遺失、追憶

カーディガンの右ポケットに

大事にしまった追憶は

知らないうちにころんと転がり

真っ暗なドブ水に喰われていった


猫の瞳の向う側

街灯に群がる虫が朽ちてゆく

スノードームに閉じ込めた

知らない街に生きている


埃の被った造花を捨てて

滲んだ脳裏の顔も分からぬあの人に

今日も手紙を書き続け

幾多の夜を殺したか


マッチ売りの少女は微笑む

真っ赤な仔猫の首輪が落ちている

破れた皮膚の裂け目から

溢れ出した花弁を舐めた


埃に霞んだ追憶を

ランプに翳して覗いた日

銀河の蠢くその様を

ただそれだけを夢に見る


乙女色の花弁の縁に

雨露がひとつ落ちていた

そこになにもかもを葬って

けれどどうにも救われない


捨てられなかった追憶は

つまらないビー玉になってドブを泳ぐ

落としたことも気づかずに

抜け殻さえも死んでいく

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