第7話もしかしてOLさん?
―ラグナ視点―
リクたちの食事が終わり。
友人…ロシェロへの礼もそこそこに会計をして店を出る。
相も変わらず、料理の腕は壊滅的だったな。
まるで成長していない。
「――そういえば」
改めて考えていると。
ミオが思い出したように空を見上げる。
「私たちが学校から帰っていたのは夕方だったんですけど、ここはまだ昼頃なんですね」
「ああ。チキュウとは時間の流れが根本的に違うみたいだからね。100年前の勇者とかも、描かれた絵とか見ると現代日本っぽい感じの容姿だったらしい。召喚する勇者のいる時代に法則性があるのかも不明なんだ」
大陸ギルドの支部へ続く大通り。
賑やかな往来を五人で歩きながら、もっともな疑問に対して
実際に会った魔人の立場から言わせてもらうと。
アレは、バリバリのパリピだった。
あいつのいた時代は、その言葉ができるより前だったはずだが。
俺だって。
この世界に来てから、途方もない年月が経つが。
この子たちの言う
「……不思議、ですね」
「これからの研究に期待ってことでね」
「研究、ですか?」
「あぁ。えーと、一応君たちが勇者ってことは隠さなきゃいけないから。ここからは、小声で頼むよ」
それでも聞こえる化け物はいるが。
最西端にはほぼ皆無だろう。
一応の注意をしておき。
気になっているだろう情報を解説する。
「これから向かう大陸冒険者ギルドの本来の目的はね――リクとコウタは、こういう世界の小説とか読むだろう? 冒険者ギルドってどんなイメージだい?」
実際に読んだとかいう話を聞いたわけじゃないが。
老体と話していた時の反応で分かる。
間違いなく、この二人は剣と魔法の世界とかに詳しいだろう。
二人は少しばかり逡巡した後。
健康優良男児たちは、回答を出す。
「えっと。色んな所から依頼を受けて魔物を討伐したり…」
「ダンジョンを調査したりとかだな」
「そう。大筋はそれらと同じことをしている。でも、最初からそうだったわけじゃない。かつて…今から200年前の話だが、召喚された勇者によって【ユスティア】という研究機関が建てられた。本部は大陸の中心に建てられた塔でアルコンっていうんだ」
大陸は広く。
主な移動手段の馬車でも時間が掛かる。
だから、この子たちがそこへ行くのはかなり後の話になるだろう。
「――じゃあ、ギルドは研究機関なんですか?」
「あぁ、そうだ。ロッド様から帰還について聞いたと思うけど、この世界を覆う
よく出来た仕組みだと思う。
少なくとも、研究資料や魔道具を積極的に冒険者たちが集め始めたことで、ここ200年の人間国家の発展は著しい。
嬉しさすら覚えるほどに。
「魔素を体内で精製して魔力に……。そうやって魔法とか魔術を使うんですか?」
「ああ、その通り。そっちは追々説明するとして…。リクは、何故自分たちがこの世界の人々の言葉を理解できているか分かるかい?」
「――あっ、そういえば」
「……? 同じ言葉じゃないんですか?」
「いや、違うんだ。実は、勇者がこの世界とチキュウを渡るとき、一度魂を残して体が再構築されると言われている」
文面だけ聞くと。
かなりヤバいように感じるが。
まあ、神の仕事ってそんなもんだろうし。
「再構築……錬金術みたいな?」
「近いと言えば近いかな。この世界の環境――魔素に適応したり、不自由なく活動するため。後は異能を与えるためにね。だから、君たちはこの世界の基本的な言語はだいたい理解できるようになっている。まあ、自動翻訳機能みたいなものだよ。推測だが、元の世界に帰還する時も同じようなことが行われ、あちらの世界には存在しないものを抽出して元の時代に戻されるんではないかな?」
「ほう、ほう」
「……あの。魔素に適応、ですか?」
「魔素は、ある種の薬みたいなものでね。身体の進化を促し、馴染んでくると身体能力が向上し、さらに多くの魔力を精製できるようになる。これがレベルアップと言えるね」
この辺は、RPGのような仕組みと言えるだろう。
子供たちの憧れだ。
実際、興味津々のリクたち。
彼らに次々と質問を受け、それらに回答していく。
「じゃあ、沢山魔素を取り込めば――」
「急激に取り込みすぎると身体を壊し、最悪死に至る。大陸は東へ行くほどに魔素が濃くてね。勇者召喚が最西端の教国で行われるのはそういう理由もあるんだ。当然、魔物も東側の方が強い」
「……ん? 先生は勇者召喚じゃなくて、何らかの事故でこの世界に来たんだろ? 言語とかどうだったんだ?」
「――死に物狂いで一から覚えたよ。はじめは訛りとか酷かったけど」
本当に大変だった。
人間だった頃も。
魔人になってからしばらくも。
その件で、陛下とかイザベラに弄られまくったしな。
曰く、ゴブリンとオーガとオークの言語を発酵させて、無理やり人間の標準語にぶち込んだよう……だったらしい。
正直意味が分からない。
「そういえば、さっきソロモンという人の話が出てましたけど。200年前の召喚って、何人の勇者が召喚されたのですか?」
………まあ。
いずれは話すことだしな。
「一人だ。というより、歴代の異世界勇者が複数人一度に現れた前例はない」
「「――え?」」
困惑の声をあげる四人。
今までの話で一度も触れられていないので、これが普通だと思っていたのだろう。
俺自身、見たことがない例なので。
これがどういうことなのかは分からない。
だが、それはともかく。
先ほどまでの魔素の話の影響もあり。
顔を青くしている彼らを早く安心させてあげないとな。
「まあ、体調も安定しているようだし。全員この世界の環境に適応できていることは間違いない。恐らく異能もいずれ開花するだろう。――心配しなくて大丈夫だよ」
「そう……ですよね」
「じゃあ、イレギュラーってことなのか」
「あぁ。加えて言うなら、実は200年前に召喚された異世界の勇者っていうのは、大陸ギルドの前身であるユスティアを作った人であって、勇者ソロモンではないんだ」
「そうなんですか? でも、勇者召喚は一人だけって」
大分ギルドへ近づき。
そろそろ、すれ違う人々にも荒くれや重厚な鎧を着た者などが混じり始めている。
道行く連中も中々に屈強で…おい。
その重鎧で冒険は無謀じゃないか?
新人冒険者の良くある勘違い。
硬ければ何とかなるを地で行くとはな。
新人冒険者の死亡率が減らない理由の一つでもあるが。
せめて、彼が無事に引退できることを祈っているか。
道行く新人冒険者たちを眺めながら。
彼らの行く先を憂う。
俺は彼等とは敵対する立場だが、冒険者として活動しているときは助言をすることだってある。
―――とりあえず、陸の質問か。
「勇者は二種類存在するんだ。皆のように別世界から、その世界の加護…つまり異能だね、――を授かってくる外由来の者。そして、この世界の神である六大神の加護を一つ授かって生まれてくるこの世界由来の勇者だ」
「じゃあ、勇者ソロモンって……」
「この世界由来の勇者だ。大陸ギルドを作った異世界の勇者とは一緒に行動する仲間で、恋人同士だった……と、言われている」
危ない、危ない。
あまりに懐かしくて。
もう少しで昔話を披露するところだった。
……本当に、仲のいい二人組で。
俺とソロモンが馬鹿をやって正座させられるまでがお約束だった。
決闘の後。
彼女の方とは一度も会わないままで。
既にこの世を去ったと聞いている。
いくら強くても、ただの人間だからな。
―――歩いていると、やがて。
俺たちの前には、周囲の住居や商店よりも圧倒的に大きな構造物が見えてきた。
「と、待たせたね。ここが大陸冒険者ギルド、その教国支部だ」
「……これが」
「結構…かなりでかいな」
「この世界のギルドは図書館とかジムみたいな役割も兼ねてるし、中には武術の訓練所もあるからね」
