第28話 お出かけ

 花火大会から一週間をのんびりと過ごしていた。

 一週間で京谷や優香、唯に澪まで遊びに来た。

 優香と唯はいつの間に仲良くなったんだ?


「十六夜さん、起きてますか?」

「ああ、起きてる」


 合鍵で入って来た黒羽の問いに返して振り返る。

 黒羽はカバンをソファーの隣に置いて話しかけてくる。


「何か食べましたか?」

「いや、まだ食べてない」

「では、急いで何か作りますね」

「別に急がなくてもいいぞ」

「いえ、今日はお出かけするので遅くなるとゆっくり出来ませんから」


 あれ?今日出かける約束なんてしてたっけ?

 黒羽の言葉に俺が首を傾げて考えていると、黒羽が疑問に答えてくれた。


「花火大会の日に付き合ってくれると言ったじゃないですか」

「ああ、あれのことか」

「はい、なので急いで作るので準備してきてください」

「ああ、分かった」


 黒羽に言われるがままに部屋に向かい外出用に服を着替える。

 部屋に置いてある外出用のカバンを持ってリビングに戻ると、黒羽が料理をテーブルに並べていた。

 早くない?黒羽さん、早すぎません?

 あれ?五分くらいしか経ってないよな?


「簡単なものですみません」

「い、いや、別にいいんだが……早すぎない?」

「少し急いで作りましたから」

「……そうか」


 料理って五分で作れたんだな。

 深く考えるのはやめてさっさと食べよう。

 黒羽が作った料理を食べ終わると、黒羽が急いで食器を片付けた。

 片付けを終えた黒羽はリビングに戻ってくると、持ってきたカバンを持った。


「それでは行きましょうか」

「ああ」


 黒羽に言われるがままカバンを持って家から出ると、市内へ向かって移動する。

 移動中に黒羽に今日の予定を問いかける。


「それで今日はどこに行くんだ?」

「見たい映画があるので最初に映画館に行きます」

「何か面白い映画あったかな?」


 黒羽が見たいような映画をやってるとはな。

 たまには映画の確認した方がいいかな?


「十六夜さん、最近の映画確認してますか?」

「いや、確認してない」

「たまに面白い映画もやってるので確認した方がいいですよ」

「黒羽が面白いって言うなら確認してみるかな」

「見たいものがあれば声を掛けてくださいね」

「ああ、見つかればな」

「はい」


 まあ、あんまり外出したくないから本当にたまにだろうがな。

 それにしても黒羽が見たい映画か、どんな内容なのか気になるな。

 映画館ならすぐに着くし楽しみにしておくか。


「それにしても映画館に行くの何年ぶりだろ?」

「十六夜さん、最近はほとんど引きこもっていましたから、四、五年ぶりじゃないですか?」

「ああ、確かにそれくらいかもな」

「外出が好きじゃないのは知ってますが、たまには出た方がいいですよ」

「分かってはいるんだがな……」


 正直な話、家でのんびりして過ごすのが一番好きなんだよな。

 黒羽や京谷達と出かけるのも楽しいんだが、やっぱり引きこもり生活はやめられない。

 チート能力で面倒事は楽に終わらせられるからな。


「あ、映画館が見えてきましたよ」

「意外と近いよな」


 家から十分ちょっとで着く距離に映画館があるのは便利だな。

 交通機関が家から近いのに引きこもりをしてる俺がおかしいのかな?

 いや、たまの買い物の時間を短くするのに交通機関が近くないといけないから正しいのか。

 どうでもいいことを考えていると、映画館に着いた。

 黒羽にチケット代を渡して待っていると、二人分のチケットを買って戻って来た。


「ポップコーン食べますか?」

「んー、食べようかな。味は黒羽が選んでいいぞ」

「では、塩で」

「じゃあ、買いに行くか」


 二人でポップコーンとジュースを買い映画の時間を待つ。

 少し待つと入場が可能になり、入場して席に座って周りを見渡してみる。

 俺と黒羽以外の客がほとんどいない。


「この映画人気ないのか?」

「結構マイナーな映画ですし、公開されて日にちも経ってますから」

「なるほど」

「マイナーでも面白そうな映画ですよ」

「黒羽が選んだ映画だからその辺は疑ってないさ」

「ありがとうございます」


 少しの間黒羽と話していると、映画が始まった。

 映画の内容はホラー、推理、ちょっとしたSF要素でかなり複雑で難しい内容だった。

 これは……面白いが、一般受けはしないだろうな。

 理解出来れば面白いんだが、複雑すぎて気軽に見ようと思う作品ではないな。

 この映画を面白いと思いそうなのは、黒羽以外だと澪と龍桜ぐらいかな。


「どうでした?」

「ああ、面白かった」

「良かったです。十六夜さん以外だと誘う相手がいなかったので」

「まあ、この映画の内容がかなり複雑だからな」

「私はこれくらい複雑な方が面白くて好きなんですけど、周りで好きな人がいないんですよね」

「俺の周りにも黒羽以外だと二人くらいだな」


 まあ、黒羽の好みが俺に似たのが大きな影響だろうが……

 あれ?黒羽に友達が少ないのって俺のせいか?

 黒羽に文句を言われたらその時は謝るか。


「それで映画見た後はどうするんだ?」

「近くでデザートを食べて本屋で本を見ようかと」

「ポップコーン食べたばかりだろ?」

「塩辛いものを食べたので甘いものが食べたいんですよ」


 黒羽くらいの女子が甘いもの好きなのは分かるが、カロリーの取り過ぎとか気にしないのか?

 輝夜は気にしてた気がするんだが、人によるのか?


「輝夜は結構カロリー気にしてるが、黒羽は気にしないのか?」

「糖分は脳が全部消費するので大丈夫です」

「脳はブドウ糖しか消費しないがな」

「細かいことは良いんですよ」


 細かいことではないと思うが……

 ブドウ糖以外のカロリーはどう消費しているのだろうか?


「実際に私は甘いものはよく食べますが、太ったことはないですよ」

「……確かに、昔から甘いものよく食べてたな」

「私が太ってた覚えありますか?」

「無いな」

「でしょ」


 黒羽が太らない理由はよく分からんが、確かに太っているのは見たことが無い。

 この世界の住人が太らないというわけではないから、黒羽がまた特殊なんだろう。

 面倒だから聞き流してたが、輝夜が愚痴ってた覚えもあるな。

 ん?そういえば、優香もすごい量食べてたな。

 あれ?やっぱり、太らないのが普通なのか?


「それでは行きましょう」

「ああ、そうだな」


 もう、いいや、考えて分からないことがこの世界にもあるんだ。

 いつか優秀な科学者が証明してくれるだろう。


 考えることを放棄して黒羽とデザートを食べに行った。

 黒羽が優香と負けない量を食べていたが、一切気にしない。

 考えるだけ無駄なのだ、考えてはいけない。

 世の中、身近にも不思議なことはたくさんあるものだ。

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