第31話 意外な結果

 俺の龍桜の調理が終わり、料理を盛った皿を持ってリビングに戻る。

 なぜか、料理を見た黒羽達から変な視線を向けられたが、どうしたのだろうか?


「残りも運んでくるから待っててくれ」


 黒羽達に一声かけてキッチンに戻って龍桜に話しかける。


「なあ、あいつら何であんな目で俺達を見て来たんだ?」

「私達の料理のクオリティが異常に高いからじゃないから呆れているだけだろう」

「確かに全力で作ったが呆れるほどか?」


 改めて作った料理をよく見てみるが、綺麗に盛り付けてあるだけで呆れられるようなものではない。

 龍桜の料理も見てみるが、綺麗に盛り付けることを意識すれば出来ないことはない程度だ。


「私達みたいに盛り付けを拘る人は珍しいだけだよ」

「そんなことないと思うんだがな」

「一般的に言う料理が出来るは高級レストランのような綺麗に盛り付けられた料理を作れるとは違うんだよ」

「ん~、そんなもんなのか」

「お前はもう少し常識を身に着けた方がいいな」

「会長には言われたくないですね」


 俺の言葉に龍桜は俺に視線を向けると、先ほどの黒羽達以上に分かりやすく呆れた顔で俺のことを見て来る。

 その目はどう見ても俺より常識があると言いたい目だな。


「お前は自分がどれだけ常識がないか分かってないのか?」

「え?」


 予想外の言葉に変な声で返したが、龍桜はそのことを気にせず俺の反応を見てため息をついた。


「その様子だと気づいてないようだな」

「……会長はどうなんですか?」

「私はそれなりに理解しているつもりだ」

「…………俺、そんなに常識ないですか?」

「どう考えても私よりないだろ」

「………………そうですか」


 何か言い返してやりたかったが、自分の常識がないことを理解している分龍桜の方が常識があるのかもしれない。

 それにしても俺の常識がどこに行ったんだ?

 前世では引きこもりがちのめんどくさがりだったが一般常識はあったはずなんだがな。

 チート能力に頼りまくってたから忘れただけかな?


「何をぼーっとしている。待たせてるんだからさっさと運ぶぞ」

「ああ、そうですね」


 龍桜に言われてどうでもいい考えを打ち切り、料理を盛ってリビングに戻る。

 リビングに戻ってさっそく黒羽達の前に俺が作った三種類と龍桜が作った三種類の料理を並べる。


「では、一品ずつ食べてどちらが美味しいか選んでもらう形式でいいか?」

「ああ、じゃあ俺の一品目はこれで」

「では、私はこれで行こう」


 俺と龍桜が並べられた料理の中から一品を前に出すと、黒羽達は少し戸惑いながらお互いに顔を見合わせて頷いて口を開いた。


「「「「「「いただきます」」」」」」


 全員が箸を持って取りやすい方の料理を小皿に取って一口食べて全員が目を見開いて固まった。

 少しの間何も言わずに黙って見ていたが、一向に動かないので声を掛ける。


「お前ら、片方だけじゃなくて両方食べてから考えろよ」

「ああ、悪い……予想以上に美味しかったんでな」


 京谷は何とも言えない顔をしながら先ほどとは違う方の料理を小皿に取って一口食べる。

 京谷が動き出したことで全員が最初と違う方を食べて全員が無言のまま俯いてしまった。

 どちらが美味しかったか考えているのだろうから黙って見ているが、誰も何も言わない無言の時間が数分続いた。


「どうした?遠慮せずに美味しかった方を好きに選んでいいんだぞ?」

「会長の言う通りだぞ。自分の好みで好きに選んでも文句は言わないぞ」


 俺と龍桜の言葉にずっと俯いて黙っていた京谷が顔を上げた。

 京谷は何とも微妙な言いにくそうな顔で話し始めた。


「えっと、多分、全員同じ考えだと思うが……」

「「ん?」」


 料理勝負に置いて全員の考えが同じになるとはどういうことだろうか?

 圧倒的な差があるなら分かるが、見た感じ龍桜と俺にそんな大差はないはずだ。

 それなのに考えが一致することがあるのか?

 京谷は黒羽達に視線を向けて何か確認した後に俺達に視線を戻して口を開いた。


「はっきり言って、俺達にはどっちが美味しいか選べない」

「「は?」」


 予想外の言葉に俺と龍桜が驚き、京谷の言葉が本当なのか確認するために黒羽達にも視線を向ける。

 黒羽達は微妙な顔をして何も言わずにただ頷いて返してきた。

 全く予想してなかった結果に俺と龍桜は口元を引きつらせて顔を合わせる。


「どうします?」

「勝負がつかないなら普通に食べる以外ないだろう」

「それもそうですね」

「決着は次の機会につけるとしよう」

「俺はいつでもいいですよ」

「私もだ」


 龍桜と少しの間睨み合った後、お互いにため息をついて視線を外して手を合わせる。


「「いただきます」」


 俺達が勝負を諦めて普通に昼食を食べ始めたのを見て輝夜が声を掛けて来る。


「そもそも兄さんと同レベルの人との料理勝負なんて一般人に判定が出来るわけないでしょうに」

「そういうことはもっと早くに言って欲しかったな」

「私は龍桜さんが兄さんと本当に同レベルだなんて思わなかったから」

「まあ、次に勝負するときはちゃんとした審判がいるって分かっただけでも十分だろう」

「審判なんてどうやって用意するの?」

「………………知らん」


 俺の言葉に輝夜は呆れた顔で俺のことを見て来るが俺は気にせずに龍桜が作った料理を小皿に取って食べる。

 ん、本当に美味しいな。

 これは……


「十六夜さん的にはどちらが美味しかったんですか?」

「……俺の方がって言いたいが、一対二で俺の負けかな」

「!?」


 まあ、あくまで俺の意見だから実際にはどうなるか分からないけどな。

 それでも今回は俺の負けかな。

 …………次までにもっと料理の腕磨いておかないとな。


「それで午後から何をするんだ?」

「何も考えずに遊びに来たんですか?」

「考えては来たが、こんなに大人数だとは思ってなかったからな」

「ああ、それはそうですね」


 確かに、たまたま大人数になっただけだからな。

 八人で出来ることって何かあったかな?

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