第18話 黒羽の苦悩

 私が十六夜さんに初めて告白したのは小学校の二年の時でした。

 夏休みに十六夜さんと二人で遊びに行った帰りに少し遠回しに告白しました。


「十六夜さん、これから先も二人で一緒にいろんなところに行きましょうね」

「ああ、いいぞ。また行きたい場所があれば誘ってくれ」

「……はい」


 まあ、好きなんて言ってないので全く気づかれませんでしたが……

 それでも子供の私にとってはかなり勇気を出しての告白でしたからとても落ち込みました。

 相談できる友達も輝夜くらいしかいませんでしたが、好きな相手の妹に相談する勇気もありませんでしたから一人で悩みました。

 しばらくして立ち直った私は色々と考えて夏休みの間にもう一度告白する決意をして一緒に夏祭りに行きました。

 夏祭りの帰り道で私は夜空を見上げて満月を見ながら有名な言葉で少し遠回しに告白しました。


「月が綺麗ですね」

「そうだな。雲がないから満月がよく見える」


 あの時程泣きたくなったことはありません。

 かなり有名な告白なので十六夜さんも知っているはずなのに気づかれないと思いませんでした。

 この告白から私は十六夜さんが気づいていないふりしているのではと考え、いろんなアプローチをしながら様子を見ることにしました。

 しかし、工夫を凝らしたアプローチにもまるで気づいた様子がありませんでした。

 もしかしたら今は恋愛をする気がないのかと思い直接聞いてみました。


「十六夜さんは恋愛に興味が無いんですか?」

「ん?かなり急だな」

「最近恋愛小説を読んだので気になったんです。それで十六夜さんは興味が無いのでしょうか?」

「興味はあるぞ。けど、俺のことを好きになる物好きなんていないだろ」

「……そうですか」


 十六夜さんの言葉は嘘をついているようには見えませんでした。

 私はこれでも結構積極的にアプローチしたはずなのに私がその物好きだとは思ってないようです。

 つまり、十六夜さんは本当に私の告白に気づいていないだけ……

 というかこの質問をしている時点で私が好意を抱いていることに気づかないのでしょうか?

 十六夜さんが気づいていないだけだと分かった私は勇気を出して直球で告白することにしました。

 下手に遠回しに告白するから上手くいかない、なら直球以外の道はないと思っていました。


「十六夜さん、私と付き合ってください」


 小学校の図書室で十六夜さんと二人きりになったタイミングを見て私は告白しました。

 十六夜さんも流石にここまで直球で言えば気づかないわけがないはずでした。


「付き合うのはいいけど、どこに行くんだ?」

「……え?」

「ん?どっかに遊びに行く誘いだろ?」

「……あ、は、はい」


 え?遊びの誘い?

 確かに付き合うにはそういう意味もあるけど、この場合そっちの意味ではないでしょ!

 ええ、えっと、とにかく遊びに行く場所、行く場所、取り合えず映画館にしておこう。


「えっと、ちょっと気になる映画があったから」

「映画か、分かった。詳しい日付とか決まったら教えてくれ」

「分かった」


 予想外の返しに訂正できなかった私も悪いのかな?

 まあ、デートの約束が出来たから良しとして前向きに考えることにしました。

 私はその経験から次は聞き間違いがないように言葉に気を付けて告白しました。

 また、十六夜さんと二人きりになったタイミングでした告白は何の問題もなかったはずです。


「私は十六夜さんのことが好きです」

「ん?俺も黒羽のこと友達として好きだが、急にどうしたんだ?」

「……な、何となくです」


 十六夜さんに告白した中で心が折れそうになったのはこの時ですね。

 本当に直球で投げたのに友達として好きと解釈されてはどうしようもありませんでした。

 この時も予想外の出来事で否定出来なかったのが悪いところではあるのですが、訂正しても伝わらなかったでしょう。

 私が十六夜さんに面と向かって行った最後の告白は六年前の夏休みでした。

 いつものように二人で遊んだ帰りに私は勘違いが出来ない告白をしました。


「十六夜さん、愛しています。私と付き合ってください!」


 我ながらまともに告白出来なかった七年前と比べると成長したなと思いました。

 これで断られたらきっぱり諦めて十六夜さんの親友としていつまでも隣に居ようと考えていました。


 しかし、これだけ頑張った私の告白も届きませんでした。


「黒羽も『愛してます』好きなのか?」

「……?」

「『愛してます』ってバンドのライブだろ。よく俺が好きなの知ってたな」

「………………?」


 正直意味が分かりませんでした。

 十六夜さんの言葉が理解できずに上の空で返事をしていると、十六夜さんが好きだった『愛してます』というバンドのライブに一緒に行くことになっていました。

 家に帰ってある程度落ち着いた私は『愛してます』というバンドについて調べると、十六夜さんが見ていたアニメのエンディング曲のバンドグループということと一週間後に近くでライブをやることが分かりました。

 この告白で私は十六夜さんがただの鈍感ではないということを思い知らされたんです。




 私の話を聞いた御二人はあまりにも予想外だったのか驚いたまま固まってしまいました。

 固まっている御二人のことを気にせずに私は続けました。


「そのライブの後から私は願掛けとして髪を伸ばし始めました」


 私は三つ編みにして肩にかけている髪を優しくなでながら話す。

 六年間の私の努力の証。


「それから私は本当に努力しました。あまり好みのタイプを話さない十六夜さんのタイプを研究して、近づけるように矯正もしました」


 まあ、性格の矯正に関してはストライクゾーンが広いようだったのでほとんどしてませんが、むしろ十六夜さんの好みを私に近づけた方が正しいですね。

 いくら余裕があると言っても多少の牽制くらいしておいた方がいいでしょう。


「何をしてきたか詳しくは言いませんが、少しずつ確実に攻略しています」

「…………まあ、黒羽が相当の苦労しているってことは分かったわ」


 どうやら御二人とも我に返ったようですね。

 まあ、これから御二人がどんな努力をするか分かりませんが、並大抵の努力ではどうにもならいことは確かですね。


「その髪、それだけ長いと手入れ大変なんじゃ?」

「髪の手入れに関しては全然大変ではありませんよ。願いを込めて毎日丁寧に手入れしてますから、正直少し楽しんでいます」

「そうなんだ」


 私の言葉に澪さんは苦笑してしまった。

 優香さんも私の言葉に呆れてため息をついている。

 御二人がどう思おうと関係ありません。

 十六夜さんが似合っていると言ってくれただけで満足です。

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