第41話:超越の権能




「……………クソッ―――かっった……ッ!!」



 魔術と剣術を併用し。

 立ち塞がる神様モドキへ、何とか食い下がるも。


 未だ、明けぬ戦闘。


 あぁ、紛れもなく。


 コイツは……規格外が過ぎる、と言うべきか。



「――成程、化け物だな……! 神様名乗るだけはあるっ!」



 魔王ラスボスの実力を知る暗黒騎士から言わせてもらえば。

 確かに、コイツは裏ボスを名乗っても良い存在だ。


 巨体であるのに、隙が無い。


 強大であるのに油断が無い。


 焔の息吹は烈火の如く。

 動きは風のように早く。


 かつ、水のように流麗。

 鱗は大地そのものを相手取るかのように堅牢で、城塞などの比ではない。


 大厄災、そのもの。

 本当に、大地――自然そのものを相手しているようで。


 唯一の救いは、こちらの速度。


 俺が、ヤツよりも速いという点。



『ちょこまかと、逃げるか……!』

「死神に追い付かれたくないからな。脚力だけは鍛えてんだ」



 ……そう、逃げ回る。

 叩きつけられる巨腕、火炎放射、一番ヤバい熱線から、無様に逃げ回る。


 不死身だと分かっている以上、狙いは一つ。


 ちょろちょろ逃げ回り、回避し。

 隙を見て、剣を叩き込みたいが。


 流石に、奴も警戒していて。


 身体へ近付かせてもくれず。

 必殺の一撃を繰り出すには、何とかして勝機を生む必要があるだろう。



「――わぉ。その踏みつけ、当たったら即死―――あっぶなッ!」

『小賢しい……!』



 何度も振り下ろされる巨腕。


 踏み潰すのは難しいと理解したか。

 しなやかに伸び始めた両翼から、風の刃が霰と飛散してくる。


 その速度は、目で追うも難しく。


 余程、風より速い奴が嫌と見る。


 

「あぁ、悪い。逃げは、お気に召さなかったか……?」

『去ね……去ね……去ね……!』



 軽く数百はある風刃を避けんと、地面を踏み抜き。

 空中へ飛翔し、回避を行うモノの。


 流石に、相手は神様(仮)


 放たれた無数の刃全てが。

 意思を持つかのように別々の軌道を描き、俺目掛け、空中へと追尾してきた。


 どれだけの並列思考と、精密操作性だよ。


 最上位の術者でも無理だと思うぞ、ソレ。



 このままではミキサーだが。

 


 ―――しかし。

 足場が存在しない故、回避行動も難しいか。



「逃げが嫌いなら、もっと良いのに変えてやる―――“紅焔”」



 空中で魔術を展開し、魔皇龍へと放つ。

 発生した反動を利用して、緊急回避……相手の斬撃波は宙を裂いて拡散する。


 逆に、俺の攻撃は弾着。

 龍の肩口から入った獄炎の槍が、鱗を撫で、今に開花せんとする純白の飛膜を貫いた。


 ……だが、まだだ。


 まだ、終わりじゃない。



「―――冷やせ、“雲蒸龍変”」

「……………!!」



 身を翻して着地する瞬間。


 再び、上位魔術を行使し。



「―――グオオオオォォォォォォォ―――――ッ!!」



 奴が放つは火炎放射。

 真っ直ぐ相殺しようという腹なのだろうが、残念。



「操作するタイプの魔術なんだよ、それは」



 水で形作った龍を操る。

 

 とぐろを巻かせる。


 炎の一撃を、曲線を描くように回避させ。

 そのまま、何千年生きているかも分からないような爺さんへ、超高密度の冷や水を浴びせかける。


 この魔術の特性は、吸収と増大。


 相手の魔力を簒奪さんだつして肥大する。


 およそ期待してないが。

 魔力欠乏……なってくれんかな……?



 ……………。



 ……………。



「―――あぁ、いや。そこまでは予想外」



 際限なく巨大化する水龍は。

 やがて、ヤツの膨大過ぎる魔力に耐えきれなくなったか、膨張し、爆散。


 最上位の魔物は、保有魔力も桁が違うが。


 あれ程バンバン熱線打って、まだあると。



「―――お前、どんだけ持ってんだよ」



 焔の熱と、水の冷却。


 急激な温度変化で、堅牢な鱗を弱体化させたいという考えもあったが。

 僅かなひび割れも、すぐ回復し。


 そもそも、殆ど効いてなくて。



 ……魔術は、ほぼ効かないと。



『小癪、小癪、小癪な―――ヌゥ……ッ!?』



 確認次第、生成した槍をブン投げ。

 焔の貫通から再生しかけた翼の根元を、しっかりと引き千切る。


 直接の攻撃でない故。


 やはり効果が薄いが。


 血をしこたま入れてある分、そう簡単に完全復活とは行かないだろう。

 時間稼ぎには充分だ。



『―――眷属―――貴様………っ!』



 奴も、その違和感を改めて感じてきているのか。


 憎々しげに俺を睨み付ける。


 いい気味ってやつだろうな。



「お前も、地に足付けて歩いてろ。少しは、定命の気持ちが分かる」

『……………!』

「そんな顔で見るな。怖いだろうが」



 俺もそうだが、奴も大概苛立っている様子で。


 巨大な両腕を叩きつける。


 尾を振り回し、激烈な衝撃波を発生させる。

 今に、俺を潰し、消滅させんと――跡形も残すものかと、烈火の焔が放出される。

 


「オーライ……オーライ……」



 ……………。



 ……………。



 あぁ、その位置……今だ……っ!



「四散しろ、“総爆”ッ!!」

『―――ヌッ……ゥ! ヌウウウゥゥゥゥゥ!?』



 瞬間、奴の放つ熱線とは別種の閃光が視界を覆い。

 巨大な衝撃と、熱風が頬を撫でる。


 総爆は、無属性に類する戦闘魔術の一種だ。


 修得こそ簡単だが。


 威力は上位並みで。


 ユニークな最大の特徴としては。

 その攻撃範囲と威力は、術者の保有している魔力に依存するだという事。


 仮にサーガなどがやれば。

 大した威力にもならんが。 

 膨大な魔力を保有するイザベラなどがやった日には、都市が吹き飛ぶ。



 ……自爆攻撃であるという事は。



 当然、遠隔攻撃は出来ぬ筈だが。



 戦闘開始の刹那から、何度も何度も投げ続けていた魔力槍。

 あれには、俺の血が入っていて。


 所謂、形代というやつだ。


 純粋な魔力の塊である槍。

 そこへ血を吸わせておくことで、魔力と血液を宿した疑似的な生命と定義し、本来は行えぬ“総爆”を行使する。


 強引だが、かなり有効な手で。

 血液を力の根源とする、最強の吸血種の眷属だからこそ可能な技。



「――――――いまッッッ!!」



 そして、発生した爆発の煙に紛れ。


 俺は、魔皇龍へ一直線に疾駆する。



「―――第二プレゼント、ネズミ花火……どんな気分だ……?」

『小癪である……! その程度―――ッ!?』



 技の威力こそ、上位並みの総爆であるが。


 この化け物を相手に。


 その程度の術攻撃が。


 命を刈り取るに充分な決定打足り得る筈は、決して無く。



 ……しかし、まぁ。




「―――決定打――その隙を作るには、十分過ぎるだろう?」




 何故、槍は地面に刺してあった?


 何故、いま発動させた?


 答えは簡単だ。

 奴の足元で術を爆裂させ、あわよくば転倒――それが無理でも、バランスを崩させる。



 大地には、巨大なクレーターが発生し。



 奴は、巨体ゆえに足を取られて。


 バランスを大きく崩してしまう。


 それだけで、充分。

 技を叩き込むには、充分過ぎる成果と言えて。



『―――――ッ!! 貴様ッ!?』



 これが、俺の切り札たる一撃。


 お前を殺す為の、ジョーカー。



「終わりだ―――魔刻……ッ!!」



 仁王立ちを決め込んだ腹を斬り裂き。


 破壊の因子が、体内へ送り込まれる。


 龍のどす黒い血が溢れ。

 俺の装備を濡らすと共に、確かな手応えと確信を伝える。



「主人の無念だ。よく、味わえ……!」

『……………ガアアァァァ……ッッ!?』



 情けな過ぎだろ、信者辞めます。

 咆哮と同時に頭へ響く、神様擬きの巨大な悲鳴。


 それと同時に。

 俺自身も、身体が悲鳴を上げて。


 アドレナリンが鳴りを潜め。


 身体の軋みが、戻ってくる。



「…………ッ……ッ……流石に、使い過ぎた……か」



 短期に使い過ぎたせいで。

 一時的な魔力欠乏が身体を駆け抜け、何度も咳き込み。


 吐血し、片膝を付く。

 剣を支えに、何とか踏み止まる。



 脱力感から、その場へと。


 

 座り込もうとした、瞬間。


 

 ……龍の返り血が。

 身体へ浴びたそれが、虚空へと吸い込まれていった。




   ◇




 ……………。



 ……………。



 ―――は……?



 いや、待ってくれよ。

 今の感覚は、何だ……? 一体、何が起こった……?



 何故――奴の血が………ッ!?



 思考を一時放棄し。

 最大の力を持って、身体を大きく捻る。



「――――ッ………ぐ……ぅ!」



 次瞬、二度目の衝撃に。

 すぐ、思考を切り替えざるを得なくなり。


 俺は、全力で後退。

 

 懐へ深入りし過ぎた対価か。

 肩口から先がなくなった左腕へ止血の魔術を行使しながら、フル回転でその現象を分析する。

 

 ……分析、するが。

 結論は、考えたくもない結果で確定だ。

 

 捌かれた腹部の傷もなく。


 両翼こそ、破損してるが。


 未だ健在でそこに存在している化け物へ、俺は言葉を投げかける。



「……おい。再生――じゃ、ないよな?」

『貴様は、我が力を超えることは出来ぬ』 



 俺の攻撃は、確かに奴の命へ届いた。


 神様擬きの核を、破壊した筈だった。


 だが、その後起きたのは。


 まるで、コマ送り。


 俺の見ている前で。

 龍の身体へ血液が吸い込まれ、刻まれた一文字が、瞬時に消え―――塞がり。



 方々へ飛散した血液は、全て消失していて。

  


 ……………。



 ……………。



 唯一の候補があるとするならば。



「まさか、だろ?」



 ……………。



 ……………。



 時間を操作し、巻き戻した……と?


 それが、奴の再生の正体なのか!?



「反則だろ、ふざけんな……ッ! マジで、神様気取りか、テメェ!」



 嘘だと言って欲しかった。

 ただでさえギリギリの勝負が、振出しに戻ってしまった。



 ―――時間操作。



 その力は、不可能ではない。


 そう、不可能ではないのだ。


 無限にも思わせる、膨大な魔力。

 それを組み上げるだけの並列思考と、能力。

 数多の課題が存在し、最高の術師集団たる魔導士団でさえ研究を放棄したような、馬鹿げた神域の存在であるが。


 

 間違いなく、目の前の敵は。



 その能力を、行使している。



『―――我が権能は、ただ時を支配するだけに非ず』



 そして、畳みかけるように。


 或いは、ここにきて。

 初めて俺の事を、脅威―――己の敵であると認識したのか。



 魔皇龍が、動きを変化させる。



 奴の巨躯が、眩い閃光を放つ。



 額から脂汗が流れる。


 最早、何が起きても不思議ではないと。

 瞬き一つせず、奴の一挙手一投足から目を離すまいとする。 


 だが、別に。

 何も、起きない………?



