第29話 全員集合

 何でもない夏休みの一日、いつものように黒羽が遊びに来ていた。

 しかし、何でもない一日で終わってくれなかった。


「おはよう、兄さん。ちゃんと生きてる?」

「ちゃんと生きてるだろ」


 最初に来たのは輝夜だった。


「おう、遊びに来たぞ」


 次に来たのは京谷だった。

 そして……


「起きてるみたいね、おはよう」

「おはようございます」

「来たわ」

「時間的にはこんにちはじゃない?まあいいわ、遊びに来たわ」

「…………なぜ?」


 優香、唯、澪、龍桜の四人が来た。

 一時間にも満たない時間で一気に人口密度が上がった。

 今までも二、三人が来ることはあったが、一気に六人も来るのは初めてだ。


「なんで今日はこんなに人が来るんだ……」

「いや、偶然なんだがな」


 俺の疑問に京谷が答えてくれる。

 しかし、そんなことは分かってる。

 目の前で自己紹介をしてる黒羽や輝夜、澪達を見て現実逃避をしているだけだ。


「偶然って怖いな」

「別に集まって困ることはないだろ」

「困るだろ、昼食どうするんだよ。八人分の材料なんてないぞ」

「それはみんなで買いに行けばいいだろ」

「つまり、俺も外に出ないといけないのか……」

「外出が嫌なだけかよ」


 隣で京谷がため息をついているが、つい最近外出したばかりなのにまた出かけないといけないのか……


「まあ、この状況が怖いのは確かだな」

「?」

「十六夜には分からないよな」

「ん?」


 京谷の呟きに首を傾げると、呆れ顔でため息をつかれた。

 偶然は怖いが、この状況はそこまで怖いとは思わないが……

 京谷の呟きの意味を確認するように視線を黒羽達に向けるが、普通に話している。

 特に何にもなさそうだが、京谷は何が怖いのだろうか?


「十六夜さん、昼食の材料が足りないと思うのですが……」

「ああ、確実に足りないだろうな」

「買い出しに行きますか?」

「ああ、行かないとどうしようもない」

「そうですよね」


 黒羽が京谷と話していたことを確認してくる。

 急にこんなに来るから買い物に行くことになったのはどうしようもない。

 外出は嫌ではあるが、この際仕方ないのだから買い物に行くか。


「来て早々悪いが、昼食の材料が足りないから買い物に行くぞ」

「ん、確かに、この人数の材料はないか。何か買ってくれば良かったな」

「今更気にしなくていいですよ。昼は俺が何か作るんで買い出しだけ付き合ってください」

「十六夜が作るのか、それは心配だな」

「会長が作るよりましですよ」

「ほう、いい度胸じゃないか」

「何か文句がありますか?」


 澪や優香達は俺と龍桜の口喧嘩を見慣れているのでまたかみたいな顔で見ているが、黒羽や輝夜、未だになれない唯の三人は心配そうに俺達を見て来る。

 しかし、今はそんなことはどうでもいいのだ。

 料理はチート能力抜きで自信のある分野だ。

 いくら龍桜が天然のチートでも簡単に負けるわけにはいかない。

 黒羽や唯に負けるならまだいいが、龍桜だけには絶対に負けたくない。


「じゃあ、勝負しますか?」

「いいだろう。ちょうど審判をしてくれる人もいるしな」

「お互い三品ずつ作って判断してもらう。これでいいか?」

「問題ない、材料費はお互いが持つでいいな」

「いいですよ」

「それでは、買い出しに行こうか」

「ええ」


 俺と龍桜の二人で話を勝手に進めて準備をして家を出る。

 後ろから黒羽達と雑談をしながら近くのスーパーで材料を買いそろえる。

 メニューを考えながら食材を見て言うと黒羽が話しかけてきた。


「龍桜さんとはいつもあんな感じなんですか?」

「ん?まあ、大体いつもあんな感じだが、それがどうかしたのか?」

「お二人ともすごく仲が良さそうだったので」

「……黒羽、あれが仲良く見えるなら精神科に行った方がいいぞ」

「精神面に異常はないので大丈夫です」


 いや、あの口喧嘩を見て仲良く見えるのは精神面に問題があるとしか思えないが……

 そういえば、前に澪も似たようなことを言っていたな。

 最近は全く言ってこなくなったが、黒羽も澪も何が見えてるんだ?


「どうして龍桜さんとあんな感じなんですか?」

「どうしてって言われてもな……」


 理由を聞かれると何で困るな。

 何と説明すればいいのか、上手く説明できないが、強いて言うなら。


「認めたくないから……かな?」

「認めたくないですか?」

「何でって聞かれたら答えられないが、あいつを認めるのは癪に障る」

「龍桜さんと出会ったのは最近ですよね」

「ああ、生徒会に誘われた時に初めて知った」

「そうですか……」


 俺の言葉に黒羽は何か考え始めるが、俺にも分からないんだから考えても分からないと思うぞ。

 分かる可能性があるとしたら俺か龍桜のどちらかだろう。


「黒羽が気にすることじゃないさ。周りに迷惑がかかるような喧嘩はしないだろうから、またかくらいの気持ちで流してくれ」

「…………分かりました」

「どうしてそんなに不満そうなんだ?」

「なんでもありません」

「?」


 何でもないって顔じゃないが、まあ、気にしてほしくないなら踏み込まない方がいいか。

 さて、何を作ろうかな。

 黒羽達の好みのものを作れば余裕なんだが、それだと卑怯だしな。

 正々堂々と勝負するなら、得意料理で三品そろえるのがいいか。

 あんまり時間を掛けると昼食が遅くなるからさっさと買うか。

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