第20話 十六夜と和美

 輝夜に買い物に付き合わされた次の日、授業をさぼって生徒会室に向かうと龍桜と澪がいた。


「何してるんだ?二人とも」

「ん?会長とチェス」

「十六夜、お前もやるか?」


 チェス盤を覗き込むと龍桜に誘われた。

 チェスのルールは知ってるんだが、やったことはないんだよな。


「まあ、いいですよ。ただ、ルールを知ってるだけの素人なのでお手柔らかに」

「安心しろ、一切の手加減をせずに本気で相手をしてやろう」

「そんなこと言って負けて恥をかくのは会長ですよ」

「十六夜こそ、私に負けた時の言い訳ではないのか?」

「はは、面白いこと言いますね」


 龍桜と二人でお互いに馬鹿にするような顔で言い合っていると、龍桜に負けた澪がため息をついて問いかけてきた。


「はあ、会長本当に強いけど大丈夫なの?」

「そもそもやったことがないから分からん」

「本当にやったことないんだ」

「まあな」


 チェスをするために澪に代わってもらい、龍王の対面に座る。

 チェスの駒を並べなおして準備をする。


「手加減はしないが、いいだろう?」

「お好きにどうぞ」

「それじゃあ、遠慮なく」


 いや、初心者相手にいきなり先手とるなよ。

 せめて先手後手くらいの相談はしようぜ。


「先手有利のゲームで相談なく先手取る経験者がいるか?」

「この次は先手を譲るさ」

「あっそ」


 容赦なく先手を取った龍桜の手を見て少し考えて適当に駒を動かした。

 龍桜もすぐに駒を動かしたが、おそらく定石で動かしているのだろう。

 五手程適当に動かした後はお互いにゆっくりと考えながら駒を動かしていく。

 龍桜のように定石などは一切知らないが、チート能力による演算能力で数手先まで予想しながら動かしている。

 そのためか龍桜は序盤ほどの余裕はないようだ。


「十六夜、本当に初めてなんだよな?」

「ああ、俺の周りでチェスやる奴いないからな」

「これは手加減していたら負けていたな」

「ん?」

「これでチェックだ」


 ん?んー、これは……どう逃げても積むな。


「はあ、負けました」

「おや、チェックメイトとは言ってないが、負け確なのが分かったのか?」

「それくらいは分かるさ」

「それくらいの手数ではないのだがな……」


 俺の言葉に龍桜は呆れたようにため息をつくが、お前も大概だろうに……

 こっちは神様に貰ったチート能力使って演算してるんだぞ。

 定石を知らないからってそうそう負けることはないはずなんだが……


「まあいい。二回戦目を始めるぞ」

「次は俺が先手だからな」

「分かっている」


 一応言葉に出したが、先手を取る気はなかったようだ。

 さっき定石を見せられたからな使わせて貰おう。


「人の戦略を盗むの早いな」

「何が戦略だ。チェスの定石だろうに」

「定石を知らなかったのだろう?」

「だからなんだ?使えるものは使う」

「いい性格をしているな」

「お前には言われたくないな」


 お互いに軽口を叩きながらも一手一手真剣に考えながら駒を動かしていく。

 さっきは余裕がなさそうに見えたが、今はそんな素振りは見せてないな。

 下手に弱みを見せないようにしてるだけか?


「それにしても会長強いですね」

「これでもチェスはよくやる方でな。生徒会のメンバーだと相手がいなくて退屈してたのさ」

「会長に付き合わされる人が不憫なほどですからね」

「ハンデはつけているのだがな」


 澪が不憫と言うほど酷いのか?

 そういえばさっき澪も負けてたな。

 というか、こいつ他の役員にはハンデつけるのに素人の俺にはハンデなしで本気でやってたのか?

 どんだけ俺に負けたくないんだよ。


「余計なことを考えているとまた負けるぞ」

「余計なことを考えているように見えましたか?」

「見えたというよりは勘だな。何か失礼なことを考えているような気がしてな」

「うわー、すごいですね。当たってますよ」

「少しは否定したらどうだ?」

「遠慮しておきます」


 龍桜の言葉を適当に流しながら盤面に視線を戻す。

 今回は互角と言ったところかな?

 問題はお互いに駒も減ってきたのにチェックすら出来ないことか。

 このままだと引き分けになるな。


「どうしたんだ?」

「会長、負け以外なら何でもいいんですね」

「おや、バレていたのか?」

「勝ち逃げが目的なら勝つ必要はないですからね」

「まあ、そういうことだ。それでどうするんだ?」

「はあ、質が悪い」


 龍桜が勝つことを二の次に負けないように動いてる以上、勝つことは難しい。

 チート能力を使ってる俺と互角とか、こいつ天然のチートじゃないか?

 やれるだけやってみるしかないな。

 それからお互いに何も話さずに一手一手に集中するが、結果はステイルメイトで引き分け。


「危ない危ない。こんなに追い詰められたのは初めてだよ」

「本当に逃げ切りやがった」

「チェスは引き分けが多いゲームだから気にすることはないさ」

「じゃあ、引き分けがないゲームで勝負をつけるか?」

「残念ながら私はこれから授業に出るのでな。ゲームはまた今度だ」

「今までさぼってたやつの言葉じゃないだろ」


 チェスを片付けながら言う龍桜にため息をついて返す。

 これだけ授業さぼってるのに今更出席する理由はないだろうに……


「今日のところは勝ち逃げさせてもらうよ」

「次は負けないさ」

「二人とも仲いいのね」

「「お前の目腐ってるのか?」」


 隣で呟いた澪の言葉も気に入らないが、何よりそれに対する返しが龍桜と被ったのが気に食わない。

 一瞬だけ澪にジトっとした目を向けたが、すぐに龍桜と睨み合う。

 そんなことをしていると隣からため息が聞こえてきた。

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