第6話 缶めしパーティー

翌日、私は再び「狩猟部」の部室に来ていた。


「明日は闇鍋ならぬ缶めしパーテイーをやるからね」


狩谷部長のこの一言に釣られ、私は昼飯をご馳走になるため、再度部活棟にあるこの魔境を訪れたのだ。


ああー、いくら昼飯に釣られたとはいえ、こんなヤバい部活に入部するなんて。


幸い今日は部長と私だけで、金髪ツインテールと巨乳副部長はいないようだ。


それにしても・・・私は改めて自分自身に染み付いた貧乏癖を呪った。


「よう、今からちょうどおっぱじめるところさ」


部室に入ってきた私に狩谷部長はそういうと、部室の床に置かれた金属製のたらいの中に置かれたカセットコンロの上の鍋の中で沸かしているお湯の中に濃いグリーンの缶詰を何個か入れた。


「なんでたらいの中にコンロ置いてるんですか」


「まあ、念のため、火事には気を付けないとな。ここは木造だから、火事なったらまる焼けになっちまう」


鍋のお湯の中で缶詰め、自衛隊戦闘糧食Ⅰ号がごとごとと音を立てながら温められている。


「ずいぶん時間がかかるんですね」


「ああ、昨日食べた戦闘糧食Ⅱ号は民間のレトルト食品と同じだから、温めるのにさほど時間はかからないんだが、こっちは最初に作られたのが、1960年代だから、保存食としては、かなり旧式なのさ」


確かにお湯の中の缶詰にはプルトップなどもついておらず、昔ながらの缶切りで開けて食べるようだ。


「でも、味はⅡ型に劣らないぞ。それになにより量が多い」


確かにどの缶詰も市販のものよりかなり大きい。


「お、そろそろ、いいかな」


狩谷部長はタオルを使って、缶詰を掴むと、鍋から出して床の上に並べた。


「じゃーん、タマちゃん、これが本日のメインディッシュ、戦闘糧食Ⅰ型、白飯とオカズ3品、プラス、タクアンセットだよ」


狩谷先輩はそういいながら、缶切りで缶詰を開け、私の前に差し出した。


「こ、これが、自衛隊の伝説の缶めし」


私はごくりと生唾を飲み込んだ。


先ずは缶めしの主役ともいうべき白飯。ふっくらと炊き上がり、つやつやとした米本来のうま味を最大限に生かした極上の国産米。しかもそれが三合も(約405グラム)。


続いて、オカズだが、牛肉の味付け。鶏肉の野菜煮。そしてコンビーフベジタブル。


「い、いただきます」


わたしは牛肉の味付けをはしで口に運んだ。


美味い!


牛の肩かももの肉を5mmほどの薄切りにし、砂糖、醤油、味醂などで味付けしたものだが、濃いめの味付けが白飯に合う。これだけで、ごはん5杯はいける。


次に鶏肉の野菜煮。鶏肉の他に人参、ごぼう、タケノコ、シイタケなどが、やはり濃い味付けで煮込まれていて、どの具材も柔らかく煮込まれており、口の中に入れるとほろほろと崩れ、胃の中に吸い込まれていく。


ああー、美味しい。こんなに美味しいものが毎日食べられるなんて。イカレた部員たちには面食らったが、この誘惑には勝てないよー。


そして、コンピーフベジタブル。


「たまちゃん、それは、こうしたほうが美味しいよ」


狩谷先輩は、コンビーフベジタブルを丼に移し、お湯を注いだ。


「おおー、こ、これは」


なんと和風ビーフシチューに早変わり。今回はⅡ型の時と違って、インスタントの味噌汁がないので、汁物はありがたい。


わたしは無我夢中で食いまくった。


美味な上にこの量の多さ。しかも栄養バランスも最高という、これぞ究極の食事だ。


ごはんが三合もあるので、オカズが途中でなくなったらどうしようか、と思う人もいるかもしれない。


心配ご無用。


缶めしの一番の人気ものといえるタクアンで残ったごはんをたいらげればいいのだ。


このタクアンがまた絶品。コンビニ弁当なんかについてるモヤシみたいな貧弱なものと違って、厚さ5センチはあるものが6切れも入っているのだ。歯ごたえといい、味付けといい、文句のつけどころがない。


「あー、ごちそうさまでした」


今回も私のブレーキの壊れた胃袋のおかげで10分足らずで完食。さすがにごはん三合も食べるとお腹いっぱいで、これは午後の授業、寝てしまうかもしれないな。そんなことを考えながら食器の片付をしていたら、狩谷先輩が私の前に座り込んで話しかけてきた。


「ところでさ、たまちゃん、次の日曜空いてる。そろそろ部活のほうにも参加してもらいんだけど」


げっ、そうだ、部活があるんだった。


やはり、タダより高いものはないのだ。






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