第7話:経験が人を導く
―陸視点―
「あッ…あたらねぇ!」
「どうなってッ――ヒイッ!?」
「子どもたちに詫びてくださいね? 本当は、会わせたくもないですけど」
次々に新手が現れる中。
敵を斬って、斬って、斬りまくる。
刃を交える人の中には強い人もいたけど。そういう人を相手にしたときは、しっかりと動きを見て対処する。
基本は相手の攻撃を受けないこと。
これは、魔物でも人間でも変わらない。
例え魔素の力に大きく適応した人間であっても。
斬られれば血が出るし。
当たり所が悪ければ、普通に死ぬ。
人間は脆いのだ。
状況次第で上位の冒険者が下位の魔物にやられることだってこの世界ではありふれていると、先生は常に言っていた。
「クソッ! 死にやがれ、ガキどもがぁ!!」
「春香ちゃん! あの射手を!」
「――いくよ! “
「はやっ――ガッッッ!?」
春香が放ったそれは。
刃を潰したナイフに水の刃を取り付けて放つ技。
威力も射程もある強力な一撃だ。
彼女のコントロールと相まって、凄く頼もしい。
彼女曰く、「みねうち」にしたい場合は刃の潰れたナイフをそのまま投げるらしいのだが、“練気”によって強化された投的は…うん。
普通に致命傷なのではないだろうか?
その辺は調節するのかな?
どんな時でも相手を思いやる彼女らしい技とも言えるけど。
その優しさは、甘さでもある。
だから、補強するのが他三人…僕たちの仕事だ。
僕たちは彼女ほど優しくはないよ? ……というやつだね。
「ガキッ! お前は油断して――」
「……るわけないです。あなた達とは、違うんだ」
背後から忍び寄ってきた男の首を。
振り向きざまに凪ぐ。
どんな敵が相手であっても、決して油断をしてはいけないというのがギルドの教える冒険者の基本だ。
彼らが元々何の仕事をしていたかは知らないけど。
この程度の罠に引っかかるようなら、もう一度基本からやり直すべきだろう。
……そろそろ。
腕が痺れ始めてきた。
ずっと金属の剣を振り回すのは大変なことなんだ。
「ボウズと黒髪の嬢ちゃんは、攻撃を避けるのに特化した動きをするな」
「二人は――っと」
「先生にそう教わってるから…な!」
ゲオルグさんの分析に。
律儀に答える春香と康太。
彼らも次々に敵を斬り、押しつぶしていく。
まるで小さな嵐。
……まぁ、傍に本当の災害みたいな人が居るんだけどね。
「ふッ……ふ…ふゥ。――ゲオルグさん、そろそろ名前覚えてくれてますよね? 僕はボウズじゃないんですけど」
攻撃に当たらないように飛び回り。
油断なく辺りを見渡しながら、ゲオルグさんに話しかける。
本当にこの人名前呼ばないよね。
彼はひとつ鼻を鳴らすと。
辺り一面を吹き飛ばすほどの速度で大剣を振る。
「そういう事を言ってるうちはボウズだ。…おい、大剣ボウズ。その流し方は剣を傷める。長持ちさせたいんだったらもう少し傾けろ」
「――うっす!!」
意外と言ったら失礼だけど。
彼は、僕たちに助言を入れてくれる。
もしかしたら先生に頼まれているのかもしれないけど、最高位の冒険者の言うことに間違いはないだろう。
戦闘スタイルが近い康太なんかは。
特に助言を生かして、敵と戦っていく。
「――にしてもお前ら、明らかに動きが良くなってるな。その成長の速さ、国が勇者を勧誘したくなるわけだ」
「……どういうことですか?」
「あたしたちは、勇者だって名乗ってないから分からないです」
……周辺の敵を粗方撃破した頃。
ゲオルグさんが、話しかけてきた。
前に先生が「君たちが勇者であることは秘密にしなければいけない」と言っていたけど、やっぱり大きな理由があるのかな?
