第9話:偽りの機神




 異質な空間だった。

 ……そう。 

 それは、最早様式美だった。



「あのさぁ……何処の国も、何処の中枢さんもさ。最低一つは秘密の空間こしらえなきゃいけないノルマでもあるわけ?」

「なー」

「古い国ほど隠し事が出来てしまうのは当然の帰結ですね。それが善きものであれ悪しきものであれ、大事なのはそうなるに至った経緯だと。……えぇ、気になります」



 ……。

 薄暗い通路だった。

 今まで訪れたどの空間よりも、どんな深淵の地下よりも濃い魔素濃度。

 それが、標高の遥か高い山の頂上、更に世界一巨大な樹木に存在するお城の内部にあるなんて。


 もはや、眩暈すら覚えてしまう程。

 仮にこれが様々な種の魔物が持つ特異性の交じり合った交雑の魔素だったのなら、吐き気すら催していたかもしれない。

 逆を返せば、眩暈は覚えるけど、それ以上はない……不思議なほどに清浄に整った空間。


 だからこそ、自然界とは決定的に違うような、ある種の不自然さも目立つ。

 これは、何処までも人工的に用意された環境であるという事で。


 その上で、最も異質なのは……通路の壁面全てに這うように存在する大小さまざまな材質不明でほのかな紫に光るチューブ。

 何処までも先へ伸びるそれらは、まるで壁そのものが置き換わっているみたいにびっしり、巨大な蚯蚓みみずのように。

 どうやら先頭を行くニーアさんはこのチューブが示す先へと向かっているらしく、照明のない薄暗い場所にあって、鼓動するように妖しく揺らめくそれらの灯りのみが頼りだった。



「あの、ロシェロさん……。この国の領域内は魔素が発生しずらいんじゃないんですか? どうしてこんなに……」

「えぇ。とってもふるーい儀式魔術の類ですね~。……私にも難しい程に」



 賢者曰く、この空間は全てが一種のろ過装置。

 蒸留が如く、魔素を何度も繰り返し循環させることで、魔物の力を介さず超高濃度の魔素を発生させているのだという。

 仕組みはさっぱりだけど、とても進んだ技術だと。



「今見てわかるのは、魔物が決して発生しないような仕組みを作っているという事。そして、何かしらの人工的な模倣であること。何処かの環境へと可能な限り近付けたモノ、という感じです」

「わぁ。流石はアナですね」

「うむ……仰る通りだ、旧き賢者」



 ロシェロさんの言葉に応えたのは、この空間を管理しているだろう、ニーアさん。

 彼は何処か苦い顔で。



「これを単に「難しい」という言葉一つで片付けるような埒外である事実。流石、妖精女王は健在という事であるが―――……それでも。貴女より遥かに旧き……、いにしえの賢者の遺した、術式。これは、おいそれと解読できるものではないだろう」

「もちろん、もちろん」

「あのー。結局、ここは何を再現してるんです?」

「―――えぇ。一つの、幻想です」

「……げんそう?」

「遥か古の時代。まだ地上に様々な幻想が残っていた時代の、環境……それが、この工房の在り方だ」


 

 前を歩いていたニーアさんが足を止める。


 ―――成程、確かに工房だ。

 見上げる程の巨大な金属炉や、液体の満たされたガラス質の容器がズラリと並び。

 用途不明の様々な機械部品、資材、麻袋があり。

 見上げる天井は驚くほど高く、しかし外部へ通じる換気孔があるのか、外気と交わる音がする。


 ただ、ある意味では遺跡とも表現できる。

 壁は主に石製……明らかな古さが残り、既に管理が行き届いていないかのように埃と蟲の巣が広がる空間には所以不明の金属と、通路から続いてきた大小さまざまなチューブが床も壁も天井も、全てにびっしりと張り巡らされている。 

 まるで巨大な蜘蛛の巣の迷路。

 既に朽ちたようにさえ思えるそれら……血管、或いは世界樹の根のように、張り巡らされたそれら一本一本からは、相も変わらず強大な魔力の波動を感じる。


 工房と呼ばれた空間の奥にも、また一筋の道があり―――植物の蔦にも似た黒くひも状の物質が行く手を阻むように、前方を幾重も覆い、遮っている。



「遺跡たるこの工房は元は地下にあったものだが、民の安全のためにここまで持ちあげた」

「空間まるごと!?」

「空でも飛んだんか……?」

「……随分と厳重ですね。それに、この黒糸は―――封印術、ですか?」

「えぇ。その羂索けんさく結界を超えてはなりませんよ。これは、私達の唯一の生命線です」

「下手に触るのもやめておいた方が良い。気分が悪くなる。壊したとして、造り直せる最後の技師も我だけだ」

「継承とか……なさらないんですか?」


 

 先へと続く通路に張り巡らされた黒つた

 確かに、それらには幾つもの補修の痕が見て取れ。



「無論、したとも。―――これは、私の弟子たちの仕事だ。しかし、単なる刻印とは異なり、ここ全てを担うには、只人ではあまりに酷。それが可能だった唯一の弟子も今は……」



 お弟子さんが施した結界。

 でも、今では……。



「そう、最年少にして、天才的な調律師であったあの子……夫の愛弟子、閃鋼のサーレクトが施した結界」

「「はぁぁぁ―――ッ!?」」



 ……ビックリしたぁ。

 僕も、確かに衝撃を受けたけど。

 急に大声を張り上げた二人は、その比じゃないようで。


 閃鋼のサーレクト。

 世界に十人といない最上位冒険者の一人、通商連邦の一件でギルドに捕縛されたはずだ。



「……私と陸君は直接サーレクトに会う機会が無かったですね」

「だね。名前だけしか……」

「あいつこの国の出身かよ。道理で、チビの理由が―――あいや、何でも」


「うん? ………そうかい?」

「聞こえなかったぞ、コウタ。もう一回言えよ」



 康太の言葉に、いつの間にか金属製の大きなスパナを持っていたニーアさんがははと笑う。

 あれはどうやって地下牢に放り込もうか考えている顔だ。

 あと、何故かシン君も反応してる。



「あの子が技術を持ち逃げしてしまった結果、国は大変な事に成りましてね。老いた夫一人では満足に調律の出来なくなったこの空間は、既に機能不全に陥っています」

「―――問題児過ぎる」

「うむ。最早、調整なしでは数年と持つことはないだろう。どれだけ直せども、私とて全てを理解している訳ではない。それ程の存在なのだ、この空間の結界は。それ程なのだ、東の亜人とは」

「東の亜人……」

「またそれなんだ」



 多くの知識がついてくる程に、世界中のありとあらゆる場所で名前が頻出する事に気付く。

 遥か昔に東より現れ、多くの先進技術を齎したとされる亜人族の賢者。



「これは君たちには必要のない情報であろうが。今や世界中に広がっている刻印魔術はもとより、機兵らについての知識と技術を齎したのも、東の亜人だ」

「……多くの先進技術に加え、失われた古代の魔術、その他機械技術にすら精通していた……という事ですか」 


 

 羂索結界と呼ばれた黒蔦を掴むまま、手を動かしつつこちらの問いに応えるニーアさん。

 やがて、こちらに振り返る彼と、彼がいた場所には―――黒蔦が、解かれたように一定の綻びをつくっている。

 


「―――見えるか、アレが」



 ………。

 皆で一斉に覗き込む、工房の最奥。

 それは驚くほどにシンプルな箱状で、大体四十メートル四方ほどの石室。


 そこに在るのは―――……鎧?

 グロリアの残骸再編を彷彿とさせるような人型の……全身鎧のような黒い装甲で。

 鎧と同色の剣を支えに仁王立ちするその背中に、壁や天井から伸びてきた全てのチューブが細く繋げられている。

 ……あれって。



「これ……、沢山あるチューブがあの鎧に魔力を供給してるんです?」

「―――ううん、違うねフィリアちゃん」

「ん。逆だな、こら」

 


 そうだね。

 鎧の魔力を吸い上げてるみたいだ、これ。

 つまり、ここに来るまでに見たすべてのチューブが、この鎧へ。

 安置されるソレは、多くの刀傷などが存在する、骨董品とも言えるような年季の入ったもの。

 辛うじて元が黒かった故に汚れが目立たないような年代もので。



 ―――あれが「偽りの機神」……?



