第26話 変わらない日常

 射的で遊んだ後はクレープを買って糖分補給をしながら出店を見て回る。


「黒羽、何か食べたいもの決まったか?」

「一応決まりました。十六夜さんはどうですか?」

「俺も決まったぞ」


 クレープを食べ終わり、黒羽に問いかけると決まったようだな。

 ごみを捨てて食べるものを買って会場から離れるか。


「じゃあ、ごみ捨てに行くか」

「そうですね。確か、向こうにごみ捨て場がありましたよ」

「じゃあ、道案内頼む」

「分かりました」


 黒羽の指示に従いながらごみ捨て場に向かう。

 道案内してくれるのはありがたいが、少し近すぎないか?

 人が多いものあるだろうが、そんなに近づいたら歩きにくいだろうに……


「見えましたよ」

「お、本当だ」


 黒羽が指さした先にごみ箱が並んでいたので、クレープのごみを捨てる。

 黒羽も捨てたのを確認して、周りを見渡しながら黒羽に問いかける。


「それで何が食べたいんだ?」

「たこ焼き、焼きそば、綿菓子あとイカ焼きです」

「結構食べるな……」


 黒羽の返事に呆れながら周りを見渡して一番近い出店を探す。

 黒羽の食べたいものを買いながら、俺も食べたいものを買って出店が並ぶ祭りの会場から離れる。


「それでおすすめの場所ってどこなんだ?」

「ちょっと道が複雑なので案内します」

「ああ、よろしく」


 黒羽に手を引っ張られながら目的の場所に移動し始める。

 最初は普通の道だったのだが、途中から明らかに人がいなくなった。

 その上、明かりもほとんどない道を歩いていく。


「おい、去年こんなところに輝夜と二人で来たのか?」

「そうですけど?どうかしましたか?」

「はあ、女子二人で人目のないところに行くのはやめとけよ。変質者に襲われたらどうするんだ?」

「撃退します」


 無防備な黒羽に注意すると、まさかの即答で返された。

 大人の男が相手だったらどうするんだよ。


「私護身術色々習ってるんでかなり強いですよ」

「それでももしものことがあるだろ。これからは気をつけろよ」

「……分かりました」


 黒羽が俺の言葉に少し驚き、俯きながら返してきた。

 俯いてるせいで良く見えなかったが、少し嬉しそうな顔をしてるように見えたが気のせいか。


「それにしても本当に人いないな」

「もう少しで目的の場所ですから大丈夫ですよ」

「この辺になんかあったか?」

「はい、ほとんど人が来ない公園があります」


 公園ね、言われてみればあったような気がしないでもない。

 地元だしもう少し覚えておいた方がいいかな。


「着きましたよ」

「ん?ああ、ここのことか」

「はい、昔遊びに来ましたよね」

「と言っても二、三回くらいだろ」

「四回です」


 ここ結構急な坂の上だし、何もないしで来る理由がないんだよな。

 昔なんでこんな場所に遊びに来てたんだろうな。


「あそこのベンチに座って食べましょう」

「そうだな」


 黒羽が指さしたベンチに座って袋に入っているものをベンチに置き座る。

 袋から焼きそばを出そうとして、ふと思い出した。


「あ、飲み物買ってなかった」

「飲み物ならすぐそこに自動販売機がありますよ」

「じゃあ、ちょっと買ってくるよ。何が飲みたい?」

「普通にお茶でいいですよ」

「分かった」


 黒羽に飲みたいものを聞いてベンチから立ち上がり、自動販売機でお茶を二本と水を一本買って戻る。

 ベンチに戻ると綿菓子を食べていた黒羽が可愛らしく首を傾げて問いかけてきた。


「水も飲むんですか?」

「いや、飲むためにかったわけじゃないさ」

「じゃあ、どうして?」


 黒羽の問いに対して俺は黒羽の頬を指で突っついた。

 いきなりのことに黒羽は驚いて固まった。

 黒羽の頬から指を話した俺は突っついた指と親指を合わせる。


「綿菓子が顔についてねばねばしてるぞ」

「……え!?あ…………」


 顔に綿菓子がついていると分かって黒羽が頬を赤く染めて俯いてしまった。

 恥ずかしそうな黒羽を見てくすくすと笑うと、頬を赤く染めたまま黒羽が頬を膨らませて睨んでくる。

 睨んでいるが可愛いだけで全く怖くない。


「笑わなくてもいいじゃないですか」

「ああ、悪いな。子供っぽい黒羽が可愛くてな」


 俺の言葉に黒羽はさらに頬を染めて俯いてしまう。

 黒羽の隣に座りながら話しかける。


「ほら、早く綿菓子食べな。顔拭いてやるから」

「……自分で拭きます」

「そうか」


 黒羽の言葉を聞いてお茶と水を黒羽の近くに置いてやると、急いで綿菓子を食べた黒羽がハンカチを水で濡らして顔を拭いた。

 普段大人っぽい黒羽にしては子供らしい姿に微笑んでいると、ジトっとした目を向けられた。


「いつまでそんな顔してるんですか?」

「ん?いや、黒羽にも子供らしいところがあるんだなって」

「恥ずかしいので一刻も早く忘れてください」

「善処するよ」

「絶対ですよ!?」


 珍しく大きい声を出す黒羽に微笑みながら返事をして焼きそばを取り出す。

 俺が焼きそばを食べ始めたのを見て黒羽も諦めたように焼きそばを取り出して食べ始めた。

 恥ずかしかったのかしばらくの間無言だったが、焼きそばを食べ終わりたこ焼きを黒羽が取り出した時に話しかけてきた。


「十六夜さんも食べますか?」

「ああ、少し貰うよ」

「では、どうぞ」


 焼きそばを食べていた割りばしでたこ焼きを持ち上げてこちらに差し出してくる。

 口を開けると、黒羽が口の中にたこ焼きを入れてくれた。

 買ってからそこそこ時間が経っているがまだ暖かい。


「美味いな」

「流石に冷めてましたか」

「……まさか、熱々のを食わそうとしてたのか?」

「さっき笑われた仕返しをしようかと」

「まだ気にしてたのか……」


 笑われた仕返しに熱々のたこ焼きを口に入れるのはどうなんだ?


「そう簡単には許しませんから」

「はあ、今度なんか付き合ってやるから機嫌直せよ」

「分かりました。考えておきますね」

「切り替え速いな」


 不満そうな顔をしてたのに一瞬でいつも通りに戻りやがった。

 はあ、黒羽の考えを読むのは無理そうだな。

 もしかして、不満そうなふりをしてただけか?

 そんなことを考えながらイカ焼きを食べてると、一瞬明るくなった後にドンっという音が聞こえた。


「始まったようだな」

「そのようですね」


 先ほどまでの考えていたことを忘れて打ち上げられる花火を二人で眺める。

 本当に良く花火が見える場所だな。

 食べながら花火を見ていると、黒羽が話しかけてきた。


「来年も二人で来ましょうね」

「そうだな。ここで見るなら来てもいいかもな」

「約束ですよ」

「分かったよ」


 黒羽に返事をしながら花火を見つめる。

 黒羽もそれ以上なにも言わずに黙って花火を見つめた。

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