第6話 ヒント――刃の片面だけ血に汚れたナイフ

「今日は体調が悪いので、学校を休みます」

 自分から、学校に電話して伝えた。両親と一緒に暮らしている時は、たいてい母親が連絡してくれたが、今はそういう訳にはいかない。叶は、電話を切った後、自分の部屋によろよろと戻った。

 ベッドに横たわり、掛けふとんを頭から被る。ドタドタと誰かが家の中を走り回る音が聞こえていたが、しばらくして聞こえなくなった。皆出かけたらしい。

 木曜日だった。明日、学校帰りに誰かに殺される。そう考えると、学校に行く気にはなれなかった。

「いっそのこと、お母さんとお父さんのところに戻ろうかなぁ」

 そうしたら、殺されなくて済む。郵便屋さんは、未来は変えられないと言っていたが、さすがに遠く離れた場所に逃げれば大丈夫なのではないか。

 よし、そうしよう。叶は覚悟を決めて、ベッドから身を起こした。

「帰ろうとしても、無駄だよ」

「うわっ」

 勉強机に寄り掛かるようにして、郵便屋さんが立っていた。相変わらず色彩のないその死神は、唇の端を吊り上げて笑っていた。

「無駄だよ。家には帰れない。帰ろうとするだけ無駄だ」

「そんなのやってみないと分かんないじゃん」

「死神手帳に書かれた未来は絶対に訪れるものだ。そんな無駄なことする時間があったら、考えた方が良いよ。未来の真実について」

 未来の真実。そんなもの、本当にあるのだろうか。叶が見た未来が事実であり、それが全てなのではないか。


「通りゃんせ、通りゃんせ、ここはどこの細道じゃ……」


 叶は驚いて顔を上げた。郵便屋さんは遠くを見ながら、『通りゃんせ』を歌っていた。詩織さんといい、郵便屋さんといい、どうして皆、こんな不気味なわらべうたを好んで歌うのだろうか。

「叶、君は世にも恐ろしい童謡を知っているか?」

「な、何?」

「送っても送っても相手に中身が伝わらない、恐ろしい手紙の話さ」

 郵便屋さんの真っ黒な瞳は、叶を真っ直ぐ見つめていた。叶は思わず唾を飲み込んだ。

「『やぎさんゆうびん』という童謡だ。白ヤギさんと黒ヤギさんは、お互いの手紙を永遠に食べ続けてしまうのさ。食べられてしまう手紙をせっせと運ぶ郵便配達人の存在を考えると恐ろしいね」

「知らないけれど」

 拍子抜けして、叶は再び掛ふとんを頭から被った。

「もういい。私、体調が悪いの。病人なの」

「なるほどね。それじゃあ謎も解けないな。僕が看病してあげよう」

 嫌な予感がして、叶は体を起こした。郵便屋さんは、一度部屋を出ていったかと思うと、真っ赤なりんごを手に持って戻ってきた。

「病人と言ったら果物だろう。これを食べて元気を出すと良い」

「……まるかじりしろっていうの?」

「いや?僕が剥いてあげるよ」

 そう言って郵便屋さんは被っていた帽子を脱ぎ、ベッドの脇に腰かけた。柔らかなベッドは郵便屋さんの重みで少しだけ沈み込み、フレームが音を立てて軋んだ。

 その服装さえ目を瞑ってしまえば、郵便屋さんは他の中学生の子どもたちとさほど大差ない見た目をしている。未発達な小さな体に、幼い顔つき。頬はわずかに赤らみ、小さな唇は自然な桃色だった。顔のパーツは全て小さくまとまり、主張しない。そのせいか、男の子にも女の子にも見えた。

 ほんの少しだけ叶は緊張していた。掛ふとんの下で、足をすり合わせる。布が擦れ合い、湿った音を立てる。

 どごんっ。

「え?」

 静かな部屋に響いた場違いな音の正体を探すため、叶は視線を彷徨わせた。包丁を持って、サイドテーブルのまな板の上でりんごを切る郵便屋さんの姿が目に留まった。

「ちょっと、何でまな板まで持ってきてるの?普通りんごって、こう……くるくるーって皮を剥くものでしょう?」

「君は知らないのか?りんごは切ってから皮を剥く方がやりやすいんだよ」

「なら台所でやってきてよ!まな板を枕元に持ってこないでくれる?」

「普通枕元で切るものだろう、りんごって」

 そう言って郵便屋さんはおかしそうに笑った。

 もしかして、からかわれているのかもしれない。叶はかけ布団を引っ張って、顔を覆い隠した。

「あなた、変。学校にいたら絶対いじめられるよ」

「僕は別に他人を気にしないから、構わないさ。その点、君は気にしすぎなんじゃないの?」

 確かに、郵便屋さんは誰に何を言われようが構わないだろう。正直、羨ましいと思う。叶は、自分がそうはなれないことを理解していた。

「君は分かってないだろう。誰に殺されたのか。もう一度、考えてみたら」

 郵便屋さんはそう言って、笑いながら部屋を出ていった。まな板の上に、食べやすいようにカットされたりんごが残されていた。

「しょうがないな」

 叶はベッドからゆっくりと這いずり出た。元々、家に帰るための気力もそれほどあるわけではないのだ。

 りんごを食べた後、部屋を出て、さっちゃんの部屋に向かった。明日、明里ちゃんの背中を刺すためのナイフか何かを部屋に隠しているかもしれない。それさえ見つけられれば、犯人は分かったも同然だ。


 結論から言うと――さっちゃんの部屋にも、詩織さんの部屋にも、怪しい物は何もなかった。普通の、恵まれた環境で育てられた女の子の部屋だった。叶の持っているアーミーナイフそっくりなナイフも、もちろんなかった。

 もしかしたら自分の部屋以外の別の場所に隠しているのかもしれない。しかし、それを探すだけの時間は、叶には与えられていなかった。

 それに、ナイフを見つけたところで、どうやって明里ちゃんを背中から刺したのかは分からないままだ。最悪の場合、叶を突き落とした犯人と明里ちゃんを背中から刺した犯人が別人ということもあり得る。

「はー、つんだつんだ」

 叶は自室に戻ると、ベッドに寝転んだ。そのまま、漫画を読みながらゴロゴロしていると、玄関の引き戸が開かれた音が聞こえてきた。どうやら誰か帰ってきたらしい。そういえば今日まで、詩織さんはテストか何かで午前中授業だと言っていたではないか。部屋を物色している時に鉢合わせしなくて良かったと、叶は安堵した。


 詩織さん。忘れていたが、昔は詩織さんとも仲が良かった。小銭をポケットに入れて、近所のコンビニまでお菓子を一緒に買いに行ったりしていた。あの神社に続く小路を、一緒に探検したこともある。もちろん日が出ている内に行ったが、それでも薄暗くて恐ろしかったことを覚えている。真夏だった。たまに風が吹くと、首筋を伝う汗が冷えて気持ちよかった。


「通りゃんせ、通りゃんせ。ここはどこの細道じゃ」


 詩織さんは小さな頃から背が高かった。ランドセルが似合わない、大人びた子どもだった。自分に求められている役割を理解していたのだろう、昔から小さな子どもに優しくて、面倒見が良かった。


「行きはよいよい、帰りは怖い。どうして帰りは怖いのか、知ってる?」


 その時詩織さんは中学生で、叶は小学生だった。詩織さんの期待に応えたくて、その答えを探したけれど、結局叶は何も言えなかった。


「それはね」


 あの時、詩織さんは何て言ったのだっけ。


 廊下を歩く足音が、段々と近づいてくる。叶はベッドの上に座り直して、身を強張らせた。ドアが軽く、二回ノックされた。

「叶ちゃん、大丈夫?今日、体調悪くて休んでるって聞いたけれど」

 詩織さんの声だった。 

「大丈夫」

 叶は体調が悪そうな、鈍い声で返事をした。

「開けるね」

 叶が制止する前に、詩織さんが部屋の扉を薄く開いて顔を覗かせた。

「叶ちゃん、ご飯食べた?一緒に食べる?」

「いい……いらない。食欲、無いから」

 本当は一人でインスタントラーメンでも作って食べるつもりだったが、こうなってしまえばお昼抜きで耐えるしか無い。詩織さんと一緒に、二人でご飯を食べるなんて考えられないことだった。

