第14話:現代知識で無双?




 魔力製の小刀で石へ式を掘り込み。


 そこに、一定の魔力を流していく。


 正直、精度は保証しないが。

 それでも、ないよりはずっとマシだろうな。



「これで、魔獣が来なくなるの……?」

「あぁ、ある程度は有効な術式の筈だよ。お祈りさんには敵わないだろうけど」



 現在、俺は村の外周に岩を配置して回っている。

 そのサイズは見上げるほどのモノで、普通の人間だったら間違いなく持つことすら不可能。


 この岩々は、簡易的な結界のようなものだ。

  

 村の発展を考慮して。


 あまり大規模な防壁を築くわけにもいかないからな。


 頑丈性と移動のしやすさを天秤にかけ。

 丁度良いのがこれくらいだろう。


 一応、パラドックスを防ぐ為。

 最新鋭のモノは使わず、原始的な術式のみを用いて。


 最後に、持続的に稼働するよう、電池として狩猟した魔物の核を埋め込む。


 本当は、【魔核石】自体を一度精製して。

 真っ新な状態にするのが望ましいのだが。

 

 専門の技師も。


 術者もいない。


 現在の環境では、高くを望めないだろう。

 

 本当に、妖魔種共は。

 魔術特化な分、それが出来ないとなると、本当に村人Aだな。



「せいせーをしないと、どうなるの……?」

「不純物が多いから、故障も起きやすい。世に求められるのは常に均一の性能だから、ただ特化しただけのオンリーワンより、安定性ある量産品が大事なんだ」

「……むずかしいよ」



 うん、知ってた。


 魔物の種によって、魔力の色は様々。

 同じ種でさえ、個体差は千差万別だ。


 故に、均一化する必要があって。

 技術者が手を加えねばならない。

 そういう仕事をする連中は、【調律師】や【調整師】と呼ばれ、魔皇国においては資格が必要な職業の一つでもあった。 


 だから、村人Aには無理だ。

 やりたいなら士官学校の技術科へ通え。



「要するに、これは本当に簡易なんだ。あまり多くの数が一度に押し寄せてきたら厳しいかもしれないし、故障もするだろうから、ある程度、この周辺の連中を間引く必要はあるね」



 あと、一日一回は点検で見廻らんとな。



「私、お手伝い出来ないね」

「シオンは、そこに居てくれるだけでやる気が出るよ」



 これはマジで。


 そこに居るだけで力が湧くんだよ。


 これも、眷属としての特性なのか。



「それに、私の見回りついでに君が遺跡に行く事で、より確実に侵入を防げるだろう?」

「……うん」



 どこか、元気がないな。


 石を幾つか運び終える頃。

 話し相手になってくれていたシオンは、心配そうに俺を見上げて。



「……ねぇ……ラグナ。この後はどうするの? ――休んでくれる?」

「いや、まだだ」

「……ダメ。休む」

「まぁ、そう言わないでくれ。狩りは必要だし、シオンだってお肉食べたいだろう?」


 

 そう、魔物狩りは必須だ。


 じゃないと魔素の濃度が上がる。


 それによって。

 更に魔物が強力になる。

 だから、悪循環を断つためには、定期的に狩りをする必要があるんだよ。


 それも、俺の仕事だ。


 話に聞いた限りでは。

 魔物に対抗できる勢力は、知られる限りでは【角の氏族】と呼ばれる者たちと、【力の氏族】と呼ばれる者たちのみだったようで。

 俺の存在が村人の安心に繋がっているようだ。



 ―――んで、あの日以来。



 村の連中がガチで親切化している。

 そりゃあ、守り神でも拝むが如く。

 毎日のようにやってきては甲斐甲斐しく世話を焼いたり、娘(若い~40歳越え)を紹介しようとしたり、出来ることは無いかと言ってきたり。


 あの手この手だ。


 支龍アレが守り神とかならともかく。

 ただ怒りと厄災を振り撒くだけの厄介な疫病神でしかなかっただろうから。


 俺に感謝するというのは分かる。


 あと、逃がさぬと包囲するのも分かる。



 だが、勘弁だよな。

 んな余裕があるのなら、少しでも働くんだよ。

 嫁が居ようが居まいが、夜眠れないのは同じだからな。


 で、俺が寝てないのを。


 そろそろ勘付かれたと。



 ―――何故バレた? 目が赤く充血してるからか?



「ふとん、ラグナの匂いがしない」

「……成程、天才的だ」

「狩り終わったら、休んでくれるの?」

「……………ああ、勿論」

「うそ」

「――ちょっと。ちょっと所用が終わったら休むさ」

「なにやるの?」



 そりゃあ、ね……?


 あの遺跡の調査だろ?

