第25話 花火大会
黒羽と浴衣を買いに行った翌週、花火大会に行くために黒羽は前日の金曜日に泊りに来た。
というか、黒羽の両親はこんな頻度で泊まりに行くことをよく許してるな。
いくら小さい頃からの知り合いで、良く知ってるからってこの頻度は止めるべきだろ。
「十六夜さん、準備出来ましたか?」
「ああ、もう着替え終わってるぞ」
「それでは行きましょうか」
「そうだな」
考え事をしてると、黒羽の着替えが終わったようで洗面所の方から出てきた。
ん?そういえば、ここで着替えるってことは今日も泊まるのか?
「黒羽、まさか、今日も泊まるのか?」
「え?そうのつもりですけど、だめでしたか?」
俺の問いに対して黒羽が不安そうな顔で問い返してきた。
泊まるか確認しただけでそんな顔するなよ。
「いや、だめではないが……何日も泊まりに来ておばさん達は何も言わないのか?」
「そのことですか。それなら大丈夫ですよ、しっかりと許可は貰ってるので」
「そうか」
黒羽が安心したような顔をした後、いつも通り微笑んで当たり前のように言う。
黒羽の両親も結構放任主義だよな……
くだらないことを考えてないでさっさと行くか。
「十六夜さんは何か食べたいものとかありますか?」
「そういう質問は出店を見てからするものだろ」
「そうかもしれませんが、お祭りの出店は大体同じじゃないですか」
「まあ、定番の物はあるな」
焼きそばやたこ焼き、かき氷、クレープは大体あるしな。
「というか、定番の物以外食べたことの方が少ないな」
「そうですね。私も基本的にクレープやたこ焼きとかしか食べませんね」
「まあ、着いてから気分で決めればいいだろ」
「……そうですね」
結局、行ってみないと決められないしな。
基本的に定番の物を食べてるとは言え、気分で変わるからな。
それにしても黒羽にしては珍しく変な話だったな。
……ん?普段は自然と会話してるのに、さっきから何も話してないな。
まあ、そんなに気まずいわけではないからいいが、黒羽調子でも悪いのか?
んー、見た感じいつも通りだよな?
やっぱり、気のせいか。
「なあ、黒羽」
「どうかしましたか?」
俺の呼びかけに不思議そうに首を傾げる黒羽を見ながら問いかける。
「いつも俺と一緒にいるが、学校に友達と遊んだりしないのか?」
「……休みの日に一緒に遊ぶ友達は輝夜くらいですから」
「笑って言うことじゃないぞ」
何でも内容に微笑んで返してくる黒羽に苦笑しながら返すと、黒羽はさらに笑って返してきた。
「いいんですよ。十六夜さんと一緒に居る時間が一番幸せですから」
「はあ、そう言ってもらえて俺も嬉しいですよ」
「十六夜さん、手繋ぎませんか?」
「ん?ああ、そろそろ人が多くなって来たしな」
微笑んで言う黒羽の言葉に俺は周りを軽く見て返す。
会場に近づくにつれて人が増えるな。
まだ、明るい時間からこれだと会場はもっと多くなるんだろうな。
会場の人の多さを予想してため息をつきながら黒羽の手を握る。
「人が多い場所はやっぱり苦手ですか?」
「ああ、そう簡単に変わらないさ」
「辛くなったら言ってくださいね」
「ああ、悪いな」
「いえ、気にしないでください」
出店で買うだけ買ってどっか花火が見やすい場所に移動した方がいいかもな。
正直、これ以上の人混みに長い間いると倒れそうだ。
会場近くで花火が見やすそうな場所が無かったか考えながら黒羽と手を繋いで会場に向かう。
会場に着くとたくさんの出店が並び、たくさんの人が出店を見て回っていた。
「もうこんなに人が来てるんですね」
「なあ、黒羽。人が少なくて花火が良く見える場所ってあったか?」
「ありますよ。去年、輝夜と一緒に来た時に見つけましたから」
「それは助かるな」
最近、こういうイベントに参加してなかったせいか、前以上に人混みがダメになってるな。
出店で買い物してる間に倒れなければいいが、大丈夫かな?
