第2話:上位冒険者の武器、大体業物説
造る人、使う人によって、全く別の世界が存在するのが、武器というもの。
それは、本当に多種多様。
数多くの回答が存在して。
最もメジャーな剣だって。
短剣、直剣、長剣、大剣……直刀に太刀に打ち刀、脇差。
呼び方が異なるだけの場合も含め。
エトセトラ、諸々で。
更に、同じ武器でも。
その人独自の重量や、持ち手の材質、太さ等への拘りが必ずある訳で。
「―――やっぱり、格好良い……!」
「ね。美緒ちゃんの脇差はヤバいけどさ? 先生の長剣も、結構凄いよね?」
「どう見ても、大業物だよなぁ」
「はい。煌びやかな武器とは、また違った雰囲気がありますよね」
―――何をしているか……?
一言で言えば、盗み見。
先生が宿を空けているのを良い事に、皆で押しかけ。
壁に立て掛けてあった彼の武器を拝見している所だ。
……というのも。
食事の後は、鍛冶屋に行こうという話だったから。
今回は買取とかじゃなくて、整備。
研いでもらったり。
点検して貰う訳で。
僕たちが持っている武器は、既にRPGで言う、中盤以上の性能があるものだろうし。
実際刻印されている術式も込みだと、値段の付けられない代物だったりするけど。
それでも、やっぱり。
劣化しない訳じゃないから。
定期メンテナンスは必要で。
「凄いって言えば、春香の短剣だって凄いじゃん」
「―――ん、コレっす?」
「「ソレっす」」
「宝物庫に納められていた……宝剣、ですかね。来歴は聞いていなかったですけど、今思えば尋ねておくべきでした」
春香は、白兵を担当しないから。
意識する事はほぼ無かったけど。
クロウンス王国の一件で入手した武器。
春香が持つ短剣は。
光に当たると、薄く――紅く輝いて。
およそ一般的ではない素材を用いている事が伺える、ナンカスゴイ武器。
だけど、何かね。
「………康太。何か、ズルいよね」
「………まぁ、確かに」
美緒の【二輪刀シュトゥルム】然り。
春香の紅刃の短剣然り。
女性陣ばかりが。
凄い武器を手に。
僕ら、ロマン勢な男の子たちは。
武器という世界の素晴らしさを知りたい若者たちは、どうにも、歯がゆさを隠しきれず。
「へっへっへっ……残念だったねェ」
「すみません。借り受けた物が、偶々、使用武器と合致したので……」
「くっ! 店売りなめんなよ!」
「すっごく使いやすいし、壊す心配しなくて良いんだからね!」
今現在の僕の愛剣は、通商連邦で買った物で。
銘を、ソリッドソード。
元々、“堅牢”の魔術刻印が施されており。
剣の柄へ魔力を流す事で、瞬間的な強度を劇的に向上させることが出来る。
そう、強度が特徴の武器で。
もう、かなり長い付き合い。
僕にとっては相棒と評しても良い、手に馴染んだ武器なんだ。
……………。
……………。
でも、やっぱり。
先生が使っている剣みたいな、凄い業物が手持ちにあっても……。
「―――ただい……ま……?」
「「あ」」
浮気ではないけど、ちょっと心が
全く気配無く。
家主が、帰ってきてしまって。
先生が言葉を詰まらせるのも当然。
ここは彼の泊っている部屋で、僕達が中にいる筈はないのだ。
「くっ、見つかったか……!」
これは、やるしかないと。
僕は、仰々しく口を開き。
「どうしやす? 姉御」
「ふっふっふ……! 見られてしまったのなら、仕方ない。やっちまえ、ものども!」
「「おらッ、大人しくしろ!」」
示し合わせもなく康太と春香が合わせ。
僕達は一斉に飛び掛かる。
けど、悪い大人とはいえ、A級冒険者。
狭い空間でも、流石の身のこなしで。
「―――ふっ、予測済みさ!」
「「……………ッ!」」
「三人が襲い掛かってくるのなんて、分かり切った行動では―――」
「大人しくしてください、先生」
「――ミオ――ッ!? 君までこんな事を―――恥ずかしな―――やめて! 乱暴しないで!」
不敵に笑う先生や、しかし。
僕達のみ警戒していた彼は。