学校の校舎ほどもある建物に驚く四人。
多くの人に職を提供し、あぶれた人間にも機会を与える。
沢山の人を救い、生きるための知識を与えたいという一人の人間の考えから生まれた施設だ。
「――あぁ。先に言っておくけど、扉を開けると屈強な男どもに睨まれるから気を付けて? 特に男二人は」
「「え」」
「様式美みたいなものだ。無視しておけば問題ないさ。……可愛い女の子たちがいない場合は」
「「?」」
女性陣に視線を送りながら。
簡単な説明を行う。
新人が来ると、男の場合は睨まれ、女の場合は絡まれる。
これ、大陸冒険者ギルド共通の日常風景。
人間の美醜基準はあちらの世界と変わらないので、ハルカやミオのような美少女は男共の欲望の対象である。
まあ、娼館に行くお金もないような冒険者が新人いびりをして憂さを晴らしていることも多いから、大した問題じゃないさ。
「――先生、もしかして口説いてます?」
「そうなんですか?」
「残念ながら恋人がいる。これでも身持ちは堅い方…だと思うから」
「素直に納得できないうえに、その表現は女性を指していう言葉じゃなかったですか?」
「恋人に関してはメッチャ気になるけどな」
はッ、これだからインテリ系は。
一々言葉の上げ足取らなくていいんです。
まあ、ここは大人として対応しなきゃな。
みんなまだこの世界に来たばかりで不安だろうし、俺が守る必要がある。
「じゃあ、中に入るよ? いつまでも出入り口にいると邪魔だし」
「はい」
「おっし、いくか!」
「おっ邪魔しまーす」
ともかく、扉を開けて屋内に入ると。
きちんと整理・整頓が行き届いた館内。
多くのイスが設置されており、受付の人たちがいるカウンターは、日本の市役所によく似ていると思う。
やはり、見慣れない連中であるためか。
数グループの冒険者に睨まれる。
数人は、既に声をかけるためのアップをはじめているな。
ま、とりあえず。
かわいい弟子たちを守るためなので、仕方なく
「あれ?」
「確かに視線は感じますけど、どちらかというと怖がられてるような」
「確かに、そんな…えぇ……」
「――先生、睨みつけるのはやめてあげてください。僕たちも普通に怖いです」
「……そんなに?」
「先生を怒らせるのはやめようと思うくらいには怖かったね」
(外見は)まだ若いのに…。
少しショックである。
借りてきた猫のようになってしまった冒険者たちはスルーして。そのまま開いているカウンターに向かう。
リクとコウタは興奮を隠しきれないようで、落ち着きなく辺りを見回している。
この辺は、男の子の方がロマンを感じやすいんだろうな。
「気になってたんですけど、人間以外の種族とかはいないんですか?」
「いないことは無いけど。この辺では珍しいね。まあ、四人はもう会ってるけど」
「「……え?」」
「すみません。冒険者登録の手続きをお願いしていいですか?」
「……えっと、はい。こちらの用紙にそれぞれ必要事項の記入をお願いしま――って。……へ? ナクラ様ぁ!?」
屈んでカウンターの下を整理していたと思われる受付嬢は、取り出した用紙をこちらに差し出そうとした状態で固まってしまう。
面識はないはずだが。
上位の冒険者が職員に顔を覚えられることは珍しくないからな。
こういうことも普通に……。
「よ、よよよよウこそ教国第二支部へ」
―――いや。
ここまでオーバーなのは初めてだ。
「先生、いじめちゃダメじゃないですか」
「そう見えるかい?」
もしかして、変な顔してた?
無意識に変なこと言っちゃったかな?
…という冗談はさておき。
あちらも仕事なのだから、働いてもらわなければ。
「さっき睨んでたせいじゃないか…?」
「あの、大丈夫ですか?」
「――あっ、すみません! ご容赦をッ! 私には帰りを待つペットと秘蔵のお酒が!」
ひとり暮らしのOLかな?
