第22話 黒羽への贈り物

 黒羽と一緒に遅い晩飯を食べ終えた。


「ごちそうさまでした。相変わらず、とても美味しかったです」

「お粗末様です」


 黒羽はいつものように微笑んでいるが、少し不満そうだ。


「不満そうだが、何か苦手なものでもあったか?」

「あ、いえ、私も料理の練習を頑張ってるのに全然追いつけないなと思いまして」

「そういうことね。けど、黒羽の料理も美味しいから俺は好きだぞ」

「ありがとうございます。片付けは私がやっておくのでお風呂に入ってきてください」

「ああ、よろしくな」


 黒羽に言われた通りに食器の片付けを任せて風呂に入った。

 風呂から上がると食器の片付けをした黒羽が氷を入れたコップにジュースを注いで渡してくれた。


「どうぞ」

「ああ、ありがとう」


 喉が渇いてるなんて言ってないのによく分かったな。

 しかもいつも飲んでるゆずのジュースを入れてくれるとは思ってもいなかった。


「冷蔵庫に冷やしてあったので、風呂上がりに飲むのかなと」

「それだけでよく分かったな」

「まあ、十六夜さんとは長い付き合いですから」

「だからってよく分かるな。優香や京谷でも知らないぞ」


 本当に黒羽はよく分からない特技があるよな。

 チート能力を持ってる俺でもそれだけの情報じゃ分からないぞ。

 俺の言葉に黒羽は楽しそうに微笑むと、俺の疑問に答えてくれた。


「輝夜に聞いたんですよ。風呂上りによくこのジュースを飲んでるって」

「ああ、そういうことか。全く、あいつは余計なことを喋ってないだろうな」

「大丈夫ですよ。輝夜も変なことは喋ってませんから」

「問題がありそうなら止めてくれ」

「はい、任せてください」


 まあ、輝夜のことは黒羽に任せておけば問題ないだろう。

 あいつは普段学校で何を話してるんだ?

 少し気になるが、知らない方がいいこともあるよな。


「それで、これからどうする?」

「流石にさっきのゲームをやると途中で寝そうですね」

「なら、アニメでも見るか?」

「はい、アニメ観賞にしましょう」

「じゃあ、準備するから少し待ってくれ」

「分かりました」


 黒羽はテレビと向かい合うように置かれているソファーに座った。

 俺はテーブルにジュースとお菓子を置き、黒羽の隣に座ってテレビをつけてアニメを再生した。

 アニメ観賞を始めて一時間くらい経つと黒羽が倒れ掛かってきたので受け止めて頭を膝の上にのせる。


「眠いなら言ってくれれば切り上げたのに」


 黒羽に膝枕をしてやり、まだ途中のアニメ観賞を一人で再開する。

 アニメを見終わるとテレビを消して寝ている黒羽に視線を向ける。

 随分と幸せそうに寝ているな、こいつは。

 俺も一応男で、今は二人きりなのに、こんなに無防備なのはどうなんだ?