背後から自然に近付くもう一人の仲間の奇襲を受ける事になり、そこへ僕らも加わり。
どたどた、バタバタ。
縄が飛び、布が飛び。
……………。
……………。
「―――さぁ、四人共。大人しく、説明してもらおうか?」
……………。
……………。
たちまち
コロコロと、抗議を開始する。
けど、状況分かってるのかな。
「……この人。どうして、こんなに偉そうなんだろうね」
「立場逆じゃね?」
「その姿じゃねェ」
「全く怖くありませんね」
「やかましい。そもそも、人の私物へ勝手にお触りしたり、襲ったり、縛り上げたり……。一体どういう育て方をしたのか、教育者の顔が―――」
所謂ブーメランだし。
漏れなく、今まで彼がやって来た事に刺さっている。
「というか。縛り上げられた人に、態々説明する義務があるんです?」
「生殺与奪を握ってんのはこっちなんすよ?」
「………確かに」
「分かったなら、先生はそこで大人しく……」
「わかった。じゃあ、今から、ナクラ先生の関節脱出ショーを見せようか?」
「「訓練なんです―――ッ!」」
「なら、許す」
彼のどうでも良い武勇伝に度々出てくる、関節関係の話だけど。
絶対に見たくないので。
僕達は同時に説明する。
便利な言葉……訓練。
こう言えば、彼は勝手に納得してくれるし、説明も楽で良いんだ。
「皆さん。満足したら、行きましょう?」
「「はーーい」」
いや……本当に。
むしろ、何で訓練で納得するのかな。
◇
カンッ――カンッ――カンッ――。
カンッッ――カンッ――カン……。
聞く人によっては、耳を塞ぎたくなるような断続的な金属音。
そして、音と同時に店の奥から漂う熱気。
まさしく、
壁沿いには幾つものショーケースが並び。
インテリアの如く設置された巨大な石製の研磨機からは、強い金属臭を感じることが出来て。
「「……………」」
「皆? 今日はそっちじゃないよ」
今や、行きつけとなった鍛冶屋の店内へ踏み入った僕らは。
大人が呼び止めるのも聞かず。
お菓子、玩具売り場へ走る子供のように、真っ直ぐ販売コーナーへ突撃。
僕と康太は当然だけど。
ここまで来れば。
美緒も春香も、武器へ対する独自の興味や魅力を感じているようで。
「キラキラ……新しい投げナイフ……欲しぃなぁ……」
「サブウェポン欲しいな……」
「この刃紋、凄く綺麗です……」
「おーーい? ちゃんと引率の話聞いて? 全員、武器の買い付けは、まだ大丈夫の筈だよね?」
いや、もうちょっと、もうちょっと……。
新品の武器などを眺めていると。
いつまでも時間を潰せそうで。
子供ながらに、大人が新しいゴルフクラブを欲しがる欲求というものを理解したようで。
「良い事なんだろうけどさ? 最近は、本当に武器壊れないんだよねーー?」
「技術の向上ってやつだろ」
「その通り。随分長持ちしている気がするのは、皆の戦闘技能が向上しているからさ」
「―――まぁ。それでも、ミオ。君の物持ちの良さは異常だけどね?」
「有り難うございます、先生」
最早、駄々っ子たちを動かすのを諦めた大人の言う通り。
その圧倒的鋭さに反し。
刀の耐久というものは……低い。
なのに、美緒は。
彼女の装備もまた、通商連邦で僕が弁償した時の物―――ミカヅチという刀。
ここ迄長く使い続けられるのは。
本当に、彼女の技術の高さ故で。
「そうです。―――先生は、どうなんですか?」
刀の刀身……刃の紋様を眺めていた彼女は。
褒められたことにお礼を言うと、そのまま思い出したように振り返る。
「ん……? 何がだい?」
「その長剣、いつから使っているんですか? それに、“浄化”も施されているみたいですけど。どちらの聖女様から?」
……………。
……………。
気になる事は、すぐに調査する。
降って湧いた疑問への知的好奇心を、知識欲旺盛な彼女は抑えきれないらしく。
尋ねられた先生は。
遠い目をしながら、腰の長剣を撫でる。
