を作りし罪を負った門番……父ちゃんが祭りの時に言っていたよ。シャルマと話をしていた時に思い出したんだ。祭りで言うせりふだと思っていたがそういう事だったんだな」

　「気づくのが遅いが、お前はこの人が作りし竜から力を授かって更に罪を背負うつもりか」

　「ごちゃごちゃうるさいな。あいつを倒したい為に生きるんだ。そこの所よろしくな」

　「わかった。契約成立だ」

　竜との思念波の会話の後、フェルサの体に熱い痛みが走った。

　「ぎゃあああああ！」

　フェルサは喉の奥から叫んだ。フェルサの体が金色に輝いた。

　「ほお……そう来るか」

　「屁理屈が好きなあいつらしいな」

　遥か上空で氷竜と火竜が呟いた。

　フェルサはうなだれると、すぐに顔を上げた。顔の縁が竜の鱗に変わっていた。

　フェルサは自力でカミラガロルのそばに飛んだ。

　「お前は化け物すぎるから俺に倒せって言われたよ」

　「何だ、その理屈は。まあ竜に何を吹き込まれたか知らんが、お前を殺して妹の所へ送ってやるよ」

　「お前こそシュアさんの所へ送ってやるよ。シュアさんに謝るんだな」

　「こざかしいガキが！」

　フェルサとカミラガロルの戦いが始まった。

　翼を広げ肩や足や腹が盛り上がり、戦う度にフェルサの体が変化してまるで金色の竜の鎧を着たような姿になった。

　「フェルサ、お前がどんな姿になろうとも私にとっては小生意気なフェルサだ。どうか勝ってくれ」

　兵士達に守られたレンディは呟いた。

　「これで決まりだ」

　フェルサは自分の体から取り出した剣でカミラガロルの額の目を貫き、首をはねて胸を貫いた。

　「ぎゃああああ！」

　首を切断されたデリミストの悲鳴と共にカミラガロルの体はドスンと音を立てて崩れ落ちた。

　「おお！」「やったぞ」

　辺りで歓声が響いた。魔物達の動きが止まった。

　「門番であり竜の子、フェルサよ。よく倒した」

　「その声はカミラガロルか！」

　「不本意ながらわが野望を叶えてくれようとしたデリミストを許してやってくれ。ゼロラ人であった私が愛した人間だ」

　「そこで情に訴えるのかよ。同族として恥ずかしいぞ」

　ギラド人の手当てを受けながらカリュスが呆れた。

　「俺はお前達を許す事ができない。でもこうして不老不死の体になった。いつか長い時間が経った時、許す時が来るかもしれない。いつかはわからないけどな」

　「それでいい。しかし不老不死で生きるのは辛いぞ。カリュスの話を聞くといい。私は意識を封印する。じゃな」

　「面倒くさい事は俺に振って死ぬのかよ。全くどれだけわがままな魔人なんだ」

　カリュスはまた呆れた。ちょうど両腕の接合手術が終わった。

　「面白い茶番だった。さて帰るか……」

　竜は翼を広げて洞窟へ向かい、上空にいた竜も別々の方向へ飛び去った