第8話 勉強会

 唯に勉強を教えてくれと言われた週の土曜日。

 午前中から唯と優香と京谷の三人が家に来て勉強をしていた。


「京谷が真面目に勉強とは珍しいな」

「勉強を教えるの優香に丸投げしてる奴がよく言うな」

「俺は教えるなんて言ってない。協力するといったんだ」


 俺と京谷がふざけた話をしている目の前で、優香が唯に会った勉強方法を考えるために唯と話している。

 普段どう勉強してるだの、どういうことをよく覚えているだの、そんな質問で唯に会った勉強方法を考えられる優香はある意味天才では?


「そうは言うが、本当に何も教えてやらないのか?」

「俺に教えられることがあれば優香が言うだろ」

「それはそうだが、少しは自分で考えたらどうなんだ?」

「考えて分かるなら苦労はないさ。黒羽みたいな例外ならともかく、俺が誰かに教えられることなんてほとんどないよ」


 京谷は俺が黒羽の名前を出すと苦笑して視線をそらした。

 確かに黒羽は異質だが、そんな反応するほどではないだろ。


「普段は普通に黒羽と話してるのに、たまにそんな反応するよな。お前」

「いや、十六夜と黒羽の話し聞いてるとな。どうしても頭を抱えたくなる時があるんだよ」

「……そうか?そんなに変な話はしてないと思うが?」


 思い出してみても京谷や優香達がいる前ではそんなに変な話はしてないはずだが?

 京谷が呆れたような顔してる時も特におかしな話はしてないよな。


「どうせ分からないだろうから気にするな」

「ん?そういう言われると気になるんだが……」

「俺はお前が気づくことを諦めたんだ」


 ん?そんなに変な話をしているか?

 

「話してないで十六夜は唯に化学と数学を私に教えるのと同じように教えて」

「はあ、分かった」


 やっぱり、予想していた通りに優香に指示を出された。

 優香に言われた通りに唯に化学と数学を教えるために唯に近づいた。


「京谷は全員分のお菓子とジュースを買ってきて」

「な!?なんで俺が」

「暇でしょ?」

「……まあ、暇だが」

「なら、行ってきて」

「はい」


 京谷は優香に無理矢理買い物へ行かされた。

 京谷に同情しながらも唯に勉強を教え始め、しばらくして京谷が買い物から帰ってきた。

 買い物から帰ってきた京谷が優香にこき使われ、十二時前にインターホンが鳴った。


「他にも誰か読んだんですか?」

「誰も来る予定はないはずだが……」


 唯が俺に問いかけるが、俺も知らないのでどうしようもない。

 取り合えず、昼前なので勉強を切り上げて玄関に移動して扉を開けた。


「黒羽か。どうしたんだ?」

「一緒にアニメを見ようと思ってきたんですが、今日は大丈夫ですか?」

「……んー、今日は無理なんだ?」

「何かご予定が……優香さんとは違う女性の匂い?」


 なんで分かるんだよ。

 黒羽から玄関の靴は見えないはずだから、本当に匂いだけで判別してるのか。


「相変わらずすごい嗅覚だな。けど、クラスの女子に勉強を教えることになってな」

「十六夜さんが勉強を?」

「いや、基本的に優香が面倒見てるよ。俺は優香に手伝えって言われた時くらいかな」

「なるほど、優香さんですか」


 俺の言葉に黒羽は納得したような顔で頷いた。

 そうだ、黒羽にも勉強を手伝ってもらおう。


「もし暇なら黒羽も勉強一緒にするか?」

「いいのですか?」

「ああ、京谷より黒羽がいる方が助かるからな」

「それでしたら、お手伝いします」


 俺の言葉に黒羽は微笑んで返してきた。

 その返事を聞いて俺は黒羽に上がるように促して一緒にリビングに戻った。

 リビングに戻った俺と黒羽を見て唯が目を見開いて問いかけてきた。


「えっと、お知り合いですか?」

「ああ、俺の幼馴染の蓮見黒羽だ」

「蓮見黒羽です。中学三年なので黒羽と呼んでください」

「あ、はい。私は、島村唯です。私も唯読んでください」

「分かりました。唯さん」


 微笑みながら綺麗な姿勢で話す黒羽と少し緊張している唯を軽く見て優香達に視線を向けた。

 優香は俺にどうして黒羽がいるのと言いたげな目を向けてきていた。

 京谷は俺達を見て面白そうに微笑んでいる。

 俺が優香に視線を向けたことで優香が疑問を口にした。


「どうして黒羽がいるの?」

「ちょうど遊びに来たんだ。ついでだから勉強会に参加してもらおうと思ってな」

「……そう。まあ、黒羽ならいいか」

「え?中三ですよね?」


 優香は少し考えて小さくため息をついて頷いた。

 俺と優香の言葉に唯は首を傾げて俺達を見る。

 そんな唯の疑問に京谷が答えた。


「黒羽は十六夜と同じで天才だから、高一の勉強なら普通にできるんだよ」

「そうなんですか?黒羽ちゃんもすごいんですね」

「いえいえ、私は十六夜さんと違って得意教科以外は大したことはありませんよ」

「その得意教科が異常なんだがな」


 唯に対して黒羽が微笑みながら首を横に振って返した。

 その返しに京谷が苦笑しながら呟くと、黒羽がジトっとした目を京谷に向けた。


「異常ではありません。得意なだけです」

「そうだな。特異なだけだな」

「少し違和感があるんですが……」

「気のせいだ」


 京谷はジトっとした目で見られながらも気にせずに黒羽に返した。

 こいつ、黒羽や優香を煽るの好きだよなー


「まあ、なんにしても勉強は昼を食べてからだな」

「では、今来たばかりですし、私が作りますね」

「私も手伝うわ」

「それでは、優香さんよろしくお願いしますね」


 俺が昼食の話をすると、黒羽と優香が作ると言ってキッチンに向かった。


「私も手伝った方がいいんでしょうか?」

「まあ、料理が出来るなら手伝ってくればいいんじゃないか?」

「そうですね。では、行ってきます」


 女子一人で残るのが気まずかったのか唯は二人の後を追ってキッチンに向かった。

 唯の問いに答えた京谷に視線を向ける。


「あの二人かなり料理得意だけど、唯大丈夫なのか?」

「まあ、自信喪失しなければ大丈夫だろ」


 唯、大丈夫だろうか?

 三人がいるキッチンを見てため息をついた。

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