幕間1 よく知らないで推しの悪口言うのは身内でも許さん
幕間1-1
アハト・オーアインという国が生まれたのは、今からおよそ五百年ほど前だという。
元々
その中で、王家は祖先の血脈を
ただ、そんなよくある王家の風潮は、百八十年ほど前に終わりを告げた。
しかし、それでも王様は跡継ぎを選ばなきゃいけなかった。せっかく領土も広がって国が安定してきたのに、ここでお家断絶となればオーアインは空中分解待ったなしだ。とはいえ、残された王子はたったの二人で、それも兄王子の母よりも弟王子の母の方が高貴な生まれという
これじゃどっちにしろ王国はガタガタじゃないか……と、当時の王様がどれだけ胃を痛めていたかは想像に
(王よ。私の
この兄王子の母の申し出に、当時の王は舌を巻いた。それまで王は、
結局、兄王子とその母は言葉通りに王宮を去った。そして、継承順が
大往生を
一つは、かつて起きたような疫病騒ぎの再来に備え、名うての聖女を『オーアインの聖女』として取り立ててほしい、ということだった。当時、王宮の医師や薬師は疫病に対してほとんど有効な手を打てず、疫病が収束したのは彼らよりも、街の聖堂で
そして旧王のもう一つの遺言は、自らが追放した(ことになっていた)王妃と、その王子の
その後、兄母は王宮に呼び出され、国難に際しての多大な
──全てが丸く収まって、いやよかった
幸いにも分家の一族は
ただまあ、もし分家ができてなかったら今のアレクはいなかったかもしれないし、私としては分家の祖先に
◇◆◇
その日私は、王宮の庭園を一人で歩いていた。
よく晴れた昼下がりだった。お昼ご飯をついつい食べ過ぎてしまい、苦しいお
さて、オーアインの庭園には、
「……ん?」
──こんにちは、カリブロン
「……んん!?」
緑の生垣の向こうから、男性の声が聞こえてきた。私が生垣の
(アアアアアレク!! 今日はこんなところにいたのかい!!!!!!)
息を
ややボリュームのある金色のマッシュルームヘアの男性だ。顔はシュッとしていて理知的な感じ。アレクと
見ていると、アレクは男性に向かって一礼する。
「カリブロン殿下。本日は遠路はるばる、王宮までご足労いただき……」
「いや、やめてくれたまえアレクシス」カリブロンと呼ばれた男性が鼻で笑った。「キミが頭を下げる必要はない。王族ではなく、ただ王宮にいるだけの分家の人間が、ね」
「……そうですね」
(あ゛ァ゛っ!?!?)
男性の
アーガスト・カリブロン。
カリブロン殿下といえば、現オーアイン国王アーガスト・ゴルドルの弟である、アーガスト・シルベウス公の息子だ。
現在のオーアインを治めるゴルドル国王は、持ち前の優しさと経済政策の
……まあ、それが
とはいえ、流石に『オーアインの聖女』が王弟の子息を
さて、苦笑いをしていたアレクだが、それを見たカリブロンは
「やれやれ……相変わらずキミは張り合いがないな。痛いところを
「いえ、反論など。私が分家の出であることは事実ですから」
「フン……そんなことだから他国からナメられるのだ。隣国の大物はキミのことを『ただ人気があるだけの
「殿下、あまり外交に関わることをここで話されない方が……」
「僕に命令をするな」カリブロンはキッとアレクを
「……申し訳ありません」
そこでアレクは苦笑いを止め、再び硬い表情をしてカリブロンに頭を下げた。
「彼らの動きが予想以上に早く、こちらの目算が外れてしまいました。
「そんな言葉が聞きたいのではない!」
ボスッ、と、あからさまにイライラした顔で、カリブロンが生垣を
「キミは
「……
「フン……まったく、分家の人間だからと甘えているのではないかね」
硬い枝にでも当たったのか、赤くなっている手をさすりながらカリブロンが
「最近では王の
私が
「──ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっ!!!!!!!!!!!!」
これ以上、私の推しをバカにすんじゃねぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!!!!!!!
もはや
不意に聞こえた
「ミレーナ様!?」
急に現れた私を見て、アレクが
「なっ、なんだ貴様──」
「アレクシス様に謝ってください!」
「へぇっ!?」
怒り心頭の私の叫びに、カリブロンは
「謝ってください!! よくもそんな失礼なことを……! この方を
「なっ、き、貴様こそ! 貴様こそ僕を誰だと思って……あ? き、貴様、『オーアインの聖女』か……!?」
「落ち着いてくださいミレーナ様!」
カリブロンが目を
「分家だとかなんだとか……! この方が、どのような思いで今の立場にいるかご存じなんですか!? それに中途半端だなんて……!! この間も、どんな大変な戦いだったか、ご覧になってもいないでしょうに……!」
「……ああそうか、『オーアインの聖女』には【千里眼】があるんだったか……」
私の台詞に、カリブロンが怒りと動揺を
推しをバカにされたのが許せなかったのだ。それも、アレクをよく知ったうえで批判するのとは
「アレク様はすごいのに……! いっぱい
「……ミレーナ様……」
気付けば、私は感情が
「……アナタなんかに……! アナタのような人に、アレクシス様の
「なんだとォ……!?」
ダメだ、あんま
マッシュルームヘアの下の額にピキッと青筋が
「貴様ッ──」
ドン、と、
「アレクシスが素晴らしいことなど、僕だって知ってるに決まってるだろうッッッ!!!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます