第15話 生徒会
中間テストの成績上位者の結果を見た日の放課後。
部活に入ってない俺は京谷と一緒にすぐに帰ろうとしたが、昇降口で呼び止められた。
呼び止めた相手を見てため息をついた俺は悪くないと思う。
「……」
「人の顔を見てため息をついて何も言わないのは失礼じゃないか?」
「…………」
何も言わないのはいつものことだが、ため息は許してほしいかな。
実力テスト以降一か月ちょっとしか経ってないのに知らない人に何度も話しかけられる陰キャの気持ちに理解してほしいな。
しかも、今回は一人じゃなくて三人って……京谷対応よろしく。
「はあ、えっと、生徒会長。十六夜に何か用ですか?」
「確かに夜桜に用事があるのだが、君が代わりに話す必要があるのか?」
「いつものことですよ。十六夜は極度の人見知りで仲の良い人以外と話すのが苦手なんですよ」
京谷が生徒会長と呼んだ三人の男女の真ん中に立つ女子が京谷の態度に不思議そうな顔をして問いかけるが、京谷は肩をすくめて返した。
その言葉を聞いて生徒会長は少し驚いたようで目を見開いて俺を見てくる。
そんな目で見るな。
人見知りに陰キャで悪いかよ。
「特に初対面の時は他の人との会話を観察してどれくらいの距離間で接するか決めるんだよ」
「人とあまり関わらないと聞いていたが、単なる人見知りとは……」
「まあ、そういうわけなんで用件を話してもらえれば気が向けば答えてくれると思うぞ」
「いつまでもここにいると邪魔になるからな。少し生徒会室に来てもらっていいかな?」
「いやです。さようなら」
しっかりと俺の言葉で返事をしたことだし、満足だろう。
じゃあ、早く帰って遊ぶぞー
「おい、待て」
「………………」
帰ろうとすると生徒会長に肩をつかまれた。
肩をつかんでいる手を見て生徒会長に込められる限りの不満を込めた視線を向ける。
「そんな目で見るな。大体、まともに話もせずに帰ろうとするからだろう」
「誠意を込めてお断りしましたが?」
「十六夜、二言に私利私欲を込めてるだけで誠意なんてかけらも込もってないぞ」
「気のせいだ。俺は帰る!面倒な予感しかしないから絶対に帰る!」
生徒会長の手を振り払って帰ろうとしてるのに、全然振り解けない。
この生徒会長なんて馬鹿力してるんだよ。
こっちはチート能力で身体能力はかなり高いはずだから、こいつ力ってより技で抑えてるのか?
余計に面倒な予感しかしない。
「いい加減にその手を放してくれませんか?」
「いやです」
明らかに仕返しとしか思えない満面の笑みのその言葉にイラっとしたぞ。
珍しいな、人と関わらないからイラっとするなんて久しぶりだ。
「十六夜、もう話くらい聞いてやればいいだろ」
「……………………聞くだけなら」
「随分と長い間が……まあいいか。それでは生徒会室に案内しよう」
少し、いや、かなり不満があるが大人しく受け入れよう。
生徒会室に行くまでの間は生徒会長に可能な限りの不満を込めた視線を向け続けよう。
俺の視線に対して京谷が苦笑しているが、気にしない。
今はこいつに対する恨みと不満と憎しみを込めた視線を向けることに集中しよう。
「ここが生徒会室よ。それと夜桜、そんな視線を向けても無駄」
「大丈夫です。ただの自己満足なんで」
「はあ、人にそんな視線を向けられるのは初めてだ」
「初めての経験ですかよかったですね。おめでとうございます」
「そんな視線を向けて棒読みで言われても困るんだが」
ならもっと困るがいい!
俺の楽しい時間を奪った罪は重いぞ!
周りの視線なんて知ったことか、俺は帰ってのんびりと過ごしたかったんだ!
「まあ、いい。生徒会室に入れば私の提案を断る気はなくなるだろう」
「まだ、あんたの提案を聞いてないがな」
生徒会長の言葉に返しながら生徒会メンバーの後に続いて生徒会室に入った。
先ほどの言葉の意味は分からなかったが、俺と京谷は生徒会室の中を見て驚いた。
冷房の効いた生徒会室には、座り心地の良さそうな高級ソファー、大量の本が何らだ本棚、大型のテレビ、複数のテレビゲーム機、棚に並んだ複数のボードゲーム。
生徒会室の様子に驚いている俺達に生徒会長は勝ち誇ったような顔をしている。
「改めて話させてもらうが、夜桜には生徒会に入ってもらいたい」
「断る」
「…………え?」
この設備を見せれば俺が生徒会に入ると思ったのか?