「……身体を光らせただけで、何か変わるのか? 今時、玩具にだってそんな機能はあるが――通販で買ったのか?」

『去ね、黒の眷属』



 極光は、絶えず辺りを照らす。


 何度も、視界で影が揺らめく。 


 そんな中で。



「――――ッ――ァ……う……っぷ」



 せり上がる物を感じ。


 次瞬、俺は吐血した。



「―――ァ……グ……ぅぅぅぅぅ……ッ!」



 その不可思議といえる現象を。


 敢えて言うなれば……放射線。

 そのヒカリを浴びただけで、生物は急激に死へ向かって行くという物質。


 俺自身、元地球人だが。


 只の一般人だった身だ。


 そんなモノ。

 一回たりとも浴びた事などないが。



 しかし、これは……まるで。



『我が権能は、表裏一体。光と、闇――清濁せいだく併せ持つ力』

「…………ッ……クソ……!」

『たった一度我の魂魄を傷つけた程度で、つけ上がるな、定命』



 魔力の流れを読んで。


 ようやく、理解した。


 この力が何であるのか。

 その出所を、これ迄の様々な経験と照らし合わせて、理解した。



 ―――あの、馬鹿でかい双角か……ッ!


 

 そのヒカリは、まさしく“浄化”


 そして、フィーアの聖剣と同一。

 

 成程、確かに。


 それは、神の権能だ。

 今迄に受けたソレ等の攻撃が可愛く思えてくるような、圧倒的上位互換だ。


 身体中が動作を拒絶して。


 立ち上がる事すら危うく。


 剣を支えにする俺だが。

 そんな俺の眼の前へ、何かが放られるようにして落ちる。

  


『返してやろう。それを土産に、疾く、世界から去ぬが良い』

「……………」



 ―――それは、腕だった。



 何者かの、腕だった。

 五本の指を有するソレが落ち、一方の端からはとめどなく赤黒い液体が迸る。


 

「……返却期限は、過ぎてる……ぞ」

『貴様など、塵芥と、同じ。巫女は、我が手ずから、殺す―――が。貴様は、カミを愚弄した。貴様は、先に去ね』 

 


 いや、俺が死んだら、あの子も……ッ!?



 急ぎ、身体にムチ打ち。


 ソレから逃れんとする。


 熱いという概念を感じる暇もない。

 無理やり身体を捻ったからもあるが……いや。


 それも、関係なく。

 ガクンと、身体の力が抜ける。



 視界の端へ映った熱線の閃光が、抜ける。 



「―――が……っ! ぁぁぁぁぁあ―――――ッ!?」



 剣を手放さなかっただけ幸運だったか。

 或いは、騎士の命を手放して、受け身を取るべきだったのか。


 身体が、地面を転がる。


 思わず、笑いが零れる。



「はっ―――はははは………っ」



 力が入らない?

 筋肉を酷使し過ぎて、ソレの感覚がなくなっている?


 事は、そう単純ではなく……いや。

 ある意味では、それ以上に単純で。


 気が付いたときには。


 足も片方飛んでいて。


 左足が、膝の先から消滅し、俺はその場へと倒れ伏していて。


 

 ―――しかして、この程度。



「……………」

『まだ、立つか。忌々しい、黒の眷属めが……!』



 片腕を落とされて、足が吹き飛んだだけ。

 敗北には、早すぎる。



『情けは、ない。失せよ、名も知らぬ定命よ』



 その言葉通り。

 魔皇龍は、勝利への確信――その不意を突いた攻撃すらさせてくれず。


 乾坤一擲けんこんいってきの機会すらもなく。


 振り上がる、龍の巨大な腕。



「―――――“狂飆”………!」



 迫る死を振り払わんと。

 強風で、無理矢理身体を動かしたことで、操作を誤り、身体が大木へと叩きつけられる。



「……………ガァ……ッ!」



 気を抜けば意識が飛ぶだろうと。


 舌を、千切れんばかりに噛んで。


 ……ほんの、一瞬だったろう。

 それでも、意識を失ったという不甲斐なさを、実感する。



『手を失えば、棒も振れぬ』

「……………」

『足を失えば、地も蹴れぬ』

「……………」

『再生せぬ、権能を持たぬ。不完全な、木偶。カミへ歯向かった報いよ』



 ……………。



 ……………。



『やはり、変わらぬ。どれだけの力を持っていようと、変わらぬ。貴様が定命である限り、カミたる我を超えることは、決して叶わぬ』



 勝ち誇りながらも慢心せず。


 近付くという行動すらなく。


 俺へ止めを刺さんと。

 開け放たれた奴の咢からは、消滅の極光が繰り出され。



「―――ッ―――死ぬ、だろうが……!」



 当たるわけねぇだろ。

 まだ、たかが、腕と足が一本ずつ吹き飛んだだけだろうが――と。


 虚空へ身体を躍らせた瞬間。


 巨大な尾で、薙ぎ払われる。


 樹木が根こそぎになり、砕け散る。


 たまらず、吹き飛ばされ。

 普段なら黒鎧を生成して身体を保護する筈が、魔力不足で、それすらも叶わず。


 大地を何度も転がって。


 折れた大木へと激突し。


 ようやく、動きを止めるも。


 浅い呼吸を何度も繰り返す。


 本当に、まだ死んでいないのが、奇跡で。

 流れ出る血液を止め。何度も、何度も……身体へと力を入れるが、筋肉が動かない。



 止血した筈の、血液が。


 

 次々に滲み、吹き出す。 



 歩む様な再生では、まるで間に合わない。



「まだ――まだ――まだ……………ぐッ……ぅ!!」



 休む暇などないのに。


 動けるようになるまで、待てと。

 異形の身体は、再生のために力を総動員していて、俺自身の言う事すら聞いてくれない。



 ………笑い話にも、なりはしない。



 こんな無様な姿。


 死ぬ寸前の様子。


 敗北の、姿など。

 決して、あの子には見せられないな。




「―――らぐなああぁぁぁぁぁ―――――っ!!」




 ……そう、そんな感じで。


 きっと、雹龍の時みたく。

 我が身の安全など考えずに、彼女は村を抜け出して、俺へと駆け寄ってきて―――って。



 ……………くくくッ。



 幻聴が聞こえる程に追い込まれてんのか? 俺は。


 何故、シオンの声がする。


 走馬灯には早いだろうが。


 そんな幻聴より。

 早く、早く……もう少し……身体が動きさえすれば……。



「―――ラグナ! ラグナッ! らぐな………っ!!」

「……………シ……オン……?」



 ―――否……ちがう。



 幻聴などではない。


 声は、すぐそこで。

 

 確かに、彼女はそこに居た。

 彼女だけが、誰も連れず、ただ一人で、そこへと立っていた。



「――なん……で……?」

『―――統率者……最後の、黒の巫女……!!』



 その彼女の姿は。


 俺だけに見えているわけではなく。

 それ迄、殆ど態度を変えることがなかった魔皇龍が、親の仇のように咆哮し。


 その体躯の向きを変える。


 少女へと、視線を定める。


 何故シオンが此処に居るのかなど。

 突然、脈絡もなく魔力反応が現れた事など、一瞬たりとも考える暇なく。



「―――おい……! 待て……待てよ……ッッ!」

「……………」



 魔皇龍は、もはや。


 最早、俺の事など見ていない。

 アレは、戦闘力など持たぬ少女へと。



 たった一瞬で、肉薄し。



 巨大な腕を振り上げる。



「―――――やめろおおぉぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」



 叫んでも声は届かず。

 あの化け物が、それを止めるはずなどないのに。


 まだある足を使い。

 地を蹴り、走り、未だ遠い少女へと右手を伸ばす。



 しかし、腕は。

 


 最早、届かぬ。



「―――シオン―――――ッ!!」

「―――ぁ……っ」



 ……………。



 ……………。



 ただ、無慈悲に轟音が響き。

 一人の少女へと向かい―――大地へ、破壊的な質量の彗星が衝突した。

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