第5話 サバゲーとエアガン
エリアの内部は他の異世界とつながっている。
都内の小中学生の間に伝わる都市伝説2
「あははははは、やだなー、本物のはずないじゃん。エアガンよ、これ」
狩谷先輩は笑いながら、私が本物だと勘違いした64式ライフルをもう一度よく見せてくれた。だが、私にはどうしても本物にしか見えない。
「でも、鉄でできてるし、玩具ならプラとかで出来てるんじゃないですか」
いくら外見がそっくりとはいっても、玩具はやはりそれとなく素人の私でも分かる。
だが、目の前の銃は金属の持つ独特の光沢を放っていた。
「まあね。東京マルイとか日本製だと外装はプラでできてるけど。これはみんな輸入品だから」
東京マルイというのは日本でナンバー1(多分世界1)のエアガンメーカーで、この会社が開発した電動式エアガン(バッテリーで内部のポンプを動かし、BB弾を発射する)の大成功で、一気にエアガンはメジャーなホビーとなったそうだ。
「輸入品」
「そう、だいたい中国か台湾製。あっちのエアガンは日本ほど規制が厳しくないんで、外装も鉄でできてるからリアルなんだよね」
なんでも最初は東京マルイのコピーの劣悪な製品を作っていたそうだが、最近ではいくつかのメーカーは日本製に負けないくらいのレベルの商品を作るようになり、さらに日本製とは違い、金属を多用しているため、マニアには人気が高いそうだ。
「でも、サバゲーとかで使うなら、プラのほうが軽くていいんじゃないですか」
「そうね。だからサバゲーで使うなら日本製。飾ったり、いじったりして楽しむなら海外製かな」
この部室の中にもざっと見ただけで50丁以上ライフルやマシンガンがあり、そのうち半分くらいは海外製だそうだ。
「それに海外製のほうが同じ銃でもかなり値段が安いのもあるから」
「安いって、どのくらいするんですか」
「まあ、2万前後かな」
「2万、玩具に2万!」
玩具に2万、どこが安いんですか。うちの二か月分の食費ですよ。
「この64式なんて7万はするから」
「な、な、な、7万、それって玩具の値段じゃないですよ」
中古の原付の値段ですよ。
「まあ、安くはないわな。サバゲー仲間の中にはトイガンとかいう人もいうけど、年齢制限もある商品なんだから、トイと呼ぶのは間違いだと思う」
確かにホビー関係なんて、そのマニア以外からしたら、大抵「高い」というのが一般常識だが、それにしても法外な価格帯といえる。
「とにかく先輩たちはそのエアガンでサバゲーやってるわけですね」
昼飯をごちになった義理から、一応話だけは聞いていたが、やはりこの人たちと私の住む世界は違いすぎる。さっさと断って退散しようと考えていたら、狩谷先輩の口から気になる言葉が出てきた。
「まあ、アッシたちのサバゲーは普通のサバゲーとはちょっと違うんだけどね」
「?」
普通と違う。まさか、実弾使うとか、それともマンハント(もしかして私は獲物)でもするのか。私が心配そうにしていたら、2年の有坂先輩が別のエアガンを私に見せてくれた。
「それよりも野々原さん。このG3ライフル見てよ。旧西ドイツ軍の正式ライフルで、米軍のⅯ16やイギリスのFALと違って、海外ではパキスタン軍がコピー品を使ってたくらいで、あまりメジャーな銃じゃないけど、いいでしょ。さすがは数々の名銃を生み出したドイツ製だけあって、このフォルム、しびれるわー」
「はあ」
はっきりいって私のような門外漢にはちんぷんかんぷんだ。外見も64式と大して違わないし。
「このG3、東京マルイが初期に電動化してるんだけど、銃身がプラでできてるから、すぐに壊れてね。長い間、ファンは苦渋を舐めていたんだけど、最近中華製のLCTから新製品が出たのよ。こちとらオール金属製。ほぼ実銃と同じ重さで、もう即購入したわ。全部で三種類出たんだけど、今回は一丁だけで我慢したわ」
「で、それはいくらするんですか」
「まあ、5-6万ってところかな。カスタム無しで」
「5-6万」
「だいたい中華製のいいやつはそれぐらいするわよ」
この人たちはいくら小遣いをもらってるんだろう。それとも良からぬバイトでもしてるのだろうか。
もういだろう。そろそろ午後の授業も始まるし。さっさと話しを切り上げよう。
「どうにもみなさんとは金銭感覚が違うみたいで、申し訳ないんですが、やっぱり入部のほうは」
「大丈夫。タマちゃんはエアガン買わなくてもいいから。アッシたちのを貸してあげるから」
しつこく食い下がる狩谷先輩。
「でもー、一応放課後バイトもありますし」
「そっちもOK、だいたい部活するのは休日だから」
「んー、それでも」
もう、面と向かって「サバゲーには興味ありません」というしかないか。
「楽しいわよ。エアガンぶっ放すの。ストレス解放に一番。タマちゃん、ストレスが溜まってるみたいだし、スポーツで健康的に発散しようよ」
確かに面白そうだが、やはり私のような貧乏学生のやる部活ではない。決めた、さっさと断って教室に戻ろう。私がはっきりと断ろうとした瞬間、狩谷先輩の口から切り札が飛び出した。
「それに入部したら、特典としてお昼は毎日ミリ飯をご馳走す・・・」
「やります!ぜひ入部させてください!」
狩谷先輩が言い終わらないうちに、私は脊髄反射的に承諾してしまった。
ああー、貧乏が憎い。
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