さすがにここまで怖がるのは異常だ。
誰かが俺の良くない噂を流しているのかもしれないな。
アイツの正体は魔王の部下だとか。
人類の天敵だとか。
―――残念、全部本当の事だ。
すでに錯乱の状態に突入していそうな受付嬢。
彼女をどうにか宥めようとしていると、一人の男性職員がカウンターの奥から現れた。
制服についている腕章から。
彼は支部長階級なのだろうが…実は、この国での俺の活動拠点はもう一つの支部なので、この人物とは初対面。
ちょっと尻込みしてしまうな。
それでもこっちに来たのは。
あちらの支部長は少し、かなり、凄く強面なので。
女性陣には刺激が強いと思ったからだ。
「――すみません、ナクラ様。彼女は新人でして…どうかご容赦を」
「あなたは……?」
「申し遅れました。支部長のハロルドです。こちら、用紙を」
「あ、すみません。はい皆、これを」
「「ありがとうございます」」
支部長――ハロルド氏に登録用紙を受け取り、皆に配る。
中々の紳士のようだな。
にしてもハロルド。……はて?
「もしかして、【赤熱】のハロルドさん?」
「おや、ナクラ様に知っていただけているとは。光栄な限りで――」
「――はっ!私は何を!?」
「……アルム君。この方々の応対は私がするから、君は次の人たちの相手を頼むよ」
「年齢って書く必要あるんですかね?」
「先生、この出身国とかは……」
大分情報が交錯してきたな。
というか、近くにある飲食スペースの音も騒がしく。
おちおち話もできない。
カウンターは受付嬢が次の人を応対するために使うだろうし、席は満員だから、どこで用紙を書かせたものか。
「立ち話もなんです。お連れ様の登録用紙は個室の方で書き込まれてはいかがですか? 実は、ナクラ様に依頼したいことがありまして」
「……討伐任務ですか?」
「えぇ、はい。恥ずかしながら」
「でしたら、丁度良い。話を聞かせてもらいましょう」
◇
ハロルド氏に案内され。
個室に通された俺たちは、促されるままに席に腰を下ろす。
「――じゃあ、出身は教国でいいんですね?」
「あぁ。あと、使用武器はとりあえず剣で。得意な魔術とかは書かなくていい」
元々大した疑問点もなかったようで。
リクたちに登録証を書かせる作業は滞りなく完了した。
用紙を皆から回収し。
俺が、対面に座るハロルド氏に渡す。
「えぇ。こちらで大丈夫です。よろしくお願いしますね、見習い冒険者――いえ。勇者の皆さん」
「「―――!」」
「……ギルド上層部が知っているのは当然として。ハロルドさん、あなたもですか」
「教国から最初にその話を通されたのは私とスウォーレンですからね」
当然と言えば、当然か。
勇者の召喚にあたり。
最初は、自国のギルド支部へ話を持っていくのが自然な流れだ。
因みに。
スウォーレンとは、教国第一支部の支部長。
筋肉モリモリの強面おじさんのことだ。
「では、さっきの依頼っていうのは」
「はい、実は猊下…ロッド・フィアネス様から、ナクラ殿の性格であればスウォーレン殿のいる第一支部ではなく、こちらの支部に行くでしょう――という話を聞いていまして」
「あの老体は……」
流石、というべきか。
「まるで、手のひらですね」
「なんか物語の黒幕みたいだな」
「あの優しさは、あたしたちを惑わすための罠だった…とか?」
「さすがに失礼……でもないですね」
茶目っ気たっぷりの老枢機卿め。
彼が楽しそうに笑っている顔が容易に頭に浮かぶわ。
どうせ、俺たちが驚いたさまを後で聞かせてもらうために黙っていたのだろう…食えない爺さんだ。
「じゃあ、勇者を育てるための依頼なんですね?」
「えぇ。それで、内容なのですが――」
「カボード遺跡で、オーガ種が出没したとの情報が来ているのです」
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