第3話 高校入学

 一人暮らしを始めてのんびりと過ごす時間はあっという間に過ぎていった。


「はあ、入学してすぐにテストってどうなんだろうな」

「いやいや、十六夜は頭いいんだから問題ないだろ」


 窓の外を見ながらの俺の愚痴に対して隣に座っている幼馴染の黒川京谷が返してきた。

 俺の言葉に呆れたのか苦笑をしている京谷に振り向いて返す。


「頭が良い悪い関係なく、面倒だから嫌いなんだ」

「相変わらずなようで」

「京谷はテスト好きなのか?」

「好きなわけないだろ。優香でもテストが好きじゃないんだぜ」

「ああ、そういえばそうだな」


 俺から視線を外し昼休みだというのに席に座って教科書を見ている女子木下優香に視線を向けた。

 優香の名前が出たので俺も優香に視線を向ける。

 明るい茶髪のセミロングでクラスでも上から数えた方が早い美少女の優香。

 優香も京谷と同じで小学校のころからの友達だが、京谷と違ってあんまり進めたアニメとかラノベ以外ではほとんど話すことないんだよな。


「本当に、よく好きでもない教科の勉強出来るよな」

「まあ、優香は俺達と違って真面目だからな」


 俺の言葉に京谷は笑いながら返してくるが、一緒にしないで欲しい。

 俺がジト目で京谷を見ると、京谷は笑いながら俺に視線を向けてきた。


「俺からしたら優香より十六夜の方が変だと思うがな」

「は?なんでだよ」

「興味があることには異常な執着があるからな。特にラノベや化学に関しては」

「やってて楽しいことに力を入れるのは当然だろ」


 まあ、興味がないことにはとことんやる気もないがな。


「力を入れるのは分かるが、生活に支障が出るほどやるか普通」

「人生楽しまなきゃそんだろ」

「それでも寝不足で倒れるほどやる奴はお前くらいだ」

「あの時はいろいろと立て込んでたんだよ……」


 仕事と見たいアニメの放送と好きなラノベの発売が複数重なったんだよ。

 あの時は流石に疲れたな。


「そういえば、一人暮らし始めたんだろ」

「ああ、それがどうしたんだ?」

「もしかして、彼女を連れ込むためか?」


 何を言ってるんだこの馬鹿は……

 彼女以前にまともに恋愛さえしたことないんだぞ、俺は。


「俺がモテないこと知ってるだろ」

「モテる努力をしてないってだけだろ。試しに学校一の美少女に告白してきたらどうだ?」


 京谷は苦笑して俺を見た後に、視線を女子友達と話している途中の一人の女子に向けた。

 学校一の美少女高橋加奈に俺も視線を向けてため息をついた。

 俺の願いで美形が多いこの世界でも飛びぬけた金髪ロングの美少女。

 というかこの世界、アニメの世界みたいな髪の色してる奴多いな。


「あんな高嶺の花と一緒にいるなんて無理だな」

「試しにって言ったろ。どうせ振られるんだから、練習くらいになるだろ」

「高橋さんに練習で告白したなんてバレた日には取り巻きに殺されそうだな」

「確かにな」


 分かってるならやらせるなよ。

 こいつは何がしたんだ?


「それで、一人暮らしは楽しいか?」

「ああ、料理と掃除が少し面倒だが、のんびり過ごせて楽しいぞ」

「じゃあ、今日遊びに行くわ」

「……まあ、いいか」

「そろそろ次のテスト始まるし、席に戻ろうぜ」

「そうだな」


 あいつ、テスト勉強してなかったが、次のテスト大丈夫なのか?

 気になって席に戻った京谷に視線を向けてみるが、特に勉強する様子もないし諦めているか。




 兄さんが高校に入学し私は中学三年になり、幼馴染の親友蓮見黒羽と一緒に下校している途中。


「十六夜さん、一人暮らし始めたんでしょ?」


 声を掛けられて隣を歩いている黒羽に視線を向けた。

 黒羽は異常に長い黒髪を肩の少し下あたりから三つ編みにして肩にかけている以外、見た目だけは普通の少女だ。

 肩にかけた長い髪を片手で触りながらこちらを見て返事を待っている。


「そうだけど……そんなに私がいると迷惑なのかな?」

「輝夜が迷惑というよりは十六夜さんは一人でいるのが好きなだけだと思うけど」

「それだけの理由で一人暮らしするのはどうなの?」

「まあ、十六夜さんだから仕方ないよ」


 楽しそうに微笑みながら話す黒羽を見てため息をつく。

 黒羽に何を言っても無駄か。


「それに遊びに来るなって言われてないんでしょ。なら、好きな時に遊びに行けばいいじゃない」

「私はいつでも遊びに行くよって言いたいの?」

「当然でしょ」


 満面の笑みで当たり前だと宣言する黒羽を見てもう一度ため息をついて黒羽から視線を外した。

 まあ、黒羽が行くなら私が遊びに行っても問題はないでしょ。

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