第16話 生徒会の仕事

 龍桜に誘われて生徒会に入った次の日、興味のない授業をさぼって生徒会室に来た。

 生徒会室の鍵は開いており、扉を開けると板チョコを食べながら分厚い本を読んでいる澪がいた。


「本当に生徒会に入ってるんだな」

「十六夜も生徒会に入ったのね」


 澪は生徒会室に入ってきた俺に驚いたようで目を見開いていたが、話しかけると本を置きながら返してくれた。

 というか澪が授業をさぼっている間ここで快適に過ごしていたわけか。


「お前、よく授業さぼってるって聞いたが、そんなんだから満点取れないんじゃないのか?」

「たまには出てるわよ。授業がどれくらい進んでいるのか確認するためにね」

「授業を進捗確認としか思ってないのはお前だけだよ」


 俺の問いに対して何でもないように答える澪に呆れながらも澪の対面のソファーに座り、生徒会室に置いてある本棚に視線を向ける。

 昨日来た時も思ったがすごい本の数だな。

 しかも専門書や教科書、漫画にラノベなんでもありだな。


「むしろ全教科普通に満点を取ってる十六夜からしたら授業なんて退屈なだけでしょ?」

「それは否定しないがな。なあ、ここにある本って勝手に読んでもいいのか?」

「ええ、これもそこの本棚にあった奴だから」


 澪の問いに答えて俺が気になったことを問いかけると、澪は読んでいた本を持ち上げながら返してくれた。

 それは嬉しいことだな。

 そういえば、龍桜もここの物はすべて経費で買ったと言っていたな。


「そうか」


 じゃあ、遠慮なく読ませてもらおうかな。

 澪の言葉を聞いて本棚の前に立っておいてある本を一つ一つ確認する。

 ここにあるラノベは全部読んだことがあるな。

 というか俺が書いた奴もあるし、結構マイナーなはずだが物好きはどこにでもいるもんだな。

 取り合えず、読んだことない天文学や理系の専門書から読んでいくか。

 ソファーに座りなおして本を開き、いつものペースで読んでいると澪に声を掛けられた。


「十六夜」

「ん?どうかしたか?」

「いや、あなた、いつもそんなペースで本読んでるの?」

「ああ、いつもこんなペースだな。もっと早く読むことも出来るが、読んでて楽しくないからな」

「すでにかなり早いけど……」


 呆れた顔をした澪がギリギリ聞こえるくらいの小さな声で呟いた。

 まあ、澪の驚きは当然だろうな。

 こんな辞書のように分厚い専門書でも楽しく読むことを放棄すれば一分もかからないで全内容を覚えられる。

 そのうえもう一分で覚えた内容を理解できるんだからな。

 本当にチート能力には感謝だな!

 読みたい本を時間が無くてなかなか読めなかった前世とは大違いだ!チート能力万歳!