「そうなの」

 詩織さんはそのまま、叶の部屋に体を滑り込ませてきた。鼻を啜る音でさえ大きく響くような静寂が、部屋の中を支配していた。

 気まずい。叶は顔をそらし、ベッドの中に潜り込んだ。そのまま、掛ふとんを頭から被って拒絶の意を示す。

「叶ちゃん、最近何かあった?」

 詩織さんは扉の前に突っ立ったまま、叶に話しかけてくる。帰る気はなさそうだった。

「何も」

「本当に?」

「……何で、そんなこと言うの?」

 布団の中から発せられる叶の声はかなり聞き取りにくいはずだったが、詩織さんは言葉を一言一句逃さずに拾っていた。

「だって、変だから……」

「へん?」

 郵便屋さんとの話し声でも聞かれたのだろうか。叶は変に動揺せず、詩織さんが何か言うのを待った。

「どうして」

 詩織さんが言った。


「どうして、鞄の中に、おっきい刃物なんて入れてるの?」


 胸がどくんと跳ね上がる感覚の後、顔が熱くなっていく。

 そうか、詩織さんにはばれていたんだ。叶は下唇を噛んだまま、じっと黙っていた。

「ねえ、もしかして学校でいじめられているの?」

「別に。詩織さんには、私がいじめられそうに見えるんだ」

 冷たい言葉で返すと、詩織さんは唸った。

「そうじゃないよ。ねえ、どうして刃物なんて持ってるの?」

「あのさ……」

 分からないだろう。詩織さんみたいな人には、分からない。足りない人間は、道具に頼らなければならないんだ。それなのに、人を変だなんだと糾弾して。お前らのせいだって言うのに。

「しょうがないんだよ。だって、あの刃物が無いと私は小さくて、弱い、下等生物なの。だから、あのナイフを持ち歩かなきゃいけないの。あれはね、盾なの。私を守るための、盾」

 言いたいだけ言うと、少しだけ胸のすく思いがした。しばらく、布が擦れ合うような音だけが聞こえていた。

「……それって、違うよね?」

 詩織さんの声が、冷たく、部屋に響いた。

「それって、違うじゃん。叶ちゃんのそれは、盾じゃないでしょ」

 どういうこと。分からない。

「だって、叶ちゃんのそのナイフは、ナイフの刃先は常に、弱いものに向けられているじゃない。盾なんかじゃないよ。ただの剣として使われてるの」

「なにそれ。意味分かんないよ」

「明里ちゃんとか、強い人には向けられない。私みたいな弱い人間にばかり、攻撃してくる。それって、弱いものいじめと何が違うの?叶ちゃんは、弱いからいじめられていたんだよね?叶ちゃんはさ、それを攻撃者の立場になって繰り返しているだけだよ。ねえ、気がついてないの?」