「勇者が冒険者として行動していることに関係しているのですか?」
西園寺さんもその話が気になっていたようで。
ゲオルグさんに質問を投げかける。
「まあ、俺は興味ねェから、あんまり詳しいわけじゃねえが。この世界生まれの勇者も、異世界由来の勇者も、国がこぞって勧誘して戦争に発展した歴史があるらしいからな。そのせいで、召喚を極秘裏にしたって聞いたことがある」
「それくらいで戦争って……」
「本当に、バカじゃないの? 戦争に行かされる兵士さんが可哀そうだよ」
「そう思うだろ? だが、これが一度や二度じゃなくて、そこそこあったらしいんだよ」
「――どうしようもねえな」
本当に、どうしようもない。
……日本にいた頃も。
歴史の教科書で見た戦争の中には、意味の分からない理由で起こされたものがあったけど、こちらでもそれは同じようだ。
一部の人間の利権のため。
犠牲になるのは、他大多数の人間。
こちらの世界に来てから見たモノの中には、それが極めて顕著なものも多かった。
「――どうしてそんなに勇者が欲しいんです? 強い人が欲しいんだったら、冒険者でも良いじゃないですか」
「S級の人たちが頭おかしいのと関係あるんすか?」
流石は春香と康太。
恐れを知らないね。
当事者に向かって頭がおかしいなんて。
―――実際そうだとしても。
「お前ら、良くそれを俺に言えるな。――いや、そっちは別問題だ。国が勇者を欲しがるのは、神に選ばれた存在を自分たちが保有しているという事実が欲しいのと、後は自分たちの血縁と子供を作らせるためだろうな」
「……選ばれた存在、ねェ。そんな大層なもんでもないと思うんですけど」
神様。
この世界では、地球よりも身近なのは分かっていた。
【六大神】という神の話はこちらに来てよく聞くし、僕たちを召喚したヴアヴ教国もそれらを信仰するアトラ教っていう宗教の総本山だというし。
だから、彼らにとって勇者は……。
「――あたし、政治的な話は分かんない!」
「だな。そっちは陸と西園寺さんに任せるぜ。我らが頭脳担当様たちに」
あのさ、二人とも。
せめて話だけでも聞こうよ。
どうやら、彼等はこっち関係の話を聞くと拒絶反応が出てくるようだ。
春香なんかは。
身震いをしながら指を耳に差し込…えぇ。
―――そこまでするかな?
「……無理やり子供を作らされるわけですか。確かに当事者としては、あまり気分の良い話ではありませんね」
「だが、男の勇者なら貴族の令嬢とか奇麗どころがより取り見取りだぜ? その辺に興味はねえか? ボウズ共」
「「……………」」
「……興味、あるんですか?」
「二人とも、変な理由でパーティー抜けようとしないでね? 後ろからナイフ飛ばすよ?」
だ、大丈夫だよ。
僕にハーレム願望なんて無いし。
それは康太も同じ……はず。
突き刺さるような女性陣の視線から逃れようと。
僕は話を別の方向にもっていくことにした。
「そ、そういえば。六大神様には名前とかあるんですか? 僕は、まだそういう話は聞いたことが無いんですけど」
「――お、おうッ、俺も気になるな!」
「康太君はこっち関係の話は分からないって言ってなかったけ?」
「話を逸らしましたね。……でも、私も興味あります。図書館とかの本には名前まで載っていなかったので」
西園寺さんは調べていたのか。
でも、本に載っていないということは名前とかは存在しないのかな?
…あぁ、もしかしたら。
名前を書くのが禁止という可能性もあるし。
「名前、名前ねぇ……? 忘れた」
「「へ?」」
忘れたって……どうやって。
いくら興味が無くても。
普通、忘れるものかな?
