第17話:新たなる力
「「―――なんっっでぇぇぇぇぇえッ!?」」
「本当に何で……」
「どうしてそんな事を……」
僕達は憤っていた。
必ずやあの邪知暴虐の女王と元女王を叱咤しなければと決意した。
「だ……だってアナが……そうしろってぇ……!」
「で、ですぅ……」
幼児退行ドワーフ女王様とへんにょり長耳エルフさん。
彼女たちの狼狽と僕達の怒りには理由があった。
ここ数日、何だか街中が賑やかでお祭りムードだと思ってたら、何とランナさまが新たな聖剣が誕生したこと、トルキンの象徴が三聖剣から四聖剣になったことを大々的に報じたというんだ。
……良い事だと思う。
「……それだけなら良いと思いますよ? 喜ばしい事ですからね」
「それだけなら全然問題なかった筈なんですけどね……?」
「どうして持ち主が勇者って事を……ついでにグロリア迷宮走破済みって事も大々的に言っちゃったんですかねぇ!? 関係ねぇでしょそこォ!」
「いんがかんけい!」
「だってアナがぁ……」
「ですぅ……」
何言ってもだってとですぅしか言わないじゃんこの人たち。
無論、風の聖剣シュトゥルムと火の聖剣イグニスの事も。
……オラシオンの事も、サラッと発表したらしい。
それで何がマズいって、まず僕達の現在地が大陸中にバレるし、普通に戦いの準備してる事がバレる。
ついでに迷宮の走破を公にしたくないクレスタがブチ切れて何かしら強硬策に走る。
皆が皆伝説の聖剣を手にしている事がバレてる以上、更に僕達が色々な所から狙われる危険性が増えたなどなど。
間接的なものを上げるならそれこそキリがないくらいにはやってくれてるわけだ。
完璧に退路塞いでくれたね、流石賢者汚い。
……本当に。
「………。ふぅむ。勇者キリシマ。次は手を開いてくれ」
「……あーー、こうすか?」
「あぁ……そのまま、開いて閉じて」
「……っす」
直近での出来事としては、もう一つ。
例の、欠損していた康太の左手薬指が復活したという事実があって。
「……復活? それ」
「まぁ。動くし。指だし」
……それは、まるで血液検査やワクチン注射の様子。
台に肘をついて腕を差し出している康太の左手を色々と検査しているニーアさんの興味は、まさに黒鉄に輝く小指に在り。
大きさを測る指標として「指先程の」という言葉を使う事があるけど、本当の意味で指先の大きさ。
「―――まさかこれが大剣になったり手甲になったり鎧になったりするんだからなぁ。ヤベェだろ」
「形状記憶ってよりはナノテクノロジーみたいだよね」
……そう。
これが、彼の新武器―――聖剣ロイドールが持つ形態変化の神髄。
あんなに大きな大剣に、果ては全身鎧にだって拡張できる物質を、指先大にも格納出来るって。
もう物理法則超越してるよね。
………。
最上位魔術……魔法の次点に位置する、魔術の極致。
一般に、魔術の位階は下、中、上位と簡潔にまとめられているけど、これらの定義としては、修得難度の高さや危険度などの指標があって分かりやすくもある。
けど、最上位だけは別格。
単純に数式や理論、技術的な問題ではない。
魔術の根源を研究によって独自に解釈、或いは直感的に理解した、天才の中でもごく一握りの存在だけが到達する、魔法の亜種的な産物とも言えるらしく。
大陸ギルドに在籍する冒険者は千、万の数ほどいるけど、その位階に到達している人は手の指で数える程しかいないという。
以前までの康太なら九人ということになるね。
「―――詰まる話、これも所謂空間魔法の亜種って事になるんすよね? ロシェロさん」
「ですです」
「私の刀に刻印された地属性の“壁立千仞”もそうですけれど、秘奥が使えるのはそういう理屈なのだと、ニーアさんが」
「その通りだ、サイオンジ。真なる聖剣とは、神の権能……その一端を限定的に行使できる、世界の理を塗り替えるものゆえな」
ロシェロさんが言っていた言葉と同じだね。
世界の理を塗り替える力。
聖剣は、まさしくそんな強大な能力を内包しているのだという。
「まぁ、完全な空間魔法は体積質量の誤魔化しだとか、そんな程度の比ではありませんけどね。ともあれコウタさんにも他の三人みたく深奥を引き出す修行をしてもらうので、そのつもりで」
「え。いや、俺はもう……」
「そんなの基本装備です。秘奥は隠されてるから秘奥なんですよー」
「オワタ……。てか本当に指治してくれなかったのってこのためなんすか?」
「………。も、勿論。賢者さんは何でもオミトオシィ……」
「嘘だで」
「嘘ですね」
「―――クククッ。ともあれ、力と責任は表裏一体だ、キリシマ。存分に励むといい。君とその剣ならば、出来る」
実際、本当に凄い武器を貰ったよね。
しかも報酬なしだよ?
