第14話 超えられない壁
優香と喫茶店に行って一週間経ち中間テストも無事に終わった。
喫茶店で優香に教えてもらったように中間テストもまともに満点を取らせる気がないような問題が最後の方にあった。
問題の難しさを考えるとチート能力には感謝しかないな。
「十六夜さんも中間テストは無事に終わりましたか?」
「ああ、問題なく終わったよ。おかげでいつも通り家でのんびりできる」
「先週は優香さんに呼び出されたんでしたね」
黒羽と話しながら黒羽が作った昼食を食べる。
毎週のように昼少し前に来て昼食を作ってくれ、夕方に帰ったり、泊まっていくようになった黒羽。
おかしいな?
俺が一人暮らし始めたの一人でゴロゴロするためだったはずなのに……
趣味が同じで話が合うから断らなかったら、誰にも文句を言われない黒羽と遊ぶ場所になっただけだ。
「どうかしました?」
「いや、何でもない」
「そうですか」
黒羽は不思議そうな顔で可愛らしく小首を傾げ、納得はしてないが聞くことを諦めたようだ。
まあ、聞かれても『俺が一人でゴロゴロするはずの時間が友達と遊ぶ時間に変わってた』って言う以外に何もないからな。
そんなことをわざわざ言う必要はないな。
「そういえば、十六夜さんの通っている高校のテストは満点を取れないように作られていると聞いたんですが。十六夜さんでも無理でしたか?」
「いや、普通に満点取れたぞ」
「普通ですか、流石ですね。他の人では不可能でしょうに」
「それはどうだろうな」
「え?」
黒羽の言葉を否定すると黒羽は少し驚いた顔で可愛らしく小首を傾げた。
まあ、椎名さんのことは黒羽は知らないから当然の反応かな。
黒羽にとって俺を除けば優香が一番だと思ってるみたいだしな。
「俺と同じように全教科で満点を取れるかもしれない奴がいるんだよ」
「優香さんではなくですか?」
「ああ、黒羽も同じ高校に入るならそのうち会うこともあるさ」
「そうですか。その人のことは少し気になりますね」
ほう、意外だな。
黒羽が人に興味を持つことがあるとはな。
まあ、俺も少し興味があるから人のことは言えないか。
話してると中間テストの結果が少し楽しみになったな。
中間テストから一週間が経ちテストの採点が終了し、成績上位者の結果が張り出された。
俺の結果は予想通り全教科満点。チート能力万歳だな。
そして気になる二位は?
「何笑ってるの?」
ん?椎名さんか?
楽しみにしてたからか少し笑ってたようだ。
椎名さんからしたら自分の成績を見て笑われていたわけだから怒ってるって言うよりは悔しいわけか。
「予想以上の結果に嬉しくてな。すごいじゃないか、数学と化学以外は満点なんて」
「他の人ならともかく、あなたに言われると嫌みにしか聞こえない」
「そうですか」
心からの称賛なんだが意味がないようだな。
まあ、言いたいことはしっかりと言っておくか。
一応俺のライバルらしいからな。
「俺に負けて悔しいのか?」
「当たり前でしょ。あなたが私以上の天才だろうが関係ない、いつか絶対に勝って見せる」
やっぱり、椎名さんもすごいな。
優香や唯みたいな目立った才能がない努力家とは違う。
生まれながらの才能で驕ることもあるようだが、それでも競争心が強いから負けないように最低限のことはしてるようだしな。
「椎名さんは努力したことあるか?」
「今回は結構したけど」
「今回以外では?」
「……ない、かな」
やっぱり、今まで負けることが無かったから俺のように最低限のことしかしてこなかったんだろうな。
負けたことが悔しくて必死に努力して今回のテストを受けたんだろう。
努力しても届かなかった俺を目標にいつか超えようとしてるんだろうな。
競争心の欠片もない俺なんて超える価値もないのに、ご苦労なことで。
「じゃあ、これからも悔しさを糧にして驕らずに努力を続けることだな。椎名さんみたいな天才が努力を続ければ超えられない壁はないさ」
「!?」
俺の言葉が予想外だったようで目を見開いて固まってしまった。
固まっていたのはほんの少しの間ですぐに俯いて何か考え始め、急に顔を上げたと思ったら微笑んでいた。
「これからは澪って呼んで、私も十六夜って呼ぶから」
「ああ、分かった」
「じゃあ、これからよろしくね。十六夜」
「ああ、よろしく。澪」
澪が差し出した手を握り微笑んで返すと、澪は納得したようで手を引っ込めた。
「じゃあ、またね」
「ああ、またな」
背を向けて歩いていく澪の背中を少し見送り、視線を成績表に向けた。
超えられない壁はないっか。
澪に超えられない壁があるとしたら、生まれ持った才能に驕ることなく努力し続ける天才、黒羽くらいかな。
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