第17話 遭遇

 いつも通り十六夜さんの家に遊びに行った翌日の日曜日。

 私は一人で市内の本屋に本を買いに来ていたが、昨日の十六夜さんとの話を何となく思い出した。

 生徒会長の龍桜さんに誘われて生徒会に入ったのはいいですが、龍桜さんの話をする時の十六夜さんは今までに見たことない様子だったのが気になりますね。

 なんというか、腐れ縁の友達?親友でしょうか?憎まれ口を叩いていましたが、嫌っているようには思えませんでした。

 それに、同じ生徒会の役員という同級生で入試首席の天才椎名澪さん。


「はあ、十六夜さんはまた無意識に……」

「ため息なんてついてどうしたの?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、優香さんと白髪の女の人が立っていた。

 優香さんは珍しものを見たような顔で私のことを見ているが、白髪の人は無表情のまま私と優香さんを見ている。


「少し考え事をしていただけですよ。それでそちらの方は?」

「あなたでも悩むことがあるのね。紹介するはこっちは同じ学校の椎名澪。で、こっちが一つ下の後輩で蓮見黒羽」

「初めまして、蓮見さん」

「初めまして、お話は十六夜さんから少し聞いています」

「十六夜から?」


 優香さんの紹介で前に出てきた椎名さんが差し出した手を握りながら返すと、椎名さんは少し驚いたようで目を見開いて優香さんに視線を向ける。

 椎名さんの聞きたいことが分かったのか優香さんは何でもないように返した。


「黒羽は私より前から十六夜とよく一緒に遊んでるから、最近遊んだ時に聞いたんだと思うわ」

「そういうこと」

「それでお二人はこんなところで何をしているんですか?」

「本屋に来る理由なんて本を買うくらいでしょうに」


 私が聞きたかったのはどうして二人が一緒に本屋に来ているのかということなのだが、まあいいか。

 折角の機会だし高校での十六夜さんの話でも聞いてみよう。


「折角ですから、この後少し話しませんか?」

「私はいいけど、澪は?」

「私も大丈夫」

「それではお店は本を買ってから決めましょう」

「そうね」


 一度優香さんと椎名さんと別れて買う予定だった本を探し、会計を済ませると二人はすでに会計を済ませて本屋の出入り口で待っていた。


「お待たせしました」

「そんなに待ってないわよ」

「取り合えず、お店を探しに行きましょうか」

「はい」


 三人で市内を軽く歩いて回り、近くの喫茶店に入って適当に注文を済ませた。

 早速二人に高校での十六夜さんについて問いかけた。


「早速なのですが、高校では十六夜さんはどう過ごされていますか?」

「十六夜のことね……」


 二人に問いかけると優香さんに呆れた顔でため息をつかれた。

 そんなため息をつくほど酷い質問ではないと思うけど……


「私は今週から話すようになったから詳しく知らないわよ」

「椎名さんには生徒会で十六夜さんがどう過ごしているか教えてください」

「生徒会に十六夜が入ったの最近だから話すことなんて少しだけしかないけど……」

「はい。少しでもいいのでぜひ教えてください」

「わ、分かったわ」


 優香さんに続いて椎名さんも苦笑して隣の優香さんに視線を向けた。

 椎名さんの視線に優香さんはため息をついて首を横に振って返した。

 椎名さんが視線を私に戻したのを確認して優香さんも私に視線を戻して口を開いた。


「生徒会に入ってから興味が無い授業をさぼるようになったくらいで基本的には中学校と変わらないわよ」

「生徒会役員が授業をさぼってもいいんですか?」

「ええ、私は十六夜以上にさぼって生徒会室で過ごしてるもの」


 実力主義とは聞いていたけど生徒会役員でも授業をさぼることを許されるのはどうなんだろう……

 そういえば、生徒会に入って宿題を免除されたって喜んでましたね。


「最近は十六夜も授業さぼる時は生徒会室に来てるわよ」

「一緒に授業をさぼって生徒会室で何をされてるんですか?」

「生徒会室にある本を読んでるだけよ。基本的に生徒会室で何してても怒られないけどね」

「そうですか……もしかしてですが、生徒会長も一緒に授業をさぼっているんですか?」