大国の国宝になってもおかしくない―――ならなくちゃおかしいレベルの武器。
起源を辿るなら、それこそ数千年前……ルーツで言えば他の武器など比にならないくらいのものだ。
最新にして最古の聖剣。
その響きだけで正直格好良すぎると思う。
「……変身できる武器とかズルくない? ねぇ、シン君」
「あぁ、ズルいな。俺にも使わせろッ」
「いやどすぅ。だめどすぅ」
「「ぶーぶーー!」」
一緒にブーイングして再確認する、やっぱりシン君も男の子なんだ。
ロマンが分かる側なんだ。
向こうで美緒と春香とフィリアさんが白い目で見てるけど、あれはロマンが分からない側だ。
けど、ロマン武器は誰かさんのものだし。
朝から碌なニュースないし。
昨晩のトランプゲームでも集中狙いされて負けるしで、今日はもう散々だね。
「最後のは関係ねぇだろ。というかロマン武器に関してはおまいうの権化だろ」
「けど罰ゲームはまだ考え中な」
「一応言っておくけど全員一致でお願いね?」
遊びは煮詰まってくると何か賭けたくなるもの。
今となっては毎度のことながら何かしらを賭けていて―――ずっと前からお金はダメって師匠に念を押されてたからやってないけど、大体は命令する権利だ。
康太と春香が悪乗りしても美緒が止めてくれるからそこだけは良心的だね。
今回はシン君とフィリアさんも民主主義に加わっているし、多数決的には常識人側優勢といった所か―――買収の可能性を度外視すれば。
「本当は今日の昼過ぎにでも城下に遊びに行くつもりだったんだけどねぇ……思い出作りに」
「まー、こりゃあ行けるかもわからんね」
一先ずこの国を訪れた目的は達成してるんだ。
連絡を取り合ってるリザさん達の到着に合わせて数日のうちにトルキンを発つことが決まっている身としては、これが僅かなチャンスだったんだけど……。
否、諦められるわけがない。
折角の大国トルキン……素晴らしい武器魔道具、加工製品の宝庫とされる国だ。
そんな簡単にはいそうですかとはいかない。
「……というわけで色々と変装考えてみるか。俺の場合はロイドール纏えばまぁ……」
「それはそれで不審者やん」
「注目を集めない方法つってんだろうが」
どうにか注目を集めないで街に繰り出せる方法、ね。
―――見ている前で康太が左手を振ると、一秒と掛からず全身が黒鉄の甲冑に包まれる。
「んじゃ、取り敢えず竜騎士キリシマとでも呼んでくれや」
「竜要素どこよ。むしろ名乗れんの康太君以外の三人じゃん」
「武器の材質で言うのなら……そうなるんですかね。騎士要素を考えなければ」
「まーた仲間外れか……」
「なぁ。適当に服変えるとかじゃダメなのか? 観光で都に来た農村民とかよ」
「なめられるから駄目だね」
特に僕とか。
年齢的にも、脱いだら凄いけど見た目体格的にも弱そうに見えるし……脱いだら凄いけど。
そこに格好まで加わったら役満だ。
一瞬でカツアゲされそうになったりスリに遭うから却下。
その後、ほかにも意見は出て……フィリアさんアイデア、仮面で顔を隠す。
春香アイデア、髪を染めてカラーコンタクト。
美緒アイデア、着ぐるみ。
趣味なのか冗談なのか本気で行ってるのか分からない意見が並ぶ中で、僕の番。
……まぁ、幾つか考えはある。
普通に下位魔術の幻惑とかね。
「僕は―――」
「いんや」
「皆まで言うな、分かってるさね」
「ねぇ、聞いて?」
違うからね。
皆の想像してるやつとは絶っっ対に違うからね。
「違うんだって、単純に色々と考えがあるし、出来ればあれはもう暫く……」
「遠慮すんな、使え。捻じ曲げろ。派手に」
「簡単な方がいざという時に対応しやすいのは確かです。似合いそうな着替えもあります」
「着せ替えしたいだけだよね?」
おかしい。
昨日のゲーム大会然り、この間の料理大会然り、最近何をしてても味方になってくれる側の人がいない。
「何だよ。また俺ら仲間外れか?」
「不満ですよー!」
顔を顰めるシン君と頬を膨らませるフィリアさん。
そんな面白いモノじゃないから煽らないで。
一連のやり取りを面白がってるのは春香や康太くらいなもので―――特に後者は心底悪だくみして良そうな顔でシン君へ向き直る。
「―――なぁシンクさんやぁ~?」
「……んだよ、気持ち悪い顔して」
「だねだね。シンくんさぁ……もし陸が女の子だったらって思った事、なーい?」
「……………」
「シン君?」
嘘だといって欲しい。
そこは即答でノーと言って欲しかった。
間を空けながらこっち何度も見えるのやめて。
「陸ちゃーーん?」
「罰ゲーム決定! 往生せいやー!」
「美緒ぉ!」
「分かりました、準備してきます」
「よし……。まって―――何の!?」
民主主義って多数派が腐ってたらもうどうにもできないんだよね。
「フィリアちゃーん」
「シンク」
「「一旦目塞ぎーー」」
「ふえ?」
「なんッ……」
唐突に手を伸ばしてシン君とフィリアさんの目を塞ぐまま、早くしろと顎をしゃくって合図してくる悪の権化たち。
勇者のやる事? これ。
というか街に繰り出す話だったのにどうして罰ゲームの実行が絡んでくるのか、これが分からなくて……。
「……う」
普段は無くさないようスィドラの蔓紐に通して首飾りにしている指輪を出す。
これ、実際は物語にすら出てくる―――この世界で結婚を行う際に指輪を相手に送るようになった起源そのものである伝説級の魔道具なのに。
扱い罰ゲームの付属品感覚って……。
「はい、良いよー。二人共目開けてー?」
「とくと見るがいい、コイツを」
………。
僕の場合、先生と違って髪はそこまで伸びなかった。
肩程まで……所謂セミロング。
胸も控えめな方かな。
けど、臀部……脚とかは……まぁ、どうしてか男の時より明らかに太い気が。
女性ってこうなのかな。
関係ない事を考えるのも、全部全部現実逃避の産物で。
「―――リク……さん?」
「―――――」
フィリアさん、目が点。
シン君は……ちょっと待って、生きてる? これ。
「「……………」」
「何なの? これ」
羞恥プレイなの?
どの層に向けてるの?
どうしてフィリアさんは手をワキワキさせてるの? どうしてシン君はこっち見てくれないの?
「ねぇ。シン君?」
「………ぇ」
「嘘だよね? シン君。だって僕達……友達、で……」
「―――くっ」
「くっ」っじゃないんだけど。
何処行くの?
回れ右して凄い速度で部屋から逃げてったんだけど。
「―――ねぇ、二人共」
「あい?」
「うい、なんざんす?」
「罰ゲームの条件は」
「……んじゃあ、一時間その姿で……とか?」
「他の指定はなしで良いね?」
二人がこくりと頷く……その時点で駆け出す。
一時間を何処で過ごすかをしてしなかったのは向こうの落ち度だ。
最悪、自分の部屋で隠れてても良い。
ともあれ、意図せず友情の危機を迎えている気もするから先に部屋を出ていった彼を追って駆け出して。
「……あ、こんにち―――」
丁度良い所に知り合いが。
シン君見てないかな。
「アイン君! 今ここ男の子が通ったよね!?」
「え? ……え」
「え?」
………?
……あ。
「―――……あーー。アイン君?」
「……………?」
「僕だけど」
そんな目ぱちくりしないで、惨めになる。
この世の全てが理解できない、頭の中で情報が完結しないみたいな状況になってるらしい彼は、しかしどうにかして自身の記憶の中の該当する人物をねん出しているようで。
「………―――ぁ……え? リク……、さん?」
「うん」
「――――?」
「僕だけど」
これループしてる?
「あ……ああ。うぁぁ……、ぼ……く―――わ、わたし? あ、あの……すみませんッ!!」
……。
ここまで皆逃げだしてくると、自分の顔に自信が持てなくなってくるんだけど。
「なぁ陸さんや。お前って取り敢えず年少の性癖破壊しないと気が済まないんか?」
「まって? 今のも僕が悪いの?」
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