第9話 昼食会
黒羽達がキッチンに移動してからしばらくたち、良い匂いがし始めて少しして黒羽と優香が戻ってきた。
「唯はどうしたんだ?」
「料理の仕上げをしてます。先にお茶やお皿を持って来ました」
「そうなのか」
気のせいか?
黒羽と優香が少し落ち込んでいるような……
俺と同じことが気になったのか京谷が二人に問いかけた。
「二人ともなんか落ち込んでるようだけど、どうかしたのか?」
「……少し自信を無くしただけです」
「……まさか、唯があんなに出来るとは……」
よく分からないが、キッチンで何かあったんだな。
京谷は何があったのか分かったのか意外そうな顔をしていた。
京谷の問いに答えた二人はまたすぐにキッチンに戻っていった。
「京谷、何か分かったのか?」
「十六夜って意外と察しが悪いよな」
「うるさいな。それで何が分かったんだ?」
こいつは、普通に教えてくれればいいものを、一言多いんだよな。
「さっき考えた逆だよ。唯が予想以上に料理が得意で黒羽と優香が自信喪失したんだよ」
「ああ、なるほどな」
「はあ、それにしてもあの二人が自信喪失するって相当だな」
「確かに意外だな」
唯も努力以外にも才能があるんじゃないか。
黒羽と優香にはいい刺激になっただろうし、悪いことじゃないか。
「というか、十六夜も料理上手いよな」
「美味しいものを食べるのも作るのも趣味だからな」
「そういえば、旅行先のグルメをよく調べてるって輝夜が言ってたな」
京谷の言葉に俺は胸を張って威張るが、無視された。
「まあ、二人が自信を無くすような料理だ。俺たちは楽しみにまとう」
「……ああ、そうだな」
京谷は何か苦笑しているが、こいつの変な反応は今に始まったことじゃないな。
それにしても唯はどれだけ料理が上手かったのだろう?
「お待たせしました」
京谷と話していると、唯達が料理の盛り付けられた皿を持って戻ってきた。
二回ほど往復してすべての料理を運び終えたのか、三人ともテーブルの周りに座った。
黒羽から渡された箸を受け取り、目の前に置かれた皿に盛られた料理を一口食べた。
「おー、これはかなり美味いな」
「十六夜がそんなに褒めるってことは相当だな」
「…………確かに、すごく美味しいです」
俺の言葉に京谷が驚きながら料理を見て同じように一口食べた。
黒羽は少し不満そうな顔で唯の料理を褒めて食べ始めた。
「唯は料理が好きなの?」
「はい。勉強の息抜きによく手伝っていますし、親が料理得意なので昔から教えてもらっていました」
「そう。教える人がいると差が出るのね」
「料理は少し自信があるんです。今では親よりも上手いんですよ」
「……今度、私に料理教えてくれる?」
「いいですよ。私は勉強を教えてもらっていますから」
唯に料理を教えてもらえることになった優香は少し嬉しそうな顔になった。
そんな優香に対して黒羽はジトっとした目を向ける。
料理教えて欲しいなら言えばいいのに、前世と現世を合わせて四十年の経験がある俺が教えてやるぞ。
チート能力無しで唯が相手でも負ける気がしないぜ。
「十六夜は唯に料理で勝てる自信あるのか?」
おや、顔に出てたかな?
まかさ、京谷にそんなことを問いかけられるとは思わなかった
「勝敗は実際に審査員を置いて勝負しないと分からないが、自信はあるな」
「……十六夜さんは相変わらずなんでもありですね。人付き合い以外」
「そうね。コミュニケーション能力以外は完璧ね」
「否定できないけど、酷くない。二人とも……」
自信満々に京谷の問いに答えると、黒羽と優香の二人からジトっとした目と辛辣な言葉を投げかけられた。
確かにコミュ障だし、度胸はかけらもないけど、遠慮なさすぎない。
もう少し俺のことを気遣ってくれてもいいのに……
「十六夜、お前の友達は全員知ってるぞ」
「京谷、残酷な現実を突きつけるなよ」
「お前に度胸とコミュニケーション能力があればかなりモテるだろうに」
「ないない」
京谷の冗談を適当に流して唯が作った美味しい昼食を食べることに集中した。
横から京谷のため息が聞こえたが、何も言ってこないから冗談を適当に流したからかな。
はあ、午前中は勉強ばかりやらされたからな。
午後はゆっくりと遊びたいなー
まあ、無理だろうけどさ。
食後の面倒ごとを気にせずに、現実逃避するようにしっかりと料理を味わって食べた。
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