こいつの驚いた顔が見れただけで満足だ。
さっきのお礼に今度は俺が勝ち誇った顔を向けてやろう。
「……と、取り合えず、座って話そうか」
「もう帰りたいんですけど」
「ここまで来たんだ少しくらいいいだろう」
「はあ」
生徒会長に促されるままにソファーに座った。
生徒会室に初めからいた人が紅茶を俺と京谷の前のテーブルに置いて生徒会長の隣に座った。
「それでどうして入ってくれないんだ?」
「生徒会の仕事が面倒そうだから」
「確かに、面倒ではあるがな。それでもそれに見合った利益はあるぞ」
「例えば?」
てか、面倒なこと簡単に認めるんだな。
隣の京谷は俺がいつもより良くしゃべるから驚いているようだし。
今日はこいつ使えないな。
「この生徒会室がそうだ。ここは生徒会メンバーなら自由に出入りが許されている」
「だから?」
「昼休みや授業をさぼる時にこの部屋を利用することが出来るぞ。生徒会はかなり自由が許されているから、何を持ってきても構わないし、仕事に必要なら経費で買うことも出来る」
「つまり、学校で自分好みの自由な空間が持てるってことか?」
「そういうことだ」
「なるほどね。それは魅力的な話だけが、生徒に認められてる自由なんて大したものじゃないだろ」
生徒会の自由なんてゲームを持ってきても許されるくらいの話だろ。
学校での自由な空間は確かに欲しいが、俺一人の部屋じゃないしな。
てか、生徒会長が授業さぼるとか言っていいのか?
「ここにあるもの全て経費で買えるくらいの自由だ」
「……は?」
「生徒会に入る条件の中に各学年の成績上位者というものがあってな。実力主義のこの学校では成績優秀で仕事までしてくれる生徒の願いを出来る範囲なら叶えてくれる」
「…………それはすごいが」
どうせ仕事が死ぬほど大変とかそういうのだろ。
確かに魅力的だが、その程度だとな。
「仕事は少し大変だが、一人でやるわけでもない。それにこの学校の成績優秀者は能力が高いものが多いから一人一人の仕事はそこまで大変ではない」
「…………」
確かに、澪みたいなぶっ飛んだ天才はそうそういないだろうが、普通の学校に比べて優秀な奴は多いだろうな。
それでも即答でOKを出すほどではないな。
「そして生徒会メンバーは宿題が免除される。長期休暇も含めてな」
「!?」
「生徒会メンバーは成績上位者で仕事をしているからな。宿題しないでいいから仕事をしてくれってことさ」
また勝ち誇った顔をしやがって、イライラする。
正直、宿題がなくなるなら生徒会に入ってもいいが、こいつと命令されるのはイラっと来るから嫌だな。
しかし、生徒会の仕事は宿題と違って毎日忙しいほどあるわけじゃないだろう。
現に今仕事をしてる奴はいない。
「分かった。生徒会に入る」
「歓迎するよ、十六夜」
俺の言葉が予想できたのだろう京谷はやっぱりかという顔をしている。
こいつは認めたくないが、生徒会に入ることの利点は確かに大きいから仕方がない。
「放課後は生徒会室に来ないといけないのか?」
「いや、金曜日にある会議以外は来なくてもいい。会議で割り振られた仕事をしてくれるならな」
「分かった。それで、生徒会室はいつから好きに使っていいんだ?」
「帰る時に鍵を渡すから明日から使ってくれて構わないぞ」
「なら、もう帰るから鍵をくれ」
「分かった」
生徒会長が鍵を取るために席を立ったのを見送る。
思った以上に生徒会で拘束される時間は短そうだ。
「ほら、これで十六夜も生徒会メンバーだ。役職は庶務だな」
「楽な役職なら何でもいい」
「そうか。それでは改めて生徒会長の龍桜和美だ」
「ああ、よろしく」
龍桜ってお前は魔王か何かなのか?
まあ、もうどうでもいいか。
さっさと帰ろっと。
「そうだ。言い忘れていたが、椎名澪も生徒会の庶務だから仲良くしろよ」
は?
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