「これは、ずっと昔―――あぁ。昔に、ある男に打って貰った剣だ」
「むかし……ですか?」
「そうだ。銘は、付けていないけど……今思えば。命名してもらうべきだったと、後悔している。手元に戻って来てから、ずっとね」
そのまま、彼は話を続けるけど。
いま僕が気になったのは、先生の言う昔って、本当にいつなんだろうという事で。
「―――ともあれ。武器を買い替えるのは、もう少し先で良いだろうね」
彼の、特に実もない……。
いつもの、煙に巻くような長話が終わる頃。
春香と康太も、ようやく満足したのか……はたまたお金が足りない故に仕方なくか。
スゴスゴと戻ってきて。
当初の目的を果たす為に。
店のカウンターへ集まり。
「んじゃ、見直しの代金を―――先生、お願いしやす」
「え……?」
「あ、そだ。店員さん? 追加で二等級の油ください」
「あいよぉ」
「砥石の粉も、そろそろ切れそうなので。三袋程頂けますか?」
「ほいほーい」
「んじゃ、備品代と点検費が―――占めて、この額。……纏めての注文だし、オマケしてこんくらいだ。お大尽様さん、支払いは?」
「………一括で」
遠い目をする大人が、渋々支払いを終わらせるのを見届けると。
「「有り難うございました!」」
「あいよぉ。明日の朝には新品同様にしといてやる!」
僕達四人は、陽気な声に耳を撫でられつつ、店を出る。
趣味以外には節約した子供たちに変わって、全部払ってくれるし。
本当に、大人って頼りになるよね。
「せんせー。この後、どうします?」
僕と同じく気分が良いのか。
斜め前をスキップする春香が、器用に後方を向きながら、そちらにいる先生に問いかける。
武器を預けてしまったから。
今日依頼に行く事は無いという安心も大きいのだろう。
「……明日の依頼に備えて、今日はゆっくり休むとしようか」
「やった!」
「どっか行こうぜ!」
「では、出かける前に。装備の点検と手入れもしておきましょう」
「そうだね。足りないモノ買ってかなきゃ」
自由な時間に、更に気分を良くし。
皆で、今日と明日の予定をすり合わせるけど。
正直な話……休日でもなきゃ。
本当に、やってられないんだ。
前回の依頼は、一度に三件受けて。
帰って来るまでにも三日掛ったから、実質一日掛けて一つのペースだったし。
B級に上がった事で受けれるようになった指名依頼は、凄く大変で。
簡単に街へは戻って来れず。
曰く、一件受けたら十件は受けさせられると思え。
それが、先達である大人の言葉。
本当に、酷い話で。
冒険者の家族がいる人は、大変だろうな……と。
「―――そういえば、先生? さっき、ギルドに寄ってきたんですよね」
「あ、そだね」
「んじゃ、もしかして。既に依頼の内容聞いてたり……?」
「勿論。既に幾つか、良い依頼を見繕ってきたとも」
流石に熟練の冒険者。
段取りに無駄がない。
「幾つか……と。今回は、何の依頼なんですか?」
皆、興味あるし、早速美緒が尋ねるけど。
「仕返し―――おっと。皆の成長のために、沢山受領してきてあげたんだ。感謝してくれたまえよ」
「「……………ぇ?」」
「自然発生のオーガ討伐、大量発生のアングィス種、ホーネット種駆除、一番厄介な、大きめのアリさん討伐……」
今日の彼は、随分と大人しかったから。
これ幸いと、皆で甘い汁を吸い続けていたわけなんだけど。
ちょっと、甘過ぎて。
今更、頭が白くなる。
この悪い大人が。
あの先生が、やられっぱなしでいる筈がなかったんだ。
「―――先生。それ、全部で何件あるんですか?」
「沢山」
「もう一度聞きますけど……一度に?」
「そうだけど」
「……………あ。そだ……! もしかして、その中から選択式で―――」
「私が押し付けられていた依頼―――ゴホン。特別に、無理を言って、そこを何とかと、別の所から依頼を
「「はい、あくま」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます