第11話:月~日曜大工(夜間内職)
DIYとは、「自分自身がやる」という意味で。
俺が好きな言葉でもある。
詰まる所、人に任せないで、自分で頑張れって事だが、有体に言えばただの趣味活動の事。
日曜大工などが該当するが。
あくまで趣味の域と言えて。
普段は会社勤めとかの人間が。
仕事の無い日曜などの休日を利用して、没頭する個人趣味の様なモノ。
俺の場合は、毎日が趣味の時間だし。
ある種、ニートの道楽ともいえるな。
―――は……?
「誰がニートだ。バリバリ軍属だわ」
でも、実質ヒマ貰ったようなもんだし。
もしかして。
本当にクビ宣告だったんすか? 陛下。
悲しくも、セルフで突っ込みながら。
大木を斧で伐採、手ごろな角材へと加工し、建材へと仕上げて。後は適当にお手製のソリに載せ、バランスをとっていく。
これは、ジェ○ガみたいなものだ。
何度も森へ来るのは面倒くさくて。
一回の往復で、出来る限り多くの木材を調達したいという事でこうしているが。
どっかに野生のトラックねえかな。
「それに、武器……か」
あの村にも、鍛冶師はいる。
だが、仕事はあまり多くなく、そもそも武器など造っていないとのことで。
戦いを放棄したんだろうな。
彼らに、この周辺の魔物と戦って勝てるだけの力は無い。
というより、戦闘力自体が皆無に近いのだ。
当然、剣も作れない訳で。
仮に、形だけ作っても。
一振りでポッキリ逝ってしまうのは間違いない。
「―――支龍……か。厄介な時代になったもんだなぁ」
周期が迫っているとは聞いた。
いずれ、出会うかもしれない。
それが何であれ、どんなバケモノであれ。
俺がすべきことは、完全に決まっていて。
―――そう、森の伐採だ。
環境破壊は気持ち良いからな。
根こそぎにしてやるとしよう。
無論、俺に建築のイロハなどないが。
腕はあっても材料がないという職人はいるので、村の中で出迎えてくれた彼らに任せる。
「――ラグナさん。お疲れさまです」
「本当に、有り難うございます」
いやいや、こちらこそ……と。
引き渡しついでに軽く挨拶だ。
此処へ来て既に数週間。
ある程度の信頼もある。
近所付き合いだからな。
これで気のいい連中だし、一点を除いて俺に不満はない。
「―――まぁ、その一点が最悪だけどな」
遠ざかる連中に聞こえぬくらいの距離。
漏れ出る、小さな言葉。
小物らしく呟いて。
残りの建材を持ち。
俺は、村から明らかに外れた家へと向かう。
◇
「――ラグナ! お帰りなさい!」
ああ、パパ帰ったよ。
飛び込んでくるは可愛い我が娘。
飛びハグを暫く受け止め続け。
身長差でブラブラと揺れるシオンへ、思わず問いかける。
「ちょっと痩せたかい?」
「……………?」
小粋なジョーク。
あわや通用せず。
感動の再会を演出したんだがな。
だが、いつまでもしてはいられぬと。
俺は、彼女と共に家の中へ引っ込む。
「木材、運ばなくていいの?」
「量が多いし、そっちは後にしよう。お腹、空いてるだろう?」
急いでいるのは理由がある。
単純に、食事という問題だ。
出会ってからはずっとそうなのだが。
シオンと俺は、絶対に一緒に食事をとっていて。
彼女は、一人で食べない。
ずっと待っていてくれる。
それ自体は凄く嬉しいのだが。
ただでさえ、細すぎる身体だ。
待たせ過ぎて倒れられても困るし、そもそもシオン最優先の俺としては、我慢ならない。
「えぇ……と、今日は……やはり、貰い物を消化しなきゃね」
「………おにく」
「そっちは、また、そのうち。本当は燻製もしたかったんだが、全部連中と一緒に食べてしまったし。暫くは貰い物でどうにかしよう」
この間の宴会は大成功。
交流の起点も得られた。
持ち寄られた野菜や料理で。
一時期、家は文字通り足の踏み場が無くなったのだ。
保存の利くモノ。
あと、匂いの薄いモノ。
そういう物は後回しで。
優先すべきは、匂いが強くて保存の利かない食品だろう。
「これとこれにする?」
「うん、発酵系の漬物に――その加工品と。じゃあ、それを頂こうか」
素晴らしく健康志向だが。
カロリーが低いんだよな。
こんなモノじゃ大した筋肉は付かないし。
徴兵なんぞしようものなら。
絶対、一日で脱走兵十割―――
「……ふふふっ。私、まるでお嫁さんみたいだね」
「―――なにぃぃ――ッ!?」
一緒に準備していると。
少女が、とんでもない事を言い始めて。
俺は、思わず叫ぶ。
「―――わっ! ビックリした……!」
が、流石に取り乱し過ぎで。
完全に冷静を欠いたな、これは。
まるで、娘が
「お嫁さん、ダメだった?」
「いや、そういう事じゃないよ。でも、あまり言わない方が良いかもね」
「――ダメなんだ……」
「ははは――食事にしようか」
「お肉は……?」
「ノーミート、ノーお肉」
あの日、連中が去った後。
俺たち二人で、仲良く柔らかなBBQを頂いてから。
すっかりこの様子で。
余程、動物性たんぱく質に飢えていたんだろうなぁ。
……………。
……………。
「「ご馳走様でした」」
時代こそ違うモノの。
こういう儀礼は何処も同じだな。
食後は幾つかの木材を運び込み。
他愛ない話をしながら加工して。
気が付けば陽も陰り……すこぶる良い子な少女は、すぐに船を漕ぎ始める。
「―――シオン。今日は、もう休みな」
「……お話……んみゅ……続き」
「明日、纏めてしてあげるよ」
朝三暮四という諺がある。
まだ幼い子供や、低能な連中は、目先の餌しか見えていないという言葉だ。
だが、彼女は。
幼いながらに聞きわけが良すぎて、心配になるな。
俺の言葉を受けて。
シオンは眠そうに頷くと、そのまま卓の下へ潜り込み……こちらを覗く。
「ラグナ、寝ないの……?」
「ちょっと内職がね。明日への備えさ」
「……私も」
「だーめ。ちゃんと寝ないと大きくなれませんよ?」
いや、知ってんだけどさ。
バインバインの美女になんのは。
でも、ダメです。
寝ないと脳が休まらないからな。
楽しみな事は我慢するのに、どうして面倒な事をやりたがるんだ。
普通、逆だろ。
「―――何処にも行かないで――ね?」
……違う。
どうやら、彼女の本当の心配は。
そっち側ではなかったみたいで。
仕事をしたいんじゃなくて。
ただ、夜が怖いだけなんだ。
だが、別に何処へ行くような用事も存在しないし。
「……行かないさ、何処へも。さか……うん。何処もいかない」
あっぶな。
酒場とか言う所だったわ。
そもそも、時代が時代。
周囲が魔物に囲まれた村落。
宴会で聞いた話では、商業施設や酒場などという娯楽施設を作るような余裕のある村などは何処にも存在しないようで。
精々が、密造酒くらいなもの。
それさえ、特別な日の備えや、交渉用の代物で。
俺がいずれ帰るにしろ。
変な痕跡は残さない方が良いからな。
やはり、気になったのだろう。
シオンは「さか?」と呟いたものの。
大人しく、地下の部屋へと降りて行き。
ようやく、大人の時間だ。
「―――んじゃ、続きと行くか。よく乾いた板はどれですかな……っと」
木材が欲しかったのは、大工の真似事をする為だけじゃない。
むしろ、こっちが本来の目的で。
まずは、刻印魔術。
俺が掘れるモノなど殆どないが。
イザベラに教わったもの。
ひいては、研究に協力した物なら覚えがあるから。
何度も何度も仕損じながら。
かつて学んだカタチを思い出して、木片へと回路を彫り込んでいく。
―――そして。
それと同時に。
もうひと手間。
「……構築開始。第一工程、【承継】……第二行程、【接続】」
刻印も、理論構築も。
俺は馬鹿だから。
何度もやり直さないとな。
理論を築き上げ、組み上げていく。
鎧という形すら、最初は留めるのに苦心していたが、それが剣の形になると、また根本からやり直す必要があり。
あとは槍と…斧…鎚…短剣…大剣。
まだまだ、構築しなければいけないものが山とある。
「……やはり、魔力消費がヤバいな」
―――いや……それ以前の問題。
本当に、俺はアレだけの魔力を保有していたのか?
それ自体が、勘違いだとしたら?
ここ数日で思うのはソレ。
仮に、仮にだ。
俺自身には、殆ど魔力も、魔術を扱う素養もなかったとするのなら。
その力は、何処から来たのか。
あぁ、親からに決まっている。
俺という眷属にとっての親。
それ即ち、我が主君……魔王エリュシオン。
―――ずっと、彼女から供給があった?
いや、そもそもだ。
如何に、俺が異世界人とは言え。
巻き込まれただけの一般人が。
地水火風の全属性に適性……なんて、アホだろ。
人間時点の俺にそんな才能が有ったのなら、もっと前に気付いていた筈じゃないのか?
「……クソッ………」
考えが勝ってしまった事で、気が逸れ過ぎて。
持っていた木材が砕け。
理論が頭から吹き飛び。
また、振出しに戻る。
どうにも、集中が出来ていないようで―――!
……そうだ、落ち着け。
彼女の前でだけは、取り乱すな。
「―――やっぱり、今日も眠れないのかい?」
「……………!」
「分かるとも」
「何で……なんで、ラグナはいつも分かるの……?」
「長く生きているとね。多少は、そういう事も得意になる。……ここは、少しだけうるさいと思うけど?」
そろり、そろりと。
俺には内緒らしく。
ゆっくり後ろを振り返れば。
忍び足で近寄ってきていたシオンは、眠そうに瞼を擦り。
「ううん、ここが良い」
そのまま、作ったばかりのベッドに横になる。
まだまだ、あくまで試作だが。
寝心地自体は悪くないだろう。
ふわふわ干し草の上に、狩った魔獣の毛皮を加工して載せたものだ。
「………なあ、シオン」
「―――――」
だから早いって。
相変わらず、寝付きが良い事で。
集中できていなかったから。
気分転換に、ちょっとだけ話し相手になってもらおうとしたんだが。
視線を横に移せば。
緩く閉じられた瞳。
あどけない寝顔は、安らぎを与え。
小さな寝息は、穏やかな夢を見ているのだろうと……。
―――分かっているさ。
約束、忘れていないとも。
俺は、彼女のモノだ。
魔王の、騎士なのだ。
なればこそ。
この子を守るのに理由など必要なく。
「……もう一度。もう一度だ」
諦める理由が存在しない。
何度だって、やり直そう。
この少女を護るためならば、時間も労力も惜しくはないのだから。
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