逆に、この人が興味あるものって戦い以外に何があるのだろうか。
「自分の世界の神様の名前って、普通忘れるものではないですよね?」
「んなこといわれてもなぁ……。あ、そうだ。【武戦神】の名前はペンドラゴンつったか? で、【淵冥神】がデストピア……で、ンぁ?」
「――ゲオルグさん?」
突然、前を歩いていた彼が足を止める。
思い出すためかとも思ったけど。
最早、考えるそぶりすら見せていないところを見ると、別の要因だろう。
……でも。
何処にも敵の姿は存在しない…春香?
突然の出来事。
彼女が、短剣を構える。
「なんか…? …ふへ?」
「春香ちゃん? どうかしたんですか?」
「……えっと、――ソコッ?」
「――ガァッ!? 何…で、クソッ……ガ」
何かに疑問を持った表情をしていた春香。
彼女が、空間にナイフを投げると。
そこから血しぶきが上がり、人の姿をとる。
これって…姿を消す魔術!?
攻撃を受けた男は、前のめりに倒れ込み…そのまま床で痙攣しているけど。
これは、リタイアだね。
―――思考が物騒になってるけど、一応止めを刺しておかないと。
「プリンの嬢ちゃんは気づいたか」
「……ゲオルグさん? プリンって呼ばないでください」
まあ、今の春香は。
染めた茶髪と元の黒髪が混ざってるし。
この世界にプリンがあるという情報はさておき、どうして敵がいることが分かったのだろうか。
距離があったからかもしれないけど。
僕たち三人は分からなかったし。
「春香ちゃん、どうして分かったんだ?」
「魔力の流れ…的な?」
「何で見つけた本人が疑問形なんだろ。確信があったわけじゃないの?」
「……アハハ。なんかおかしいなー? ってくらいだったから」
どうやら、何時もの勘のようだ。
彼女はそういうところで鋭かったりするし。
「プリンの嬢ちゃんは、他の三人よりも魔術の修練を積んでるからな。それでも魔力の流れを感知できるようになるのは冒険者でもC級以上からな場合が多い。お前らは本当に飽きさせないな」
「おおっ! つまり、あたしは足手纏いじゃ無いってことだね!」
「そもそも、今のやつは音を消す魔術と姿を消す魔術を重ね掛けしてた、ソコソコ出来る奴だからな。恐らく白兵戦は不得手だったんだろうが、見つけたのは賞賛に値するぜ?」
「スゲェ! 俺も魔術鍛えたいな」
「――春香ちゃんの魔術は、本当に凄い威力ですね。あと、足手纏いなんて、全然思ってませんからね?」
そう、その通りだ。
彼女が足手纏いなんて。
感じたことは、一度としてない。
春香の元気、そして魔術にはいつも助けられているし。
康太と西園寺さんも同じ。
二人は、口々に尊敬の言葉を述べていた。
僕も、負けじと参加したいところだ。
「仲が良いな、お前らは。羨ましい限りだぜ」
「ゲオルグさんはボッチなんですか? 私はお友達だと思ってますけど」
「「プッ!」」
「――おい、何言ったんだ! 今の何がおかしいんだ!?」
ボッチという言葉があるのかは分からないけど。
ゲオルグさんに通じていることを見ると、似たような言葉はあるのだろう。
笑う理由は分かっていないみたいだけど。
「ええと。先に進みましょうか。まだ子供たちを見つけられていませんし、道が繋がっているなら先生とも合流できるかもしれません」
「そうだね。子供たちを早く救出してあげないと」
「……ゆっくり説明してもらうからな?」
会話をして心を落ち着けるのも大事。
でも、今はこれくらいで良い。
子供たちを救出して、敵のボスがいるのであれば倒す。
それが、今回の目的なのだから。
まだ、やることは山積み。
立ち止まってなどいられない。
敵と戦ったことで確かな訓練の成果と、
気を新たに引き締め。
皆と共に、先を急ぐことにした。
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