第1話:A級夢じゃなし……!?
―陸視点―
大陸中央国家セキドウ―――更にその中央区。
交通の要所に位置する性質だろう。
一日おきに全く異なる顔を見せる雑貨、食品……それらを収めた仮設店舗が軒を連ねる大通りは、町人や冒険者らといった活気に溢れ。
人々の行き交う様子が見下ろせる窓。
グレードの高い宿屋……その二階で。
僕たちは、顔を顰めていた。
エルシードから帰還して一か月ほど。
大陸議会まで、まだ期間はあるけど。
取り急ぎ、今すぐ。
僕達四人がすべきことは、たった一つ。
「「せんっっ―――せええぇぇぇぇぇぇぇ―――ッ!!」」
そう、悪い大人へのお仕置き。
それ以上に大切な事など無い。
「どうかしたのかい? そんなに怒ったような顔をして」
そりゃ、怒りますよ。
「さっき、僕達の訓練中に、反射板で目潰ししてきましたよね……!」
「ヤジも沢山飛ばして」
「気が散るって言ってるよねぇ!」
「マナー悪いサポーターかっての! 悪い大人日本代表が!」
訓練だって、危ないんだ。
危険性は充分にあるんだ。
それを一番知ってる人が。
キラキラキラキラ……ずぅーーーっと、鏡で妨害ばっかりして来て。
「そこは、ほら? 危なくない範囲で実戦に近いイレギュラー演出を……と」
しかも、まるで悪びれない。
本当に悪い大人だ。
どれだけ
「更に上位へ到る為。その為には、どんな状況でも取り乱さない精神力が求められる。コレも、訓練なんだ」
「……凄く、凄く、酷いです」
「更に上……A級、ねぇ?」
「こんな風な冒険者に成長するなら、あたし達はB級のままでいいんでない?」
確かに、その通りだ。
先生の言葉にも、或いは一理あるのかもしれないけど。
今の僕たちにとっては。
春香の言い分こそ、最もで。
こんなA級にはなりたくない。
「―――とは、思う……けど。それはそれとして、A級は格好良いし……ねぇ? 康太」
「それはそう」
「陸君? 康太君?」
「………ねェ、おバカコンビ?」
「流石は、ロマン勢。―――ただし……! A級冒険者になるには、それ相応の実績が必要だ」
何を為したかという実績。
その冒険者に、一生付いて回る称号。
この世界には、ステータスとか、レベルとかはない。
ギルドへの登録に、魔力測定とかも無いし。
登録に当たって、危険で難しい試験もない。
けど、その代わりというべきなのかな。
どれだけ実力があっても。
飛び級できるのはF級――所謂、仮発行くらいだし。
E級冒険者でいる期間は、それなりに長い。
……………。
……………。
冒険者の指標としては。
F級とE級が下位。
入れ替わりの激しさゆえ、冒険者全体の半数がここに該当して。
駆け出しであるF級で
D級とC級は中位。
ここまでくれば、充分に一流。
C級なんて、一般的な冒険者が生涯で得られる一番の地位だし。
武器の扱いも免許皆伝と言えるレベルの実力者で、弱い魔物なんか歯牙にもかけない。
無論、食べるには困らず。
街中での喧嘩など、負けなしだし。
ごく小規模な山賊拠点くらいなら、一人でも潰せる。
B級とA級は、上位。
一流を超えた、人類の行く先。
才能の壁を越え、限られた者しか踏み入れられない領域だ。
武器や魔術を扱う才能。
或いは、固有の魔術。
……どれ程血を吐いても上を見るのを諦めないというのも、一つの才能。
何か一つでも、力を有して。
磨き続け―――やがて至る。
B級ともなれば。
用心棒には引っ張りだこ。
引退したとしても、再就職の先には絶対に困らない。
そして、A級は……怪物。
依頼だけでも、国家から受けられて。
国への就職も好待遇で受け入れられ。
しかし、独自の人生観を形成するに至った事から、国防の門を叩く事は少なく、大国でも数人召し抱えられれば御の字。
村からA級を一人でも輩出すれば、それだけで末代まで自慢話に出来る。
……………。
……………。
「上位冒険者は、まさに英雄。少年少女の夢―――だが……」
「冒険者というのは。結局は、行き場のない連中の掃き溜めでもある。無論、若い子の大半は、英雄に成りたい、尊敬されたい、なり上がりたいという野心から行動を起こすが。真に大切なのは……」
「才に
「常に努力し続ける」
「他だけでなく、自をも尊重し」
「夢だけでなく、その現実をも教える必要がある……ですよね?」
これで、彼は導き手だから。
教訓のようなモノは、耳にタコが出来る程聞いていて。
先を引き継いだ僕たちに。
彼は、満足そうに頷いて。
そのまま、話を続ける。
「じゃあ、理解ある優等生さん達に質問だ。ギルドでもあまり聞かないだろうけど……A級冒険者へ到る条件とは―――何だと思う?」
「はい、はい!」
「ハイ、コウタ」
「めちゃくちゃつよい!」
「はい、赤点」
「―――むむむぅ……? 例えば……竜狩りさん、とか?」
「それも、一つの指標だね。平均点だ」
賑やかしの回答は元気組に任せ。
彼の指標という言葉に対して、僕はちょっと真面目に考えてみるけど。
以前討伐した【
アレは、単体でA級の怪物だったという。
それを皆で連携して。
康太と新技も出して。
春香が足止めした後、最後に美緒が決定打を与えることで、何とか倒す事が出来た。
けど……。
自分たちの力だけで出来たかと言われれば。
ちょっと―――かなり、疑問が残るもので。
「竜狩り……は、僕達だけの力ではなかったし」
「翼をどうにかしてくれたのは、リディアさんたちでしたからね」
「うーーむ、それな」
「アレも。実績といえば、充分な物なんだけどね。それでも、ギルドからすれば、ちょっと納得がいかないものだったらしい」
彼曰く、組織も一枚岩ではなく。
冒険者ギルドの頂点に立つ人物。
それは、確かにリザさんなんだけど。
未だに過去のしがらみや、派閥争い。
後は、理事の権限を持っているセキドウの権力者さん達が、それぞれに利権を狙っているとかで。
出来れば関わりたくない。
なんて、思おうものなら。
「―――あぁ。勿論、四人は目を付けられているよ」
「「……………」」
「あれで、ギルドも強欲だからね。前にギルドの正式な職員は皆実力者揃いだって話はしたと思うけど、可能ならば勇者だって取り込みたいと考えている」
「―――常にね」……と。
先生の言葉に、僕たちは固まって身震いする。
最低でも、一流とされるC級。
そんな人材が、冒険者ギルドには沢山務めていて。
雑務を担当する人とか。
雇われの人々だとか。
そういう人も沢山いるだろうけど。
正社員というべき存在達は、例外なく元冒険者の上澄みばかりとかで。
ギルドそのものが、強大な軍事国家をも凌駕する戦力。
何処の国も敵に回したくない訳だよ。
「んで? せんせーー。大国でも数人いないと言われるA級様になるには、どれくらいの実績が必要なんすか?」
難しい話に飽きたのか。
当初の疑問を持ってくる康太。
それに対し。
先生は、問題なのを忘れたように朗らかに返す。
「通常の点数に加えて、目に見えて大きな実績が必要になるね。色々と手段はあるけど……例えば、何らかの闇組織を壊滅させるとか、単身で街一つを救うとか……」
「なにそのスーパーマン」
「人間のやる事ではないですよね?」
竜狩りもそうだけど。
やってる事が、アクション映画そのものだ。
スパイアクションなら、まだ良い。
隠れて親玉をどうにかするだけだ。
でも、彼が言っているのは―――壊滅。
スニーキングじゃなくて。
暗殺任務とかでもなくて。
文字通り、組織を粉々に粉砕し、二度と立ち上がれないように完膚なきまでに滅する仕事だ。
―――正気の沙汰と思えない。
「………あの。先生も、やりました?」
「ひ・み・つ」
「……うわぁ、やってるわ」
「やってますね」
「やってない訳ないんだよなぁ」
あぁ、これはやってる。
二つ、三つじゃないよ。
少なくとも、
昔にも、宗教団体を一つ。
伝聞だけでも、コレだ。
個人でも幾つかやってるんじゃないかな。
楽しそうに答えた彼へ、皆で白い視線を向けていると。
―――くぅ……と。
誰かのお腹が空腹に鳴る。
とても可愛らしい音だね。
「うん。訓練の後だ、お腹もすくだろう。今日は、外食しようか?」
「奢りっスか?」
「君たちには、自分のお金が」
「奢りィ?」
「……私の教育方針としてはだね」
「奢り、ですよね?」
なんて
◇
グラスバードは、西側に広く分布する。
元は渡り鳥だったらしいけど、羽が硝子のように脆い事から飛行能力を失った残念家畜さんだ。
皮付きのコーン擬き――5本。
植物の正式名はポッポル。
軸を中心に無数の粒が付いている植物で。
焼き過ぎると粒が弾けて消滅するけど、適正な焼き時間を通すと、果汁弾ける絶品おやつに、粉にすればパンにも出来て。
子供も大好きなお手軽甘味。
メインは、ジャガイモによく似た植物のグラタン。
食べた感じは、フリコ。
根菜に近いらしく、やや土臭さが目立つ性質を、濃厚チーズで上手く誤魔化し。
エスニック感の強い調味料で纏めた逸品。
それを、大きな木製バットで2個。
飲み物は別として……都合、三品。
鳥の丸焼き二羽と、コーン五本と、大盛りグラタン二つ。
皆で仲良くつつく?
