第5話 妹達

 京谷と優香が来た次の日、十二時少し前にインターホンの音で起こされた。

 欠伸をしながら玄関に向かいドアを開けると、輝夜と黒羽が立っていた。


「おはようございます、十六夜さん」

「おはよう、兄さん」

「ああ、おはよう。それで何しに来たんだ?」


 玄関で立ち話をするのはあれなので二人に入るように促しながら、来た理由を問いかける。

 リビングに着くと輝夜が話し始めた。


「兄さんは放っておくと一日中寝るから、昼少し前に起こしに来たの。ついでにお昼も作りに」


 昼食を作るための買い物をしてきたのか買い物袋を見せながら輝夜が答えた。

 それなら昨日来るんじゃないのか?


「昨日は輝夜に用事がありましたし、優香さん達が来ると思ったので今日来ました。実際に来たようなので今日で正解ですね」

「考えを自然に読むな。それとなんでわかったんだ?」

「今週は実力テストがあったようですから、間違いを教えてもらいに来ると予想しました。来たことが分かったのは優香さんの匂いがしたからですね」


 んー、前半は優香のことを知っていれば大体予想できるからわかるんだが、後半は……


「どんな嗅覚してるんだよ……」

「私の特技の一つですから」

「……そうか」


 俺の呟きに対して満面の笑みで返す黒羽に俺と輝夜は呆れた顔を向けた。

 黒羽とは長い付き合いだが、未だによく分からない奴だ。


「それと、これを面白かったので持ってきました。お昼を作っている間読んで待っていてください」

「黒羽のおすすめなら読ませてもらうよ」


 黒羽がカバンから分厚い本を取り出して渡してきた。

 表紙のタイトルを見る限り、ビッグバンについて書かれているようだ。

 黒羽の取り出した本を見た輝夜がため息をついた。


「はあ、二人はそういう宇宙論とか好きよね」

「ええ、宇宙や物理法則に対するいろんな人の考え方が分かってとても面白いですよ」

「はあ……」

「これに関しては興味を持ってないと分からないからな」


 黒羽の言葉に輝夜はそれの何が面白いのだと言いそうな顔をしたので、適当に話を終わらせた。

 黒羽は保育園に通っているころから化学現象に興味と疑問を持つ子供だった。

 その黒羽の疑問に俺が答えていたせいで、小学校に入るころには俺と同じ本を読むようになっていた。

 結果として黒羽は俺と本の趣味が似通ったことで、今ではお互いにラノベや化学本をおすすめし合う仲だ。


「それでは、私達はお昼を作ってきます」

「ん、キッチンあるものは好きに使っていいから」

「分かりました」


 キッチンに向かう二人を見送る。

 二日続けて女子に昼食を作ってもらうって俺意外とモテるのでは……

 いや、ないな。

 昨日は勉強のお礼だし、今日は理由的に母さんが行くように言ったのだろう。

 さて、さっさと黒羽に借りた本を読んでしまおう。



「兄さん、ご飯出来たよ」

「ん?ああ、分かった」


 輝夜の言葉を聞いて三週目に入っていた本を閉じた。


「まだ、読む途中だった?」

「いや、暇だから読み返していただけだ。内容は全部覚えてる」

「そう。暇なら料理運ぶの手伝って」

「ん、今行く」


 輝夜に言われてキッチンに行くと黒羽が料理を盛り付けていた。


「どれを運べばいい?」

「そうですね。盛り付けが終わっているのは輝夜が持って行ったので、お茶とコップを先に持って行ってください」

「分かった」


 黒羽に言われた通りに冷蔵庫からお茶を取り出し、人数分のコップを持ってリビングに戻った。

 もう一度、キッチンに行くと黒羽が盛り付けを終わらせていたので三人で料理を全て運び、昼食を食べ始めた。

 昼食を食べている途中で視界に入った黒羽の髪を見て気になっていたことを問いかけた。


「前から気になってたんだが、黒羽はなんでそんなに髪を伸ばしてるんだ?」

「変ですか?」

「いや、似合ってるよ。けど、それ下ろしたら腰下くらいあるだろ。そこまで伸ばす理由があるのかなって」

「伸ばしてるのは願掛けですよ。願い事は秘密です」

「願掛けか。叶うといいな」

「はい」


 願掛けで髪を伸ばすって聞いたことあるが、実際にやってる人を見るのは初めてだな。

 確か、黒羽が髪を伸ばし始めたのは五、六年前だったよな。

 黒羽も結構苦労してるんだな。


「十六夜さん、この後何して過ごします?」

「ん?特にしたいことはないが、黒羽達は何かあるか?」

「私は買い物に行きたいかな」

「……黒羽は何かあるか?」


 輝夜から返ってきた意見を聞いて黒羽に問いかける。

 家から出たくないので黒羽には是非とも室内で出来ることを選んで欲しい。

 俺の願いが通じたのか黒羽は満面の笑みで俺を見ながら口を開いた。


「私も買い物に行きたいです」 


 何も通じていなかった。

 はあ、仕方ない。

 たまには外出するか。

 昼食の片付けを三人出して、しぶしぶ二人の買い物に付き合うために家から出た。

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