 ……正直、何も感じない。

 魔力も、それ以外の要素からなる寒気とかも……推定、只の鎧にしか。

 でもあの機兵たちとかも近付いてくるまで気配が分からないくらい隠密行動に長けてるくらいだし、或いは……うん?



「……………」

「ロシェロさん?」



「―――ぁ――……。あーー?」



 彼女らしくないというか、声とは裏腹に表情と纏う雰囲気にまるで余裕がない。

 頭真っ白が一番近いだろうか。

 今に何かに思い至った様子の彼女は、友人たる地の聖女に振り向き。



「―――ラン?」

「………ご想像の通りです」

「まさか、アレとこの子達を……本気ですか?」

「女王として、私にも民を守る責務はあるのですよ。分かってください。それに、皆様には更なる力が。魔を討ち倒す、聖剣の持つ秘奥が必要。……違いますか、アナ」



「……あれと戦えって事だろ? シンク」

「早い話がな」



 実際、さっきそう聞いたしね。

 依頼というのなら、やるべき事は一つだし……。



「皆さん、今回ばかりは―――私も一緒に行きますよ」

「「!」」



 ロシェロさんが!?

 しかも、表情から察するに、大分―――今までにない程に本気だ。

 当然に心強いけど、逆を返せば彼女がそれを選択する程にアレは……。



「あと、一つだけ。皆さん? 心臓貫かれても頭撃ち抜かれても良いんで、即死だけは避けてくださいね、最悪」

「「……ん?」」



 

   ◇




 即死じゃなければどうにかなるから……と。

 生涯で絶対に聞きたくない言葉の一つが同行者の口から語られて少し、僕達は結界の内側―――石室に居た。


 非戦闘員確実な女王夫妻とフィリアさんは勿論、今回はシン君も辞退。

 彼曰く、自分の実力くらいは分かる……、との事で。

 


「最後に。諸君らが気付いた通り、偽りの機神に取り付けられた配管は魔力を吸い上げるためのものだ」



「まるで生物のように。常に大気中の魔素を吸収しているソレから、起動に必要な魔力を吸い上げることで、何とか機能を停止させている。だが、吸うよりも炉によって生成する魔力の方が膨大。ゆえに、過去に幾度とこれは自然に起動し……たった数十秒、数分の覚醒で幾度も災害を齎した」



『―――ヶ……ガ―――ガガ』



「頼むぞ。決して、散ってくれるな。私とて勇者の殺害に加担したとは思われたくないのでな」



 ……起動。

 鎧の身体を軋らせ、一歩踏み出した黒鎧。


 動きの中で、ピンと張ったチューブが次々に背中から外れていく。

 それはまるで、糸が切れかけた操り人形。

 チューブが外れる程に、倒れるんじゃないかとさえ思う軋んだ可動部の動きは非常に緩慢……、で。



「―――えっ……」



 一瞬思考が飛ぶ。

 視界に朱が映って、まるで他人事のように思考が朧気になって……それで……。



「グッッ……ッ!! あ……!?」

「「陸ッ!」」



 理解した、本当にヤバい。

 命からがら身体を捻ったけど、避け切る事は出来なかった。

 明らかに片目見えないしヤバい事になってるのは目に見えてるけど―――いや片方見えてはないんだけど……じゃなくて。


 取り敢えず、片目やられた。

 むしろ、頭部両断で致命傷じゃなかったのが奇跡だ。

 ドクドクと流れ出ていく血を止められな……また、目の前に鋭い光が走ると同時、相対するように見慣れた刀の白閃が走る。



「……ッぅ……、この威力っ―――は……!」

「ミオさん! そのままぁ!!」

「―――っ!」



 体勢を崩した僕の代わりに受けてくれた美緒の刀が大きく欠け、あまりの衝撃に彼女の身体が揺らぐも、既に剣を振り上げている黒鎧はそれを振り下ろすことなく後ろに吹き飛ぶ。


