魔人カミラガロル

 それは五人分の身長と三人分の幅の体格をしていた。

 「よう。小娘。カリュス達が世話になっているようだな」

 三つ目の顔をした口のない男の声がレンディの耳に響いた。

 「貴様がカミラガロルか!」

 「ほお、他の兵士が驚いているのにお前は平気なのか。さすが長老の娘といったところか」

 「ギランクスの技術を見ればもはや何も驚かん。しかしもう少しいい男だと期待していたのだがな。残念だよ」

 「ふん、大した小娘だ」

 「それで何の用だ。人間が憎くて自ら殺しにきたか」

 「ああ、そうだよ。私達を追いやった人間の体を切り裂いてやる為にな!」

 急に女の声に変わった。レンディは目を閉じた。

 「その声はデリミスト。そうか意識が合体したのか。そのままカミラガロルと幸せに暮らせばいいものを」

 「ああ、お前達を殺してな!」

 カミラガロルはレンディに殴り掛かった。レンディは目を伏せたままよけてカミラガロルの腕を切りつけた。

 「堅い!剣ではきかないのか」

 「察するのが早いな。竜の鱗の剣でも簡単に傷つけられないぞ」

 「はあああ!」

 レンディはカミラガロルに何度も剣を突きたてたが叶わなかった。

 他の兵士達の光弾の攻撃も跳ね返されてしまった。

 「この化け物が!」

 レンディは剣を振り下ろしたがカミラガロルの腕で止められた上に腹に蹴り入れられた。

 「ぐおっ」レンディはその場にうずくまった。

 「まあ所詮は人間。この体には勝てないよ。さよなら。可愛い女傑さん」

 カミラガロルがレンディの頭を掴んだ。

 「レンディ様!」

 兵士達の声も聞こえずにレンディはぐったりとしていた。

 「レンディ!」

 一人の少年の声にレンディの手がピクッと動いた。

 上空から沢山のランマンと共にスレイサにぶら下がったフェルサが降りて来た。

 「この化け物。レンディを放しやがれ!」

 カミラガロルの頭に剣を振り下ろした。

 レンディの体をとっさに放したカミラガロルはフェルサを殴ろうとしたが、フェルサもよけた。

 「ふん。また来たのか。妹と一緒に幸せに死にな!」

 「その声はデリミストか!まあいい。俺の目的はお前達を倒すだけだ」

 フェルサは剣を振り下ろした。中から沢山の小刀が飛び出て来た。

 「そんな小細工」

 カミラガロルが手に触れるとバチバチと爆発して閃光が飛び散った。

 「うわっ」カミラガロルが目を閉じた隙にフェルサは剣を腹に突き刺した。

 「まだだ、いくぜ」

 フェルサは手にした装置を持つとランマンが動き出した。沢山のランマンが次々とカミラガロルの体に乗って取り押さえた。

 「ええい、鬱陶しい」

 「フェルサ、良くやった。そこだ!」

 目を覚ましたレンディが渾身の力でカミラガロルの右目を貫いた。

 「ぐわっ!」

 カミラガロルが叫びながら勢いよく飛び起きた。ランマンはそれでも体に乗りかかろうとした。

 「ええい、邪魔だ!」

 声がデリミストに変わり、次々とランマンをなぎ払った。レンディは兵士に抱えられてその場を離れた。

 「デリミスト!よくもシャルマを」

 フェルサの目つきが険しくなった。

 「ふん、元々死んでいたから別にいいじゃない。意識だけの姿で生きているなんて不幸だわ。年を取らずにお前を兄と慕う姿を見て辛いだけだろう」

 「さすが冷たい女の考える事だな。実に合理的だ」

 「カリュス!」

 フェルサは驚いた。カリュスが降りてきた。

 「俺はカミラガロルの復活を望んでいるが、お前と合体する事なんて望んでいなかったぞ。その意識だけで生きている姿を消してやろう」

 「やはり裏切ったか。いいだろう」

 こうしてカリュスとカミラガロルの戦いが始まった。

 戦いはカミラガロルが僅差で上だった。周辺の魔物達との戦いはホルベックをはじめとする戦いを嫌うゼロラ人が参戦してから終息に向かっていた。

 「もらった!」

 カリュスが剣でカミラガロルの左目を刺した。

 「うっ!甘いわ!」

 カミラガロルの腕の付け根から鋭い歯が飛び出した。

 「うわああ!」

 両手を切断されたカリュスが叫んだ。

 「こいつは俺が倒す!」

 カリュスを飛び越えてフェルサがカミラガロルの額の目を狙って剣を振り下ろした。

 「ふん、甘いわ」

 カミラガロルはフェルサの腹に拳で殴り、顎に思いっきり拳を入れた。

 フェルサは声をなく上空に舞い上がった。

 「ハハハ、これで落ちて死ぬな」

 デリミストの笑い声が響いた。

 フェルサの体が不自然に止まった。

 「何だ!」

 カリュスは辺りを見回した。

 「竜か!」

 デリミストの声でレンディは目を覚ました。

 「うっ、戦いは……フェルサ!」

 空で浮かんだままのフェルサの姿にレンディは驚いた。

 フェルサは物凄い勢いで引っ張られるように竜のいる方向に向かった。

 「おのれ、お前まで私達の邪魔をするのか」

 デリミストは叫んだ。

 フェルサの体は竜の手前まできた。

 竜は頭を下に傾けて小さな棘の様な物を頭から伸ばした。

 「うっ!」

 フェルサの体はその棘に貫かれてぐったりとなった。

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