「たまにはさぼってるけど、私や十六夜程はさぼってないわよ」


 私の質問に椎名さんは首を傾げながらも返してくれたが、優香さんは私の質問が気になったのか問いかけてきた。


「どうして急に生徒会長の話になるの?」

「いえ、十六夜さんが生徒会長の話をする時に今まで見たことない様子だったので」

「十六夜と生徒会長に何かあるの?」

「特に何かあるわけじゃないわよ。私もだけど会長に対して全く敬意を払ってないだけ……いや、十六夜は私と少し違うかもしれないけど」


 椎名さんは何でもないように話していたが、何かを思い出したようで少し言い直した。

 十六夜が人に全く敬意を払わないなんてことがありえないんだけど……

 人と関わろうとしないから表立って敬意を払うことはないけど、関わる相手は努力を認めて敬意を払うし、そうじゃないならどんな理由があってもまず関わらないはずなんだけどな。


「澪と十六夜でどう違うの?」

「私はただ敬意を払ってないだけだけど、十六夜は憎まれ口を叩いたりからかったりしてるから」

「確かに十六夜にしては珍しいけど、会長はそんな十六夜を許してるの?」

「なんだかんだ言ってるけど、会長も会長で十六夜に憎まれ口叩いてからかってるからいいじゃない。それに二人とも認めないけど楽しそうに話してるし」


 私が考え事をしている間にどうやら優香さんが椎名さんに問いかけたようだ。

 予想通り生徒会長と十六夜さんはお互いに何か感じるものがあったのかもしれない。

 これに関してはこれ以上かんげても結論は出ないかな。


「生徒会長とのことは分かりました。他に十六夜さんの周りで変わったことはありませんか?」

「変わったことって言うなら澪と唯が友達になったくらいよ」

「増えた友達が二人とも女性ですか……」

「女友達くらいあなたは気にしないでしょ」

「ええ、私は優香さんと違って十六夜に好意を抱いている女友達でも気にしませんよ」

「随分と余裕そうね」


 優香さんの言葉に私が微笑んで優香さんに返すと、優香さんは目を細めて私の方を見てきた。

 何も言わずに少しの間睨み合う私たちに椎名さんが少し困ったような顔で話しかけてきた。


「……えっと、どうしてそんなに喧嘩腰なの?」

「決まってるじゃないですか。私たちは一応恋敵ですから」

「そういうわけよ。十六夜を取り合う物好き二人ってこと」

「…………ということは私もその物好きに入るわけですか」

「え?」


 椎名さんの言葉に優香さんは驚いて視線を私から椎名さんに移した。

 椎名さんは優香さんと私を見ながら微笑んで続けた。


「私も十六夜のことを好きになったから」

「……はあ、ライバルが増えたわけね」

「私は歓迎しますよ。これから澪さんと呼んでもいいですか?私のことは黒羽で良いので」

「ええ、これからよろしくね、黒羽」

「はい。よろしくお願いします、澪さん」


 私は微笑んで澪さんと改めて握手をしていると、優香さんがため息をついて私に視線を向けてきた。

 優香さんだけでなく澪さんも何か気になることがあるようで話しかけてきた。


「話を戻すけど、どうしてそんなに余裕があるの?」

「それは私も気になってたわ。ライバルが増えるのはあなたにとっても好ましくないはずなのに、あなた全く気にしないわよね」

「簡単ですよ。私が十六夜さんのことを御二人より知っているからです」


 私の言葉に御二人はどういう意味か知りたいような顔を私に向けてきた。

 正直な話、教えたところでどうにもならないですし、この機会に話しておきましょうか。


「私は最近知り合った澪さんや自分の思いにやっと気づいた優香さんと違って十六夜さんの攻略を何年も前からして来ましたから、御二人より何歩も先にいるのは当然でしょう」

「何年もっていつから?」

「七年前からです。御二人は私が余裕な理由が気になるようなので、お話ししましょう」


 御二人は私の七年前の苦労を聞いてどう思うのでしょうね。

 この話を聞いて諦める程度の思いならそもそも勝ち目なんてないのですがね。

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