 ……ロシェロさんの強弓だ。



「二人はそのまま後退! コウタさんは前へ、ハルカさんは魔術で動きを鈍らせてください!」

「了解っす!!」

「おまかせ! “雲蒸龍変―――朧”!」



 金色に輝く鏃の一撃が黒鎧を大きく軋らせる。

 その上で、相手はあり得ざる一撃さえもほんの数瞬の後に克服したかのように、一刀に跳ね除け。


 同時に春香の強大な攻撃魔術が砕け散り、再構築より早くこちらへ跳ぶ影。

 黒鎧は最も手近な獲物―――康太へ……向けて跳んでいた筈が、進行方向を変えてこっちへ。



「おーーらぁぁ!! 再構築……”雹鎚”!」

「無視してんじゃ……炎誓刃―――“大断焔”!」



 何故かはわからないけど、進路を変えたのが裏目に出たね。

 地面から突き出した氷塊に防がれ動きが僅かに揺らぎ、一瞬の隙をついた紅蓮の剣技が黒鎧に炸裂する。



「いまです、リクさん!」

「了解! ―――美緒、合わせて!」

「はいッ! 連撃で……!」



 適応した攻撃ならば、僕が逸らせる。

 そこから攻に転じた彼女に合わせ、防は僕が。

 何千と繰り返した最も得意とする連携のまま、風が螺旋を描いて二対一の攻防に移り―――いや。



「「ッ……!」」



 ここまでお膳立てして尚、防戦一方。

 一撃一撃を何とか防げても、全てが必殺と言える程の威力が的確に、確実に僕達の防御を削る。



「んなろッ!! なら三対一で―――うぉぉッ!?」



 焔の大剣を鎧小手で受け止め、どころか攻撃を繰り出した康太ごと振り回し、放る。

 瞬間的とはいえ、大型魔獣の膂力とさえ見紛う身体能力。

 

 しかし、黒鎧はまたしても吹き飛ばした康太には目もくれず、こちらへ武器を光らせ……。


 上段からの強力な一閃……その一撃は知っている……!

 からの―――今ッ!

 


「雷銀斬……、暁闇ノ―――ぁッ!?」



 攻撃の瞬間には既に躱され……あり得ない。

 初見の筈だ。

 なのに、まるでこの攻撃を知ってるみたいに、黒鎧は……。



「さっせんよぉぉぉ!! ―――……あ?」

「……ぁ」



 ……眼前にまで差し迫っていた黒刃。

 今に助けようと動いてくれていた康太の動きもまた、鎧の動きと共に沈黙する。

 

 時間だ。

 戦闘時間は、時間にすればものの一分程度しか経っていなかっただろう。

 けど、それが限界。



「時間ですねー! 皆さん、撤退ですぅッ!! ―――ニーアさん!」

「承知したッ。すぐに調整に入る」 



 ……。

 ロシェロさんの合図により、動きを止めた鎧を放置したまま僕達はその場から逃げる事となった。



 ………。

 ……………。



「うひぃーー。死ぬかとおもたぁ……!!」

「ここ数か月の中で何度も死が肩を叩いてましたけど、周りを囲まれるままに四方から叩かれるのは本当に久しぶりです」

「断言するぞ? ありゃS級よりもダンチでヤバい」

「……だね」



 この半年間で途轍もなく強くなった筈なのに。

 その上で、この結果だ。  

 やるせないとかではなく、本当に……なんて言うか。



「皆さん……! 無事で―――リクさんッ!! 目が!?」

「お前等……ヤバ過ぎだろ、その怪我は」

「ううん、これなら」

「刀傷の怪我は数日もあれば塞がるので」

「見た目ほどはヤバくない。心配すんな」

「ヤバ過ぎだろA級冒険者」



 上位冒険者ともなれば生命力は折り紙付きだ。

 流石に「魔人」の再生とまでは行かないけど、深い傷でも血は暫くすれば止まるし、未知の呪いや余程の猛毒でもない限りは傷口も数日と十分な栄養さえあれば塞がる。



「ロシェロさん。左目、後でみてもらえます?」

「おけです。潰れてても治すのでご安心」

「よし」

「「なにが?」」



 この際ツッコミはフィリアさんとシン君に任せるとして。

 これ治せるなら康太の小指も早く治してあげたらと思うとして。

 それよりも、今は。



「アレって……本当に何なんですか? ニーアさん」



 決して嘗めていたわけじゃない。

 話を聞いたときから、この空間へ足を運んだ時から、ずっと得体のしれないものを感じていたのは事実だ。



 ―――或いは、確認したかったというのもあるだろう。



 だって……あれは。

 あの動きを、あの剣技を、僕は知っている。

 アスタロス・オーダーのような歪さの残る模倣ではなく、本当に完全な……。

 それも、最も強かった時の記憶と比較してすら、まるで遜色がない……或いは、上回る程に。



「製作自体は、それこそ数千年……漂白前と断定。この空間に用いられている技術と同様、かの機兵―――偽りの機神もまた、東の亜人が現代へ遺した遺物の一つとされている。最も、とある国からこの国へと譲渡される事になったのは、ほんの百年前程前であるがな」



 一応、偽りの機神との戦闘にあたり、機能面での幾つかの事前説明はあった。


 まず、起動について。

 あの鎧は内包した魔力を使い果たすと自然に停止する為、それまでの間攻撃を捌ければ生き残る事は出来るという事。

 先程のは、そういう事なのだろう。


 また、魔術攻撃の場合、非物理、物理に拘わらず術自体が内包する魔力を吸収される性質。

 これは非活性状態の時こそ強力に作用する為、動かない時を狙って遠距離から不意打ちなどしようものならむしろ相手のリソースを大きく増やすだけだと。


 そして、当然の権利のように一度与えた攻撃は学習される……。

 

 

 ―――ぼくがかんがえたさいきょうのロボットかな?



「……曰く。この機兵は、古の伝説に語られる、ある英雄の、全盛期の動きを再現した物とされています」



 ニーアさんに代わり、ランナさまが語る。



「伝説の中で、英雄は大いなる龍を……。神を―――殺したと」



 神を殺した英雄の模倣。

 そんなの、強いに決まってるわけで。


 けど、だとしたら。

 僕達が確信している事と合わせても、余計に意味が……。



「実際の所、偽りの機神が現在正常に保有している機能は、全盛期のほんの一部。その多くは機能を停止し、今に完全に沈黙してもおかしくない状態なのです」

「―――って。……は?」

「あれで壊れかけ……、ってコト……!?」



 今よりずっと強かったって事になるの?

 嘘だと言って欲しいんだけど。



「なぁ。壊れかけ、って事は……、まさか」

「その通り。現在絶賛暴走中だ。元々、偽りの機神には同種の魔道機兵を掌握する、統率個体としての能力があったようでな。アレを設計基にした兵団を一時期、完全に掌握されてしまった訳よ。はっはっはっはッ!!」



 成程、絶対笑い事じゃない。

 機械に反乱起されてるし。

 だから、この城には現在人があまりに少ないって話に繋がる訳か。



「……昨晩の出来事も、そうだ。突如覚醒状態に入った機神により、調整中だった部隊が一部掌握。我が一部指揮権を取り返したころには既に何かを探すように街中へ放たれ……」

「どうしようもないから、お前らを襲わせる事で市民に被害が出ないようにしたって話だな、実際の背景で言えば」

「―――シン君」

「俺が滞在を始めた時には既に何度か暴走しててな。そんな事じゃないかと思ってたんだ」



 ……成程。

 確かに、止むに止まれぬ事情ではあったわけだ。



「それ、充分言い訳になる話じゃないですか、ニーアさん」

「情状酌量の余地ありです」

「最初から言ってくれれば全然オーケーでしたよ?」

「……すまない。だが、ここ一週間程、特にその動きは活発的になっているのだ。まるで、君たちの来訪に呼応してでもいるかのように」

「言い訳終わったら責任転嫁です? ニーアさま」

「フィリアちゃん結構言うね……」



 僕達が襲われたことに怒ってくれてるんだよ。 

 まぁ、現代的に言うと、親機が子機のプログラムを書き換えてジャックしたまま、好きに操って何かしらを探そうとしているって事かな。


 本当に何かしらの目的があるならだけど……。



「「……………」」

「うん、なに?」


 

 どうしてみんなこっち見るの?