 詩織さんが、弱い人間?でも、そんな、違う。詩織さんは、背が高くて。自分が大好きで。それで、それで……。

「私が叶ちゃんの気に障ることを言ったことも、あったかもしれない。嫌がられるようなことをしたかもしれない。それって、許せない?攻撃しないと、気がすまないの?」

「そんな、そんなことない。詩織さんは背が高くて、強い人間だから分からないんだ」

「叶ちゃんはそうやってさ、自分が弱いことを、他人を攻撃するための言い訳に使っているだけなんだよ。ねえ、理解してる?」

「理解……」

「人を刺したら血がでるってことを、理解してる?」


 詩織さんはそれだけ言うと、部屋を去っていった。

 叶は、掛ふとんの中に潜り込んだまま、静かに泣いていた。



「おい、叶」

 凛とした、力強い声が耳をくすぐる。叶はその声に応えたくなかった。外の空気を遮断してくれる掛け布団という要塞の中で、いつまでも丸まっていたかった。

「叶?」

 その、透き通った柔らかな声が、今はうっとおしく感じられて、苛立ちを隠すように、わざと大きな音を立てて鼻を啜った。

「おい、掛けふとんがダイヤ型になってるぞ。ちゃんと四角にしてから被れよ。僕は結構神経質なんだ」

 その死神は、叶の作り上げた要塞の中に、いとも簡単に入り込んできた。掛ふとんの隙間から小さな頭を捻り込ませてくる。薄暗い掛ふとんの中に、ほんの少しだけ光が差し込んだ。

 郵便屋さんの顔が目の前にあった。長いまつ毛に小さな唇は、あどけない少女のようであるのに、黒一色で統一された学生服はおどろおどろしく、不釣り合いに不気味だった。

「もう諦めたのかい」

「もう、どうでも良いよ……」

 叶は投げやりに答えて、目を伏せた。気を抜けばまた泣き出してしまいそうだった。鼻がツーンと痛くなる。

「はぁ、やれやれ。言っておくけどね、僕だって君が生きようが死のうがどっちでも構わないんだよ。このまま君を見殺しにしたっていいんだ」

「じゃあこのまま見殺しにしてよ。私は、生きている価値なんてない人間だもん。そうだよ。自分が弱いことを言い訳にして、他人を傷つけようとしてたんだ。クソみたいな人間だよ」

「それがどうして、生きなくていい理由になるんだ」

 説明してあげる気力すら無い。叶は息を吐き出して、言葉を少しずつ紡いだ。

「私は……理解してなかったの。誰かを傷つけてしまうことを全く考えずに、ただがむしゃらにナイフを振り回していたの。これは盾だって、言い訳して」

 叶はしゃくりあげながら言葉を続ける。

「私は、見せてもらった未来で……血に染まった明里ちゃんを見た時に、すごくびっくりしたの。胸がどきどきして、自分がやったわけじゃないのにすごく動揺して――その時は何で混乱してるのか分からなかったけれど、今理由が分かったよ」

 郵便屋さんは相槌も打たずに、黙って叶の顔を見ていた。まつ毛に縁取られた黒い瞳は、どこかぼんやりとしている。

「私は、人を刺したら血が流れるっていう、単純なことを理解していなかったんだ。自分以外の誰かが、傷つくっていう事実が、受け入れられていなかったんだよ。だから血を流した明里ちゃんを見て、あんなに胸がどきどきしたんだ」

「自分以外の誰かが、傷つく、ね」

「そう。私の世界ではね、常に傷つけられているのは自分一人だけだった。他の誰かが傷つくかもしれないなんて、考えてもいなかったんだ」

 言葉は途切れ、温かな要塞の中に静寂が訪れる。壁にかかった時計の針が振れる音は、どこか遠い場所から聞こえてくるように思えた。時間はやけに、ゆっくりと流れていた。


「人を刺すと、血が流れる」


 郵便屋さんが叶の言葉を復唱する。

 そう、人を刺したら血が流れるのだ。明里ちゃんだって、背中を刺されてあんなにたくさんの血を流していたではないか。

「ん……?」

 叶の脳裏に、未来で見た映像がフラッシュバックする。明里ちゃんの着ていたティーシャツ。二箇所の刺し傷。そして、流血。

「あと少しで、分かりそうなのに……」

 でも、分からない。見えてこない。誰に殺されたのか、明里ちゃんはどうやって刺されたのか。

「まったく、しょうがないやつだな」

 郵便屋さんが立ち上がったせいで、叶を覆い隠していた布団は剥ぎ取られた。蛍光灯の光が眩しくて、叶は目を細める。

「ごめん、郵便屋さん。私には分かんない」

「実は君は、未来で一つ証拠品を見逃している」

「そうなの?」

「だから謎が解けないってことはない。ただ、大きなヒントになるはずのものだった」

「そんな大事なものを見逃すなんて、私らしい」

「しょうがないから、少しだけ未来を変えてあげよう」

 叶の視界は、郵便屋さんの手のひらによって覆い隠された。柔らかく、温かい手だった。



 視界が開けた時、叶は暗闇の中で一人きりだった。顔を上げると、ペンキの剥がれ落ちた鳥居が見えた。神社にいるようだった。賽銭箱の裏側に、誰かが寝転んでいる。あれは、明里ちゃんだ。

