第13話 予想外のこと

 中間テスト前最後の土曜日に優香に呼び出された。


「それで、どうしてこんなところに呼び出したんだ?」

「前に、勉強教えてもらう約束したでしょ?」


 休日で人が多い街中に呼び出した優香に問いかけると、聞きたかったことと違う答えが帰ってきた。

 優香の答えにため息をついてもう一度問い直した。


「だから、どうして俺の家じゃなくて街中なんだ?」

「少し行きたい喫茶店があるのよ。満足するまで付き合ってもらうって言ったでしょ」

「はあ、覚えてますよ」

「ならいいわ」


 横目でジトっとした目を向けてくる優香にため息をついて返す。

 優香は視線を前に戻して街中を歩いていく。

 少しの間優香の隣を歩いてついていくと、優香は喫茶店に入った。

 店員に席に案内されて喫茶店の中を軽く見渡してみるが、普通の喫茶店にしか見えない。


「優香、どうしてこの喫茶店に来たかったんだ?」

「理由はいくつかあるけど、一番はこれ」

「ん?」


 優香がメニューを開いて指さしたものに視線を向けてみる。


「ジャンボチョコレートパフェ?」

「そう。これを食べて見たかったの」


 そういえば、優香甘いものとチョコ結構好きだったな。

 まあ、どうせ優香が一人で食べるんだろうし、俺の気にすることじゃないか。

 俺は普通にはちみつ入りにミルクコーヒーでいいかな。


「優香決まったか?」

「決まった」


 優香の返事を聞いて店員を呼ぶ。

 俺が注文を伝えると優香もパフェとアイスコーヒーを注文した。


「勉強はすぐに始めるのか?」

「パフェを食べた後で」

「じゃあ、俺はゆっくり待たせてもらうよ」


 優香がパフェ食べてる間に読む本持ってくればよかったな。

 店員が持ってきたコーヒーを飲みながら優香に話しかける。


「なあ、優香は椎名澪って知ってるか?」

「……知ってるけど、嫌み?」

「い、いや、少し気になっただけだが」


 椎名さんを知ってるか聞いただけなのになぜかものすごく睨まれた。

 嫌みじゃないって言ってるのに疑うような目で見て来るし、椎名さんと何かあったのか?


「この前、椎名さんが俺のところに来たんだけどさ。知らないって言ったら本人と京谷に驚かれたから」

「なるほどね。普通、入試首席で新入生代表を知らない方がおかしいでしょ」

「京谷にも言われた」

「なら、どういう人か知ってるでしょ」

「まあ、すごい人なのは聞いた」


 京谷から聞いた話だとすごい人くらいしか分からなかったけどな。

 俺をライバル視してるってことは前回の実力テストで二位だったんだろうが、上位ってことなら優香も同じはずだが?

 椎名さんがわざわざ俺のところに宣戦布告に来る意味が分からないんだが……


「椎名さんは何で俺のところに来たんだと思う?」

「十六夜。前回の実力テストで何も思わなかったの?」

「ん?いや、特に変なところはなかったと思うが……」


 実力テストで何かあったのか?

 んー、普通のテストだったと思うんだが、どんな問題が出てたかなんて覚えてないしな。

 俺が本当に分かってないということが分かったのか優香がため息をついて教えてくれた。


「前回の実力テスト、八割出来れば中学生までで習ったことを理解できてる。九割で難しい応用も出来る。満点は取れる方がおかしいくらいの基準で作られてたのよ」

「……え?」

「実際に成績が公開されてる上位でも平均八十点代が大半で十位以上でも得意教科でもないと九十点超えないられないらしいわよ」

「…………ちなみに優香はどうだったんだ?」

「私は三位で数学と化学が九十超えたけど、平均九十はいかなかった」


 まじか、点数なんて気にしてなかったが優香でも平均で九十超えないのか。

 思った以上に実力主義なんだな。

 そんなテストで点が取れるなら授業に出なくてもいいってことか。


「つまり、椎名さんはそのテストで平均九十を超えたわけか」

「聞いた話だと全教科超えたらしいわよ」

「天才と言われるだけあってすごいな」

「椎名さんも十六夜には言われたくないと思うわよ」


 優香の言葉に何も考えずに返すとジトっとした目で言い返された。

 まあ、優香達の言いたいことも分かるが、俺はチート能力を持ってる上に前世で大学まで行ってるし。

 天才って言われてもあんまり実感ないんだよな。

 貰った才能でももう少し自覚しないと優香達に悪いよな。


「まあ、俺のことは例外でいいんだよ」

「……例外?」

「そんなことより来たみたいだぞ」


 優香が意味が分からないと言いたげな顔で首を傾げるが、注文したパフェを持って近づいて来る店員を指さして返した。

 店員のパフェに視線を向けた優香は微笑んだ。

 優香がこんなに嬉しそうに微笑むなんて本当に楽しみにしてたんだな。

 優香の顔を見ている間に店員が置いていったパフェに視線を向けて驚いた。


「お前……一人でそれ食べるつもりなのか?」

「ん?少し十六夜に上げるわよ」

「少しって……」


 デカい、恐ろしくデカい、思っていた数倍デカい!

 え?こいつ大食いチャレンジでもしに来たのか?

 甘いものが好きで結構たくさん食べる奴だとは思ってたが……

 まさか、今までの量で満足してなかったのか?


「いただきます」

「……」


 俺がパフェの大きさに驚いてるのを放置して食べ始めやがった。

 てか、この量は本当におかしいだろ!

 テーブルに置いてあるパフェが俺達の目線より高い位置まであるってどういうことだよ。

 これ絶対に一人や二人で食べる量じゃない!


「おいしい、十六夜も一口食べる?」

「ああ、じゃあ、一口貰おうかな……」

「じゃあ、はい。あーん」

「……あーん」


 幸せそうな顔で食べる優香に言われるがまま一口食べさせられた。

 確かに美味しいが、それでもこの量は食べきれないわ。

 ああ、もう考えることをやめよう……きっと何を考えても無駄だ……


 それからしばらくして優香はほとんど人でパフェを食べきった。

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