「……言い訳にしかならぬと、先の席で伝えたが。事実、私が兵団に与えた命令は、ごく単純。あくまで君たちの命に支障が出ない程度、民間への被害を最小限に留める程度の筈だった。だが、うむ……。その、リクくん」

「さっきさ? やたら狙われてなかった? お前」

「だよね」

「えぇ、そう思いました」



 ……どうしてだろ。

 本当に何で?



「―――ロシェロさん」

「妖精の血というのなら、私の方が濃いですし。勇者というのなら皆さんそうですし。リクさんだけのものとなると―――まぁ、お背中のその聖剣では?」

「デスヨネー」



 今となっても、僕の主武装は無銘の長剣だ。

 けど、当然神器たる聖剣なんか何処かへ置いて外へ出れる訳もないから、日中もずっと持ってるけど。



「……そう言えば、グロリア迷宮の石碑にも東の亜人の言葉が遺されていましたね。それを双方の共通点だとするのなら……或いは、元々偽りの機神は聖剣を護る存在だったのでは?」

「あ、そっか! ウェルナンさんが言ってたよね? 元々残骸再編には統率個体がいたのかもしれないって!」

「……それが、偽りの機神……っぽいね。番人だから、今も護ろうとしてる……、とか。暴走が活発化したの、丁度僕達が迷宮出てからの頃と重なるし」

「あとは、何か別のものと勘違いしてる可能性な」



 それは……どうだろ。

 けど、確かにそういう展開もありそうな。



「とにかく。このまま機神が機能し続けることにより、この国そのもの……或いは、大陸自体に大きな混乱が巻き起こる可能性すらあると私たちは考えたのです。ゆえに、皆様への依頼を」



 ……ようやくランナ様たちの意図が分かって来た。

 ここまでの疑問が氷解した感じだ。



「んで……その。ところで、それが聖剣にも匹敵するような武器の作成とどの辺で関りが……?」

「―――ククッ」


 

 康太の遠慮がちに見せかけたがめつい言葉に、ニーアさんが笑う。

 今度は作り笑いじゃなさそうでちょっと安心。



「天銀、真金、そして鉄晶……。更には失われし旧世界に合成されたであろう未知なる金属。壊れかけとはいえ、それらが変質する事はあり得ない。数千年が経った今ですら、我ですら途方もつかないような財宝の山なのだ、あの機兵は」

「……あ!」

「であるならば、ヒトにはヒトのやり方がある。そうだろう?」

「それって……」

「うむ。上位は愚か、最上位の魔術すら刻印できる可能性のある魔力を保有する下地。―――どうだ? 神をスクラップにして武器化するつもりはないか? 勇者キリシマ」



 ………。



「―――皆! やろう!! てかお願い! この通り……ね! ねっ!?」



 逡巡の一瞬もなく、そこには流れるように床に頭を擦りつけて土下座する康太の姿が。

 世界を救う勇者の姿? これ。

  


「無様すぎるだろ……」

「コウタさん。こんな……、どうして……」



 英雄に憧れ続けた少年と、勇者と運命の出会いを遂げちゃった女の子もこれには困惑らしい。

 救いを求めてる大陸の人たちには絶対に見せられないね、コレ。


 でも、これはこれで康太らしいし……。

 それはそれとして、無様すぎるから早くやめて欲しくもある。


 

「あれ親友でしょ? どうにかして」

「春香の彼氏でしょ? どうにかしてよ」

「全てが見苦しいです」

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