「わっ」

 足で何かを蹴飛ばしてしまった。足元を見ると、明里ちゃんのトートバッグがあったバッグから色々なものが飛び出ている。小さな財布、単語帳、ナイフ。

「ナイフ?」

 叶は屈んでそのナイフをつまみ上げた。レストランで出てくるようなステーキナイフだった。刃の部分には血がべったりとこびりついている。

「そっか、これで」

 しかし、こんなに薄っぺらいナイフで人の背中を刺せるものなのだろうか。

「ん?」

ナイフを裏返してみると、裏側の刃には血がついていなかった。片面だけ血に汚れたナイフ。考え込んでいる内に意識が遠くなり、やがて静寂が訪れた。



「おかえり」

 郵便屋さんは叶の寝ているベッドに腰掛けて、漫画本を読んでいた。いつもと変わらない自分の部屋は、ほんの少しだけ肌寒く感じた。

「分かった?」

 郵便屋さんは本を閉じ、叶を見た。

「本当の凶器は、あのナイフだった……?」

「あんな薄っぺらいナイフ、致命傷にはならないだろうね」

「じゃあ、何なのあれ」

「おいおい。ヒントを与えてあげたっていうのに、苛つかないでくれる?」

 叶は顔をしかめた。

「だって、分からないし。刃の片面だけ血に汚れたナイフって何?謎が増えたんだけど」

「何でそのナイフは片面だけ汚れてるんだ?そもそも、片面だけ汚れているのか、片面だけきれいなのか、どっちだ?」

「え、分からないよ」

「当てずっぽうでもいい。より可能性が高い方で考えろ」

 獣のような唸り声を上げてから、叶は答えた。

「片面だけ、きれいなのかな。だってナイフの使い方を考えたら、片面だけ汚すのって難しいと思う」

「それで良い。で、どうやってそのナイフは片面だけきれいにしたんだ?」

「布で拭いたんじゃないかな」

「何のために?」

 何のため?それが分かれば苦労しない。

「発想を逆転させるんだ」

「逆転……」


 恐らくナイフは、布か何かで刃の片面だけ拭かれた。ナイフをきれいにするために布で拭かれたのではなく、のだとしたらどうだろうか。その方が自然だ。ナイフが片面だけきれいだったのは、だ。ではその布とは一体何なのか?


「待てよ……」


 最初に立ち返ってみよう。そもそもなぜ、叶は明里ちゃんのティーシャツを受け取ったのだろうか。止血するために、ティーシャツを脱がせたのだとしても、別にそれを一足先に家に持ち帰る必要性があったとは思えない。明里ちゃんの服は、明里ちゃんが持ち帰ればいいではないか。

 そうだ。?全ての始まりは、あのティーシャツだ。あのティーシャツに血の跡が残されていたせいで、明里ちゃんが刺されたのだと思い込んでしまった。

 もしかして。


「最初から、仕組まれていた?」


 そうだ。おばさんが言っていたではないか。


 ――叶ちゃんのところの学校で、退学になった男の子いるんだって?


 全ては、叶のために仕組まれていたことだったのだ。叶を退学にするために、仕組まれた罠だった。

 あの、二箇所の刺し傷。あのティーシャツが、叶を騙していたのだ。だから今まで、気が付かなかったのだろう。

 だとしたら、明里ちゃんを刺した犯人はあの人しかいない。あの人にしか、犯行が可能なタイミングがない。

「そうか、私は……」


 事実を隠すために、殺されたのだ。


「叶、分かった?」

 郵便屋さんの声に、叶は力強く頷いた。


「郵便屋さん。あなた結構優しいね」

「そんなことない。僕はただの死神さ」

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