否、これが一人分。
食べる……食べる。
それでも、まだまだ入るお腹。
美緒に次いで小食の僕がこれなのだから。
見た目に似合わずよく食べる春香と、元より大食いの康太なんて、目も当てられず。
しかも、外食なんて。
セーブする理由が、そもそも存在しない訳で。
「―――んぐ……モグ……んっ。……先生、何やってるんです?」
モリモリ食べる僕達の横では。
先生が袋を取り出して。
ジャラジャラ出てきた銀ピカの小銭を数え始める。
彼の前には軽い食事しかない。
「……見て分からないかい? 会計が足りるか見てるんだ」
「ゴチになりやっす!」
「まーーす! ―――あ、店員さん。丸焼き二個―――三個追加で……!」
「うい、畏まり~~」
「……ハルカ。太るよ?」
「いや、その分動くんで」
払う大人って、大変だよね。
彼自身は余り食べないのに。
うーーん。
……まだ足りないな。
僕も、グラタンとコーンお代わりしよっと。
「先生は、今日も小食なんですね?」
「酒が動力なんだろ」
「そうかもしれませんね……えぇ。店員さん? この、デザート。季節のプリエール風をお願いします。―――二つで」
「かしこま~~」
「―――ミオ……さん?」
「何ですか? 先生」
「……いや。何回か話した覚えがあるけど。昔は、私も。野営の食事をよく作ってね」
「一人旅です?」
「ぼっちじゃないよ。行きずりだった人と鍋を囲むこともあったし、仲間とだって闇鍋大会を開いたものさ」
先生は、実は料理が出来て。
しかも、かなり上手なんだ。
教国にいた頃も作ってもらったし。
野営でも、偶に腕を振るってくれたりする。
「見た目だけ大雑把だけどね」
「こう、目分量でザバーー、とか。ザザザーー、とか。あんな風に作ってんのに、よく旨くできるよな?」
「目分量っていうのは、ちゃんと知ってる者がやれば、適正量にしかならないからね」
適当に入れてるわけじゃなく。
ちゃんと、量を分かっているからこその、目分量らしい。
「あっちで議論されていた問題と同じ。女だから料理しなければいけない訳じゃないのと同じで。男だって、料理はする」
「……というか、女性でも。料理させちゃいけない時だってあるんだよ。そういう手合いは、何故か絶対の自信を持っていて。しかも、味見をしない」
「「何だ、春香 (ちゃん)か」」
「―――いや、あたしはセーフでしょ! マズくないでしょ……!」
そう。むしろ、そこが問題なんだよね。
何故か、味見しないし。
何故か、自信たっぷり。
しかし、実際に食べてみると悪くはないけど、うん。
そこまで美味しい訳でもない。
何処か温かいけど、普通の味。
記憶にも残りにくい味だ。
「さぁ、食いしん坊さん達。食べ終わったら、次は鍛冶屋だ。直行―――」
「「御代わりィ――ッ!!」」
……………。
……………。
「直行、ですか?」
「宿屋……。戻ります?」
「……………あぁ、一度帰ろう。私はギルドにも寄って来るよ」
財布が
お金おろしてかないとね。
……………。
……………。
((それで、装備の見直し代も払ってもらおう……!!))
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