 自宅家具の点検だろ?


 戦闘魔術の見直しと。


 結界の運用確認とか。


 狩った肉の加工、より分け…お裾分け……。


 危険区域、未踏破エリアの探索と早急な地図の作成。

 村人さん達に借りた本で、この辺りの村々の所在確認と特色を分析。



 あぁ、あと―――



「―――ラグナ―――――っ!」


「はい!」

「やって良いのは、一つだけです」

「……承知しました。全て御心のままに、お嬢様」



 チクショウ、逆らえん。


 うちの子、将来は王様ですかね。 

 大物になりそうな気がするよ。



「じゃあ、何をするにしても。まずは家に帰ろうか」



 ……………。



 ……………。

 


 村人たちの顔と名前を覚えて。


 年齢層も大体把握してきたが。


 この村は、広さと人口の割に老体が少ねぇんだよな。

 限界集落ってジジババしかいない印象だろう?


 そのジジババが居ないとどう思う?


 そう、ピチピチハーレムパラダイス――ではなく。


 歪に感じるだろう?


 やはり、生存の難しさゆえ。

 平均的な寿命もかなり短いのだろう。

 如何に魔族の最大となる寿命が300年あろうが、碌に食いもんもなく、運動も出来ない連中が長く生きられるほど、この世界は甘くない。


 もしかしたら。


 魔素の影響で病気にもなるかもな。


 魔族なら本来はあり得ない事だが。


 そういう側面を解決するにも。

 俺がすべきことは……やはり。



「――あぁ、そこの君たち」


 

 結局、一つだけ出来る仕事は狩りに決まり。

 もう一度、外出という訳だが。


 シオンは地下へ着替えに行き。


 ただ待つというのもアレなので。


 俺が呼び止めたのは、丁度通りかかった若そうな魔族たち。

 最近はこっちにもよく来るな、村人共。

 見た目だと分かりづらいが、経験から見るに彼等は本当に若く、20~30代くらいだ。


 魔族は皆顔立ちが良いが。


 簡素な服を纏うと、垢抜けないな。

 普通の村人Aと村人Bにしか見えん。



「はい?」

「何でしょう、ラグナさん」

「これからお肉を獲って来るから、そこにある石を運ぶ仕事を頼めないかな。運ぶ位置はこの紙に書いてあるから」



 先の仕事の続きだが。

 俺が出来ないのなら、他人を顎で使えば良いんだよ。


 コレで、シオンも文句あるまいて。


 だが、こうして声を掛けたは良いが。


 若者が年寄りの言葉に耳を傾けるかは運次第。

 今回、俺の言葉を聞いた二人の年若い魔族は。



「……肉、ですか」

「分かりました。承ります」



 ふッ―――堕ちたな。



 菜食主義破れたり。

 如何に菜園で食い繋いでも。


 果物を愛食しようと。


 所詮、脂身カルビの誘惑には勝てんのだよ。


 この世界は半妖精エルフも肉は食うんだからな。皆で腹いっぱい食って、沢山鍛えよう。目指せ、世界一の長寿村。

 

 まあ、最近の俺は。


 脂っこい霜降り肉よりも魚や赤身の方が好みだがな。


 八十代嘗めんな。

 パパ臭いどころか、お爺ちゃん臭いだぞ。



 シオンに言われたら死ねるな。



 そうならないように。

 温泉とかも作りたい。

 後は健康的な食生活で、若作りと行こうじゃないか。



「アンチエイジング、ってな」

「……あん、ち……?」


 

 知らなくて良いんだ。


 きみ、年取らんもん。


 いつの間にか、シオンが着替えて戻ってきていたが。


 聞かれて困る物でなし。

 俺も既にガタガタだし。

 今だけ頑張って働いたら、いずれは全て若いもんにでも託して――



「「―――おもッッ―――――ッ!!?」」



 ……あ、無理だわ。


 あいつ等モヤシだ。


 目の前では、岩を持つのに苦心する若者たち。

 二人がかりでこれなら、一人じゃ絶対無理だ。



「―――何やってたの?」

「臨時バイトの募集さ」

「?」



 台車でも持ってきてやるかなぁ。


 最近の若いもんは、コレだから。




   ◇




 やって良い事は一つだけという命令を受けて。

 最優先課題となっていた狩りが終わり。


 適当に解体も終了。

 

 大量の肉を仕入れ。


 無事、俺は付いてきたシオンと仲良く帰宅したが。



「――シオンさん」

「んん?」

「楽しいかい?」

「うん」

「……そか。なら、良いや」



 お膝、オン、ロリータ。

 椅子に座る俺を更に椅子にしている我が主は、何を考えているやら。


 戯れで、酔った陛下に無理難題を言われ。

 哀れにも椅子にされた過去トラウマを思い出すな。


 フラッシュバックに苛まれながらも。

 俺は、一枚板でこしらえた大机を使ってを続ける。



「ラグナは、さっきから何やってるの?」

「ちょっとしたお絵描きだよ。ほら、ここが遺跡の方角で、こっちがこの村。河川の上流へ繋げるための経路を描くのが楽しいんだよ」

「……ふーん、そうなんだ」


「そう、そうなんだ」

「――ふふふっ」

「ははははっ!」




「お仕事禁止! これは、没収します!」

「そんなー」




 クソッ! 勘の良い少女めッ。


 この完璧な作戦が何故バレた。


 現在、この村は井戸から水を引いている。

 外に出れば魔物に襲われるし、他に方法もないゆえに、枯れないように少しずつの利用な訳だが。

 

 水を、上流から引く計画。

 それを俺は実現させたい。

 結果、更に多くの作物も出来るし、娯楽にも使えるわけで。


 遊びの振りをして。

 如何にかお絵描きとして誤魔化そうとしたが、無理だったか。



「保管しておくから、また明日ね?」

「はい、休みます」



 なんて出来た子だ。


 お嫁にやりたくない。


 膝の上にいるのも。

 俺が勝手に歩き回らない為の行動だろうし、本当に、どうしてあんな魔王なんかに…………ん。



「どうかしたの?」

「――いや、ちょっと外の方が騒がしくなって……何だ?」



 別に、怒号などは聞こえず。


 叫び声も混じってはないが。


 ざわ……ざわ……と。

 人だかりが出来ているかのような声が届いて。



「ちょっと、様子を見に行ってみるか」

「嘘じゃない?」

「そんな風に君を騙してまで働きたいわけじゃないさ。耳が良いのは知っているだろう? それで、シオンはどうする?」

「………場所は……?」

「大丈夫、村の範囲じゃない」



 俺の言葉に立ち上がる少女。

 温もりが去った事で、続いて立ち上がる俺。


 二人並んで。


 家を出て、その声の方角へと向かったのだが。



「何か、あったんですか?」

「――流浪者殿」

「あぁ――ラグナさん。いや、アレは……」



 村人の一人が指した先には。

 俺が護りの為に設置した岩。

 

 それ自体は許可も得たし。


 問題ではないのだろうが。


 その傍らには。

 岩を、興味深そうに検分する旅装の者たちが居て。


 掌でペチペチと叩き。


 耳を押し当てたり、身体全体を押し付けたりと。


 ……傍から見れば、変人集団。

 世界遺産によくいるタイプの観光客みたいだな。


 この村の連中じゃないが。


 奴らの事は、知っている。 


 長旅をしてきたのであろう、如何にも移動に向きそうな装備。

 全員が何かしらの武器を持っていて、明らかな実力を感じさせ。


 頭部には、大小まばらだが角がある。


 その特徴を持つのは。


 間違えようもなく。



 ―――有角種の魔族たちだった。



「角の氏族さん……?」



 俺が視線を送っていると。

 

 隣にいたシオンが呟いて。



「……へぇ。やはり――か」



 魔獣への対抗勢力。


 その、片割れというべき連中。

 確かに生粋の戦闘民族である彼らなら、そういうこともあるのだろう。

 

 この村の妖魔種がいい例で。

 魔術は自身が習わなければ身につくものでは無いが、戦いは本能から来るもの。


 闘争とは、生まれた時から身についているものだしな。



「あれが、角の氏族なのかい?」

「うん」



 思わぬ時期に、思わぬ発見。


 ……が、シオンだ。


 何故、俺の後ろに?


 余程自分の姿を隠したいのか。

 彼女は、上手い具合に死角になるような角度を模索し、俺を盾に姿を隠し続けて。 



「何をやっているんだい?」

「――うん。ちょっと、怖いから」



 怖い、だと?


 あいつ等からは殺意も害意も感じないが。

 良からぬ因縁でもあるのだろうか。


 隠れた少女をどうしたものかと考えていると。


 向こうも。

 こちらに気付いたようで。


 旅装を纏った者の中でも、特に強い気配を持つ一人の男が俺たちに向かって歩んでくる。

 


 ……いや、違う。



 俺たちではなく。

 正確には、シオンに向かって。

 

 ゆったりとした所作で。


 歩んできたその男性は。



 ―――その場に、ひざまずいて。



「お久しぶりです、巫女姫様」

「……えぇ………?」



 思わず、声が漏れ出る。


 というか軽く引いたわ。


 更に驚くのが。

 それに呼応するように、他の有角種たちまでもが跪き始め……あぁ、分かった。


 よもや、こいつ等……。



 ―――――さては、ロリコンだな?

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