 俺を信じてるのか、それとも男と思ってないのか、どのみちもう少し警戒するべきだな。


「はあ、俺も寝るかな」


 そのためには黒羽を動かさないといけないが、起こすのは可哀想だし抱えて運ぶか。

 黒羽を起こさないようにゆっくりと頭を上げて立ち上がり、ゆっくりと丁寧に黒羽をお姫様抱っこする。

 そのまま寝室の俺のベットに黒羽を運び、布団に寝かせて電気を消してリビングに戻る。

 テーブルの上を簡単に片づけて先ほどまで座っていたソファーに横になって電気を消して寝る。


 何か物音で目を薄っすらと開けると、黒羽がテーブルの上に何かを置いているのが見えた。

 黒羽は俺が薄目を開けたのに気付いたようで近づいて来た。


「おはようございます。もう少しで朝食が出来るので先に顔を洗ってきてください」

「ん?ああ、分かった」


 黒羽に言われた通りに洗面所に移動して顔を洗う。

 顔を洗ったことで少し眠気が覚める。

 リビングに戻ると黒羽が朝食の準備を終えて待っていた。


「待たせたか?」

「いえ、ちょうど準備が終わったところですから」

「そうか。今何時だ?」

「朝の九時半です」


 箸が置かれている黒羽の隣に座りながら時間を聞く。

 九時半ということは思った以上に早く起きたようだ。


「黒羽はしっかり寝たのか?」

「はい、六時間寝れれば私は大丈夫なので」

「六時間……俺は十二時間睡眠が理想かな」

「十二時間は流石に寝すぎですよ。けれど、今日は早く起こしてしまいましたが、大丈夫ですか?」

「まあ、一週間の睡眠時間が三時間の時に比べれば問題ない」

「それは比べる対象がおかしいです」


 黒羽は俺の言葉に苦笑して返しながら朝食を食べていく。

 まあ、黒羽の言う通りあの時と比べると何でもましか。

 最終的に一週間が終わって気絶するように寝たからな。


「まあ、それは置いておいて、今日はどうするんだ?」

「明日は学校なので夕方には帰ります」

「じゃあ、それまではゲームでもして遊ぶか」

「そうですね。昨日のゲームの続きをしますか?」

「いや、あれは時間がかかりすぎるから他のゲームの方がいいだろ」

「……それもそうですね」


 黒羽は昨日十時間ぶっ通しでゲームをしていたことを思いだしたようだ。

 確かに俺も好きなゲームだが、時間が限られていると出来ないからな。


「まあ、俺が持ってるゲームでも適当にやろうか」

「それでは今日のゲームは十六夜さんにお任せします」

「分かった」


 まあ、適当に二人で遊べるゲームをやればいいだろ。

 飽きたら他のゲームに切り替えればいいしな。

 そんなことを考えながら朝食を食べ終わり、黒羽が食器を片付けている間にゲームの準備を済ませる。

 ゲームの準備を終わらせる頃には黒羽が片付けを終え、テーブルにジュースとお菓子を用意していた。


「それじゃあ、昼まではこのゲームでいいか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「じゃあ、これで」


 黒羽にゲームの確認を取りゲームを始める。

 黒羽と朝からゲームするのはよくあることなのでもう慣れてしまった。

 一人暮らしを始めてから本当に黒羽はよく遊びに来る。

 いつものように黒羽と遊んで過ごし、夕方になるころには黒羽が帰る準備を始める。

 黒羽が帰る準備をしている間にテーブルの上を簡単に片づけると、黒羽が荷物を持って声を掛けてきた。


「それでは私はもう帰ります」

「あ、ちょっと待ってくれ」

「?はい、分かりました」


 黒羽に待つように言ってパソコンが置いてある部屋に向かう。

 パソコンが置かれている机の引き出しからある物を手に取りリビングに戻る。

 リビングでは少し不思議そうな顔をした黒羽が待っていた。


「何をしていたんですか?」

「これを渡そうと思って取りに行ってたんだ」


 俺が取って来た物を黒羽に渡すと不思議そうな顔で可愛らしく小首を傾げる。


「この鍵は?」

「ここの合鍵」

「え?」


 俺が何の鍵が答えると、黒羽は驚いたようで目を見開いて俺と鍵を交互に見ている。

 そんなに驚くことあるか?ただ、合鍵を渡しただけなんだが……


「どうして私に?」

「いや、ほぼ毎週来てるし、荷物が多い時に俺が開けるの待つのは大変だろ?」

「えっと、そうですね……」


 俺が黒羽が持っている泊り用の荷物が入ったバッグに視線を向けると、黒羽も視線を向けて小さな声で返した。

 声が小さくなっているということは今までも少しは思っていたのだろう。


「まあ、部屋を荒らさなければ俺が留守の時でも勝手に入っていいから」

「分かりました。それでは今度からはそうします」

「後、輝夜にも言うなよ。何か言われそうだから……」

「分かりました。輝夜にも秘密にしておきます」

「じゃあ、またな」

「はい、また来週に」


 あ、来週も来るんだね。

 黒羽の言葉に苦笑して見送り、玄関の鍵を掛ける。

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