「……本を読むだけでこれだけ差があるとなると、本当に死ぬ気で努力するしかないわね…………」


 ……こいつ、これだけふざけた性能見てもまだ心が折れないんだな。

 俺なら一瞬で投げ出してるわ。

 本当に澪はすごいは、かなり小さい声で呟いてたから聞かなかったことにしておこう。

 独り言を他人に聞かれてたら恥ずかしいからな。

 澪の独り言を聞き流してからお互いに読書を続け、十冊目を読んでいる途中で龍桜が生徒会室に入ってきた。


「おや、二人とも来ていたのか?」

「いつも通りです」

「ここに置いてある本面白いですね」


 龍桜の問いにまともに答える気が無かったので適当に返すと、頭に手を当ててため息をつかれた。


「はあ、たまには真面目に授業に出ろ」

「たまには出てる」

「さぼるのは初めてだ」

「十六夜は私の質問にまともに答えて欲しいのだが」

「断る」


 龍桜は俺と澪の態度にもう一度深いため息をついた。

 その後は諦めたようで澪の隣に座り、話を変えてきた。


「ちょうど二人揃っているから庶務の仕事について簡単に説明するぞ」

「それはいいが、会長は授業でなくていのか?」

「次の授業は休む」

「会長も人のこと言えないじゃないですか」


 澪や俺に授業をさぼるなって言っておきながら自分も授業をさぼってるじゃないか。

 俺が澪に視線を向けると、澪も同じことを思ったらしい。

 目を細めて龍桜を見てる澪を見てため息をついた。


「それで庶務の仕事はなんですか?」

「庶務の基本的な仕事は他の役職の手伝いだ。頼まれた簡単な書類仕事をしながら役職の仕事を知ってもらう」

「それは簡単な書類をまとめたりするだけってことでいいのか?」

「基本的にはそうだな。ただ、文化祭の時など運営として動いてもらう時はもう少し仕事が増えるが」


 書類をまとめるだけならチート能力があるから楽が出来るが、運営の仕事はしたくないな。

 文化祭となると知らない相手と話さないといけない機会が増えそうだ。


「その文化祭での運営はどんな仕事なんですか?」

「庶務の仕事は基本的には見回りだな。問題が起きた時の連絡係であり、私や副会長が到着するまでの間の対処が基本的な仕事だ」

「文化祭で起きる問題とは?」

「迷子や生徒間での喧嘩などだな」


 あ、運営の仕事絶対にやりたくないわ。

 喧嘩の仲裁なんて面倒だし、迷子の相手もごめんだな。

 そもそも道内だってしたくない。


「会長、人と関わるのが嫌なので人と関わらない仕事がいいです」

「はあ、馬鹿なことを言うな」

「昨日のこと忘れたわけじゃないでしょ」

「…………分かった。裏方の仕事を考えておく」

「ありがとうございます」


 龍桜にまともにお礼を言うのは嫌だが、今回は感謝してるから素直にお礼を言っておこう。

 それにしても澪は仕事に関しては特に興味が無さそうだな。

 仕事の内容を聞いても特に目立った反応はないし、こいつは何で生徒会に入ったんだ?


「そういえば、澪が生徒会に入ってるのに何で俺を勧誘したんですか?」

「生徒会の仕事は人手が多い方が楽だからね。基本的には入試首席の勧誘と実力テスト上位を一人か二人入れるんだよ」

「それで澪より成績が良かった俺を勧誘したんですか?」

「ああ、入試首席を超えて全教科満点を取るなんて前例がないからな。私でも平均九十五がやっとだ」


 龍桜がどれくらいすごい人か知らないからな。

 成績だけ聞くと澪とあんまり変わらないと思うが、この学校の基準では会長は相当すごい人なんだろうか?

 そんなことを考えていると、俺の疑問に気づいたのか澪が答えてくれた。


「龍桜会長は一年の時に生徒会長に選ばれた人よ。成績優秀で全校生徒から認められるカリスマ性があったそうよ」

「……カリスマ性ね」

「お前達、言葉遣いはともかく敬意がかけらも感じられないな」

「敬意知らない言葉だな」

「敬意は知ってるけど、会長に向けたことはないですね」


 俺と澪の言葉に会長は頭を抱えてため息をつき、ソファーから立ち上がると生徒会長の仕事机に向かった。

 一年で生徒会長になったてことは、会長は二年生なのか?


「なあ、澪」

「ん?」

「会長って二年生なのか?」

「知らなかったの?」

「そもそも会長がどんな人か知ったのは昨日だ」

「……本当に他人のこと知らないのね」


 俺の言葉に澪も呆れたような顔でため息をつき、会長も仕事机の前でため息をついた。


「勧誘する相手間違えたかな……」


 小さな声でそんなことを呟いているがしっかりと聞こえている。

 勧誘したのはお前だし、そもそも成績だけで選べばそういう問題も起こるだろうに馬鹿なのかこいつは?

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