第6話 努力家

 実力テストが返されてから数日が経ち、五月が近づいてきた。

 特に変わったこともなく、高校に入ってから新しい友達が出来ることもなかった。


「あ、あの、夜桜君!」

「ん?」


 いつも通りの昼休み、弁当を食べ終えて京谷と図書室に行くために教室を出ると、一人の女子生徒に呼び止められた。

 茶髪で長髪、この世界ではよくいる可愛さの普通の女子生徒。

 ただ、教室で見かけたことがあるが、名前が分からない。

 隣の京谷に視線を向けるが、視線に気づいて首を横に振っているので分からないのだろう。


「えっと、同じクラスの子だよね?」

「あ、はい。島村唯です」

「島村さんね。それで俺に何か用?」


 島村唯……聞いたことないな。

 俺との接点は一切ないはずだが……

 俺の問いに対して言いよどみながら島村さんが話し始めた。


「その、お願いがありまして……」

「お願い?」

「はい。えっと、私に勉強を教えて欲しいんです!」

「……ああ、なるほど」


 入学してすぐにあった実力テストの結果を見たのか。

 どうしてこの世界は成績上位者の点数と名前を公開するのか。

 面倒だな~

 けど、出席点とかない実力主義だから、最悪授業さぼってもいいのが利点なんだが……


「取り合えず、ここだと邪魔になるから図書室に行って話そうか」

「は、はい。わかりました!」

「それじゃあ、京谷行くぞ」

「俺も一緒なんだな」


 俺が島村さんに話しかけている間にどこかに行こうとした京谷の肩を掴んで言うと、京谷は苦笑して俺の顔を見てきたので頷いて返した。

 三人で図書室に移動し、図書室の隅の方に置いてある机に移動して座り、島村さんに話しかけた。


「ちなみにどうして俺なの?」

「それは、夜桜君が実力テストで一位を取っていたからです」

「ん~、一位だからって俺じゃなくても成績のいい友達に教えてらえばいいんじゃない?」

「私達じゃこれ以上は無理と言われました」

「それで一位の俺のところに来たと……そんなに成績悪いの?」


 俺の問いに島村さんは少し悩んだ後に首を横に振った。

 ん?成績が悪いわけじゃないのか?


「実力テストの結果は平均よりほんの少し上くらいです」

「確かに悪くはないな」


 平均くらいなら京谷と同じくらいってことか。

 けど、平均を超えれてるならわざわざ俺のところに来る必要なくないか?


「ただ、それは、毎日五時間以上勉強をしたうえでの成績で……」

「……五、時間…………」

「まじか……」


 暗い顔で俯いて言う島村さんの言葉に俺も京谷も驚いて目を見開いた。

 土日とかじゃなくて毎日……勉強効率悪すぎるだろ……


「一つ確認なんだが、それは……いつから?」

「中学一年の頃からです。ずっと、頑張っているんですが、平均より少し上しか取れなくて……」

「…………」


 まじか……三年もそんな生活してたのか……


「……やっぱり、私には才能がないんでしょうか」

「……才能?」

「周りの友達はいくら頑張っても無駄なんだから諦めればいいのにって……」

「はあ……」

「……十六夜?」


 島村さんの言葉を聞いて頭を抱えて深いため息をついた俺に京谷が首を傾げる。

 京谷のことを気にせずに、もう一度ため息をついて顔を上げて島村さんを見た。

 島村さんはかなり不安そうな顔で俺のことをじっと見ている。


「島村さん。俺は君が何でそんなに頑張ってるのかは知らないし、その努力が無駄かと聞かれたら無駄だと返すよ」

「……そう、ですよね…………お話聞いていただきありがとうございました」


 俺の言葉に泣きそうな顔で立ち上がろうとした島村さんにもう一度ため息をついて声を掛ける。


「まだ、話は終わってないよ」

「……けど、私がしてきた努力は無駄だったんですよね。才能がない私は諦めるしかないじゃないですか……」

「今までの努力が無駄だとは言ったけど、才能がないなんて言ってないし、諦めろなんていう気もないよ」

「え?」


 泣きそうな顔で俯いていた島村さんは俺の言葉を聞いて意味が分からないと言いたげな顔をして俺に顔を向けた。

 というかここで帰られたら俺とんでもなく酷い奴じゃん。

 変な誤解はされたくないので、島村さんに座るように促して話を続けた。


「正直、島村さんがどんな勉強をしてきたか知らないけど、分かるのは島村さんにあってないことだ。自分にあった効率のいい方法で勉強しないと時間の無駄だ」

「え、えっと?つまり、どいうことですか?」

「十六夜が言いたいのは無駄が多い勉強方法を続ければ、頑張れ頑張るほど無駄になるってこと」


 俺の言葉簡単にまとめた京谷の話を聞いて島村さんは何となくは分かったようだ。

 なので俺は次の話に移す。


「それから島村さんの才能についてだけど、間違いなく努力だろうね」

「努力ですか?」

「島村さん、勉強好きなわけじゃないでしょ」

「え、あ、はい。嫌いとは言いませんが、好きではありません」


 予想通りだけど、本当にこの子何のために勉強してるんだか。

 島村さんの言葉にため息をついて島村さんが気になっていることに答えた。


「まず、好きでもないことで島村さんほど頑張れる人はいないよ。少なくとも俺には無理だ、京谷は?」

「絶対無理」


 俺と京谷の言っていることが分からずに首を傾げる島村さんにさらに詳しく話す。


「普通の人は努力をして結果が少しも出なければ挫折する。頑張ったほど、裏切られたら辛いものだからね」

「確かに、結果が出ないことは辛いですが、挫折するほどでしょうか?」

「さあ、努力なんて一ミリも出来ない俺には分からないよ。俺には島村さん達と同じ気持ちを経験することはないだろうからね」

「……そうですか」


 俺の言葉に島村さんは少しくらい顔をして俯いた。

 しかし、俺はそんなことを気にせずに、話を続けた。


「島村さんは効率のいい努力の仕方が分かればいくらでも成長できるんだ。今まで五時間で一しか積めなかったものを一時間で十積めるようになるといえば分かるかな?」

「そんなに変わるんですか!?」

「それは効率をどれだけあげられるか次第だね」

「それって、私に勉強を教えてくれるってことですか?」

「ああ、協力するよ」


 俺が島村さんに教えることはほとんど何もないけどな。

 後は、優香をどうやって説得するかだな。

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