第12話 もう一人の天才

 連休はすぐに終わってしまった。

 結局の連休の間は黒羽とほとんど一緒に過ごしていたが、黒羽は他の友達と遊ぶ予定はなかったのか?

 それに黒羽の奴、無防備にもほどがあるんだろうに、幼馴染とはいえ一人暮らしの男の家で風呂に入ったり、薄着で隣に寝るなよな。

 はあ、あいつは自分に色気が無いとでも思ってるのか?


「あなたが夜桜十六夜?」

「ん?」


 連休のことを考えていると知らない女子に話しかけられた。

 唯の時と同じ感じか?


「……えっと、どちら様でしょうか?」

「私のこと知らないの?」

「有名人なのか?」


 んー、確かに赤い瞳に白髪となるとかなり目立つだろうが……まるで心当たりがない。

 俺が知らなかったことに驚いているようだし、京谷助けてくれー。

 京谷に視線を向けて視線で助けを求めると、俺の視線に気づいた京谷が近づいてきた。

 流石、京谷!ナイスだ!


「えっと、椎名さん。十六夜に何か用事?」

「君は私のこと知ってるのね」

「まあね。椎名さんを知らないのは十六夜くらいだよ」

「なるほど、私程度には興味が無いわけか」


 え?そんなに有名な人なの?

 知らなかったのは確かだけど、そんな目で俺のこと見ないでくれる。

 京谷も呆れたような顔してないで助けてくれ。


「まあ、十六夜は君に対して興味がないというわけではないけどね」

「?というと?」


 京谷の言葉に椎名さん?が首を傾げて京谷を見た。

 京谷はため息をついて返した。


「十六夜は人付き合いが苦手だから仲いい相手以外は覚えてない」

「それは高校生としてどうなのだ?」

「仕方ないさ。人を頼らなくても困ったことが無い奴だからな」

「ふーん」


 人が何も言わないからって好き勝手言いやがって、別にいいだろ友達が少ないくらい。

 このままだと話が進まないので京谷に視線を向けて話を進めるように促す。

 京谷は俺の言いたいことが分かったようで、椎名さん?に話しかけた。


「それで、十六夜に何か用があるんじゃないの?」

「どんな人か気になったから様子を見に来ただけ」


 椎名さん?は京谷の問いに答えると俺のことを観察するようにじっくりと見てきた。

 てか、こいつのせいで周りの視線があつまってるんだが、目立つのは嫌いなんだがな。


「椎名澪。前回のテストでは二位だった」

「?」


 椎名澪ね。前回のテストっていうと実力テストのことか。

 というかそれだけ言いに来たのか?


「一週間後の中間テストでは負けないから」

「……ああ、一週間後テストだったな」

「やっと喋ったと思ったら……他に気にすることがあるだろ」


 椎名さんの言葉で中間テストまで一週間と少しであることを思い出したが、京谷に呆れられた。

 他に気にすることって言われてもな。


「そんなことを言いにわざわざ来たのか?」

「さっきも言ったけど、あなたがどんな人か見に来たの。いろんな人にあなたのことを聞いてみたけど、誰もあなたのことを知っている人はいなかったから」

「……それで実際に見てみた感想は?」

「思っていた以上に変わった人だった」


 かなりひどい感想だな。

 初対面の相手にそこまではっきりというかね、普通。

 確かに陰キャでオタクでチート能力満載の転生者だけど、別に好きなこと以外にやる気がないだけで普通だと思うんだがな。


「私を他の人と一緒だと思わないでね」

「?」

「じゃあ、またね」


 なんなんだあいつは?

 言いたいことだけ言って帰っていきやがった。

 てか、あいつ、他の人と何が違うんだ?

 俺みたいな転生者じゃないだろうし、この世界でも珍しい赤い瞳のことか?


「なあ、京谷」

「なんだ?」

「椎名さんは他とどう違うんだ?」

「……分からなかったのか?今の会話で」


 なぜだろう、京谷がさっき以上に呆れた表情をしている。

 というかあんな意味の分からない会話でこいつは理解したのか?


「ああ、まったく」

「はあ、椎名さんはお前のことをライバル視してるんだよ。だから、他の奴と同じように舐めてると痛い目見るぞってことだよ」

「なるほど、何となくわかった」


 つまり、椎名さんは勘違いしてるわけだな。

 他の人を舐めてるとかじゃなくて関わるのが苦手なだけなんだが……


「というか、椎名さんってそんなにすごいのか?」

「お前、本当に何も知らないんだな」

「知ってたら聞いてない」


 椎名さんのこと聞いただけなのにまたため息つきやがった。

 そんなに有名なのか?


「彼女はな。この学校の制度を平然と利用してるんだよ」

「制度っていうと、テストで点さえ取れば授業でなくてもいいってやつ?」

「正確には出席点が無いから休んでも問題ないだけどな」


 なるほど、それはすごいな。

 まさか本当に休む奴がいるなんて思わなかった。


「確かにそれは目立ちそうだな」

「いや、彼女が有名なのはお前と同じくらいの天才だからだよ」

「別に俺は天才ではないんだがな」

「はあ、自覚無しか。まあいい。彼女は、入試の首席で新入生代表挨拶もしてるんだぞ」


 言われてみれば見たことがあるような気がするな。

 あれ?入学式の記憶がない。

 んー、ずっとぼーっとしてたのかな。


「それに珍しい銀髪で赤い目の美少女だからな。新入生だけでなく先輩達の間でも有名だよ」

「そんなに有名だとは思わなかった」

「ちなみにお前も有名だからな」

「?」


 俺が?そんなに目立つようなことはしてないはずだが……


「首席の彼女を超えて一位。しかも全教科満点で、本人の情報が一切ない。謎の天才少年ってな」

「誰が謎の天才だ。普通の引きこもり気味で人見知りな凡人だよ」


 からかうように言う京谷にため息をついて返して椎名さんのことを思い出す。

 天才で銀髪美少女ね……もしかしたら黒羽と同等の天才か?いや、流石にそれはないかな?

 まあ、なんにせよ。

 面倒な奴に絡まれたな。

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