「取り合えず、出店を見て回るか」
「十六夜さんはお腹空いてますか?」
「いや、まだ空いてない」
「なら、最初は少し遊びましょうか」
「遊ぶねー」
夏祭りの遊びって金魚すくいや射的、ヨーヨー釣りくらいしか思いつかないな。
金魚は欲しくないから、射的かヨーヨー釣りか。
「射的とヨーヨー釣りどっちやりたいんだ?」
「その二択しかないんですか?」
「見た感じその二つか金魚すくい以外ないしな」
俺が周りを見渡しながら言うと、黒羽も周りを見渡して悩み始めた。
まあ、黒羽のことだから射的を選びそうだな。
いや、景品次第で変わるか。
「射的をやりましょう」
「気に入った景品があったのか?」
「はい、あのキーホルダーが欲しいです」
「キーホルダーか、簡単に落ちそうだな」
射的の出店の前で黒羽が指さした先には可愛らしい熊のキーホルダーが置いてあった。
大きさからして当たれば簡単に落ちるだろうけど、当てるのが大変そうだな。
「黒羽当てられるか?」
「多分大丈夫だと思う」
「最後の一発までで落とせなかったら俺がやるよ」
「十六夜さん、一発で落とせるんですか?」
「やってみないと分からん」
黒羽が驚いた顔で俺のことを見て来るが、流石に俺も一発で落とせることはない。
コルクの軌道がどう曲がるかしっかり分析しないと流石に当たらんだろう。
黒羽が撃つコルクの軌道をしっかり見ていると、一発目で普通に当ててキーホルダーを落とした。
いや、一発で落とすのかよ。
「あ、落ちました……」
「良かったじゃないか、まだ弾は余ってるし他に欲しいものでも狙ったらどうだ?」
「……他にですか…………」
欲しいものを落としたのに微妙な顔をしている黒羽に提案すると、景品が並ぶ棚の一点を見つめた。
黒羽の視線の先を見ると、コルクの弾で落ちるのかと言いたくなるような熊のぬいぐるみが置いてあった。
「あのぬいぐるみか?」
「……はい」
「あれ、落ちるかな……」
「分かりません……」
「……はあ、やれるだけやってみるよ」
「お願いします」
少しの間ぬいぐるみを見てため息をつきながら黒羽からコルク銃を受け取った。
キーホルダーより的は大きいから当てるのは簡単だが、どうやって落とすかが問題だな。
はあ、取り合えず、一発試しに当ててみるか。
一発ぬいぐるみの頭に当てると少しだけ動いた。
「動くってことは時間を掛ければ落とせるか」
「けど、それだとお金がかかりませんか?」
「まあ、その辺は何とかなる。思った以上に揺れたから何とかなるだろ」
黒羽は俺の言葉よく分からないのか可愛らしく首を傾げているが、今は構ってないで弾の軌道をコントロールできるように分析しないとな。
取り合えず、残った三発もぬいぐるみの頭を狙った撃っていく。
大体狙った場所に当たるようになったな。
「おじさん、もう一回お願い」
「はいよ」
出店のおじさんにお金を渡して弾を五発貰う。
弾を貰い一発をコルク銃にセットして残りは取りやすい場所に置いておく。
深く息を吸いってゆっくりと吐き出して集中する。
周りの音が聞こえなくなると、ぬいぐるみに視線を向けて先ほどと同じ場所を狙い撃つ。
弾を撃った直後に弾を取ってセットして撃つ、それを繰り返すとだんだんとぬいぐるみが大きく揺れて五発目で棚から落ちた。
「ふー、ギリギリ落とせたな」
「すごい!?やっぱり、十六夜さんはすごいです!?」
隣の黒羽が拍手をして珍しくはしゃいでいるが、チート能力を使ってるから出来たことなんだよな……
まあ、チート能力ありでギリギリだったとなると、能力の使い方が下手なのかな?
そんなこと考えていると、おじさんがぬいぐるみ持ってきた。
「おめでとうさん。まさか、簡単に落とされるとは思わなかったぜ」
「簡単ではなかったさ。結構ギリギリだったしな」
「それでも二回で落とされる難易度じゃなかったんだがな」
「それは悪かったな」
「まあ、他にも目玉商品はあるからいいさ」
「そうか、まあ、俺も楽しかったよ」
「おう、じゃあな」
おじさんと軽く話してぬいぐるみをもって出店から離れる。
出店から離れてすぐにぬいぐるみを黒羽に渡した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。少し頭を使い過ぎたから甘いもの食べようぜ」
「分かりました。向こうにクレープの出店がありましたよ」
「じゃあ、行ってみようか」
「はい」
黒羽が指さした方を見ると、確かにクレープ屋の看板が見えたので歩きだそうとすると黒羽に手を握られた。
いきなりで少し驚いて黒羽に視線を向けると、左手でぬいぐるみを抱えた黒羽が微笑んで口を開いた。
「手を繋がないとはぐれますから」
「ああ、そうだったな」
さっきの射的で頭を使い過ぎて忘れてたわ。
嬉しそうに微笑む黒羽の顔を見て黒羽の手を握り、クレープ屋に向かって歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます