第30話 料理勝負

 家に戻って来てすぐに使わない食材を冷蔵庫にしまい料理の準備を始める。

 龍桜に食器の場所と調理器具の場所を簡単に説明して調理を始める前に、黒羽達に一声かける。


「これから作るからリビングで待っていてくれ」

「分かりました」


 黒羽がリビングに向かったのを見て龍桜に視線を向ける。


「調理器具の位置は覚えたか?」

「当然だろう。私はもう始められるぞ」

「じゃあ、始めるか」

「よし」


 キッチンはそこそこ広いので二人で調理をしても問題ないくらいのスペースはあるな。

 まあ、あんまり待たせても悪いから作り始めるか。




 十六夜さんと龍桜さんがキッチンで調理を始めたのをリビングから見ていると、唯さんが声を掛けてきた。


「二人のこと気になるの?」

「はい、十六夜さんがあんな態度をとるのは珍しいので」

「まあ、学校ではいつもあんな感じだけどね」

「そうですか……」


 龍桜さんのことはよく分かりませんが、十六夜さんはどうしてあんな何龍桜さんのことを毛嫌いするのでしょう。

 家に来ても怒らないことを考えると、嫌いというわけではなさそうですが……


「なあ、あの二人仲悪いんだよな?」

「私に聞かれても知らないわよ」

「すごく息が合ってますね」


 京谷さんの疑問の声とそれに対する優香さんと輝夜の声に三人に視線を向けると、キッチンを見ていた。

 不思議に思いながらキッチンに視線を向けると、十六夜さんと龍桜さんが調理をしていた。

 二人はお互いの邪魔にならないように無言で場所を移動しながら自分の作業を無駄なくこなしている。

 お互いに邪魔にならないだけでなく、調理器具の受け渡しや場所の交代も何も言わずに息の合った動きでお互いに違うものを作っている。

 包丁さばきなどの全ての動きがどう考えても高校生のレベルではないのは、この際気にしませんが、どうしてそんなに息が合っているのでしょうか?


「十六夜さんと龍桜さんは以前にも一緒に料理を作ったのことがあるのでしょうか?」

「お互いに料理が得意なことは今日初めてしったはず……」

「それであれだけ息が合うものなんでしょうか?」

「……あの二人は普通じゃないから…………」

「…………それもそうですね」


 龍桜さんに関しては何とも言えませんが、十六夜さんは確実に普通ではないですね。

 普通ではない者同士何か通じ合うものがあるのでしょうか?


「そういえば、唯さんも料理得意ですよね」

「え?まあ、それなりに得意ですけど……どうしてですか?」

「参加しなくていいんですか?」

「……え?」


 私がキッチン指さして問いかけると、唯さんは呆けた声を出して固まった。

 唯さんはゆっくりと視線をキッチンに向けて固まったまま何も言わなくなってしまった。


「そうね。唯の腕なら混ざれるんじゃない?」

「む、無理です!?絶対に無理です!?」


 優香さんが私と同じように唯さんに問いかけると、唯さんはやっと動き出して首と手を振って全力で否定した。

 私達のやり取りを聞いていた輝夜が話に入ってくる。


「唯さん、そんなに料理得意なんですか?」

「と、得意ではありますけど……あそこまで人間離れしてませんから」

「別に兄さん基準で言ってないんですけど……」


 輝夜の問いに唯さんは困った顔で返すが、輝夜も唯さんの返答に困った顔になる。

 まあ、輝夜からしたら十六夜さんと同じくらいに人間離れしている人がいる方が怖いだろうしね。

 実際に、先ほどまで十六夜さんと同レベルの調理をしている龍桜さんを引きつった顔で見ていたし、同レベルの人がもう一人いるなんて考えられないか。


「むしろ、兄さんと同レベルのあの人は何者なんですか?」

「「「「「…………」」」」」


 私も初めて龍桜さんとあったため答えられずに澪さん達に視線を向けるが、全員が困った顔をして何も答えなかった。

 同じ生徒会の役員である澪さんも答えられないなら、多分誰も分からないのだろう。


「まあ、十六夜と同じくらいの天才……かな」

「兄さんと同レベルの天才…………」

「輝夜、気持ちは分かるけど、あれを見るに事実だと思うよ」

「……」


 しばらく考えて出した澪さんの答えに輝夜は引きつった顔をする。

 キッチンで調理をする二人を見ながら輝夜に声を掛けると、輝夜もキッチンに視線を向けて苦笑した。

 意外と身近に十六夜さんと同レベルの天才がいるとは思わないよね。

 むしろ、十六夜さんが天才を引き寄せてるんじゃないかと本当に思えてくるほど、十六夜さんの周りには天才が多い。


「私ももっと頑張らないとな……」

「まあ、黒羽なら大丈夫だよ」

「そうだといいんだけどね」


 輝夜は励ましてくれるが、私が頑張っても十六夜さんに追いつける気が全くしない。

 ずっと、十六夜さんのために料理を作っているが、未だに十六夜さんに料理の腕で負けるし、知識量でも十六夜さんに勝てない。

 十六夜さんが苦手というものではたまに勝てるようになったが、それ以外では未だに勝てない。


「澪さんは料理得意なんですか?」

「私?私は……苦手ではないけど、得意でもないかな」

「ああ、なんとなくわかりました」


 料理は作れるが、特別美味しいというわけではないのだろう。

 

「普通は料理作れない奴も多いのによくやるよな」

「京谷さんも少しは作れるようになった方がいいですよ」

「そうね。京谷も料理くらいできるようになった方がいいわね」

「別にいいだろ」


 良くはないと思うのだけど……まあ、京谷さんがそれでいいならいいのでしょう。

 十六夜さんと違って一人暮らしをする予定がないなら、作る必要はないでしょうし。

 私達が雑談をしていると、十六夜さんと龍桜さんが料理を持ってリビングに戻って来た。


「待たせたな。残りも運んでくるから待っててくれ」


 十六夜さんと龍桜さんが置いて行った料理を見て私達は何も言えずに固まってしまった。

 どう見ても高級レストランなどで出てきそうな料理が盛られた皿に私達は何も言えなかった。

 あの二人は本当に普通科の高校生なのでしょうか?

 料理の専門学校に行った方がいい気がするのは私だけではないはずです……

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