4-2
かくして、ヒヨウきゅんの突然の訪問によって思考停止に
「見せたいもの、ですか?」
「そうなんですよ」
私の手を引きながら、少し前を歩くヒヨウきゅんがそう言った。曰く、彼はわざわざアレクや王様の許可まで取って私を連れ出しに来てくれたらしい。サラくんは「聖女様に無理をさせるな」と反対していたらしいけど……まあサラくんの言うことをヒヨウきゅんが聞かないのはいつものことだもんね。
ちなみに、彼の目的について私が尋ねても、ヒヨウきゅんは「ナイショです」と人差し指を立てて笑っているばかりだった。んもう、いけず。
そんなわけで今、私たちは変装用の黒いフードを
王宮に
建物を
「……元気ですね、
「あれだけのことがあったからですって」
そう言って、ヒヨウきゅんはフード
なおもヒヨウきゅんは、私の手を引きながら言葉を続けた。
「何があろうと明日は来ますから。なのにボーッとしてたら、せっかくの明日が無駄に過ぎてっちゃいますからね。地震なんかでへこたれてちゃいられませんよ、ミレーナ様」
「……!」
軽快に話すヒヨウきゅんを見て、私はううっと顔に手をやった。
あー
そんなヒヨウきゅんは、「おっと」とある露店の前で歩みを止めた。看板や器材を見る限り、そこはよく街中で見かけるようなスイーツ屋さんだ。薄く焼いた
「よう」とヒヨウきゅんが声をかけると、露店の店主は
それをヒヨウきゅんは、そのまま私に「どうぞ」と差し出してきたのである。
「えっ……いえそんな、私なら自分で」
「
「これも
「むぐう……」
おねだりするみたいなヒヨウきゅんの甘い声に、私はくらりといきそうになる。あーズルいなーもう。もしこれが逆のシチュエーションで、『オレに何か買ってよ』みたいな場面だったら、私はお
でも今回はそうじゃなく、彼から
「……では、お言葉に甘えて。ありがとうございますザックロー様、店主様。大事に食べますね」
「! へへ……! よかったです、受け取ってもらえて。な、よかったな、おっさん!」
そう
元々王都のスラム街の生まれだというヒヨウきゅんは、街の人たちに
誰もが
……ちなみに、私はアレクのもヒヨウきゅんのも、それからサラくんのブロマイドもたくさん持っている。いっぱい! いいだろ!! ってかサラくんのばっか売れ残ってんだよみんなサラくんのも買えや!!!!
それから私とヒヨウきゅんは、さらに街の中心地へと歩いていった。
お
私はかなり深めにフードを被っていたから気付かれなかったけど、道行く人の何人かは「おう、ザックローじゃねえか!」「ちゃんとご飯食べてる?」などとヒヨウきゅんに気付いて声をかけていく。私としては正直『呼び捨てなんて
──私は、ヒヨウきゅんが私の疲れを
何か、何か足りない。
結局その何かが分からないまま、私たちは街の中心にある、開けた広場に設置されたステージへと
ステージというのは、中央広場に元からある演劇や歌唱のための
見ると、演目はまだ始まっていなかったが、既に客席は観客で溢れ、ガヤガヤと騒がしかった。私も遠目からステージを見たことはあったが、聖女の
……演劇、か……。
「さあミレ……じゃなくてお
「え? あ、あの……」
ヒヨウきゅんは私の手をグイグイと引っ張って客席へと導いた。私が
「さあどうぞ、お嬢様!」
「は、はいっ!」
なんて
舞台に向かって
「……あれ?」
そこで私は、さっきまでそばにいたヒヨウきゅんがいなくなっていることに気付く。
私はハッとして、慌てて周りをキョロキョロ見回した。考えてみれば、満席ということはヒヨウきゅんが腰かける場所はない。そして恐らく、彼が私に見せたかったのはこれから始まる劇なのだ。ということは、私をなんとかここに座らせた時点で、彼は『もうお役
私の手の中で、
──直後、高らかなラッパの音とともに、旅人らしき
今日の演目は、
状況は深刻な一方、ヤケクソなジョーク
もちろん私もそうだった。いったい村は、村人や旅人はどうなってしまうんだろうと。そしてしばらくシーンに出ていない村長の娘はどうなったんだろうと……ハラハラドキドキしているつもりで舞台を見つめていたのである。
けれど一方で私は、自分が心ここにあらずな状態でいることにも気付いていた。
どの演者を見ても美男美女、それかユニークな顔立ちの人ばかりで、演技のレベルも相まってすこぶる眼福な状況ではある。しかもタダで、ヒヨウきゅんにお願いされての観劇だ。これで文句を言ったら
ただ……私は彼らのことをろくすっぽ知らないのだ。本名はなんといって、どんな性格で、オフの日は何をしていて、好物はなんで、交友関係はどうなっていて……いや知れる
「…………」
私はスイーツの紙袋をぎゅっと
なんだか……急にすごく
──あぁっ、と、そこで周りの観客が悲鳴をあげた。私がちらと見ると、舞台の上では村人たちが広場に
ダメだ、余計なことを考えてしまってもう劇を楽しむどころじゃない……ごめんねヒヨウきゅん……せっかく観せてくれた舞台なのに、私は……もっと君が一緒にいてくれるだけでよかったのにって、そう思っちゃったよ……。
『まだ
勢いのある声が聞こえて、私はバッと顔を上げた。
舞台
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