3-2
国王陛下との謁見を終え、さきほどの騎士に連れられて
ちなみにお父様は別件でお話があるとかで謁見の間で別れたため、私一人だ。
賢王は
期限内に終えれば
なにせ伝達はヘネシー卿に
ただ、
模型人形だって、製作者のつてはあれど、今は領地にいるのだ。前世と
開発にも量産にも時間を要すことを思うと、期限内に間に合うのかどうか。
褒美の話しかされなかったけれど、間に合わなかった場合はどうなっちゃうんだろう。
か、考えたくない……。
いろんな意味で
案内役という名の見張りをつけられたので、そうもいかないのだけれど。
殿下たちが中庭で何か準備をしているらしいが、どのくらい歩くことになるのやら。
ふと視線をやった初春の庭は、色づいていて目にも楽しい。
ちょいブルー寄りになっていた私の心が
さすが王城の
行きは
「ロータス伯爵令嬢。次はこちらの角を曲がりますので」
後ろからの呼び声に振り返ると、行き過ぎた角の手前で騎士が私を待っている。
「失礼いたしました」
慌てて
きりりとした
「ここより先、花を眺めることは叶いません。しばしご覧になっていかれますか」
「ありがとうございます。十分ですわ」
この方だって
先を
「改めて私からも、お礼を申し上げたい。もうお気づきかと存じますが、私はあの日両殿下と共にいた者です。ファルス殿下をお助けくださり、深く感謝しております」
……こ、これはっ! ご令嬢に跪く騎士の図……!
この所作、私からすれば立派な騎士にしか見えないんだけど、聞けばまだ騎士の一歩手前の、見習いみたいなものなんだとか。
クレイヴ・フォン・ベントレーと名乗ったこの青年は、正しくは従騎士に属するらしい。
たしか、ベントレー
「お立ちになってくださいませ。そうかしこまらずともよいですわ。どうぞリーゼリットと」
令嬢らしく微笑みを浮かべ顔を上げさせると、黒曜石のような
前世で
相変わらず表情はないものの、見れば見るほど
…………乙女ゲームの
「あれ。君は、たしかギルベルトの……」
目の前のクレイヴ様が
そりゃそうだろう。なぜかってそれは。
声の主が、私にとっての
「ご
くるりと体を反転させ、
久々に相まみえるファルス殿下は包帯が取れたようで、ずいぶんと顔色も良く見える。
側にはエレノア嬢もいて、私を認めて目を
「リーゼリット様、お久しぶりです」
「エレノア様、ご
エ、エレノア嬢ー! 陛下の
手を取り再会の喜びを分かち合いたいくらいだが、ご令嬢としてこれもよろしくないのかとぐっとこらえる。
いろいろ話したいことがあるのに、どこかで時間が取れないものか。
「ギルベルトに会いに来たのだね。きっと喜ぶだろう」
にこりと微笑むファルス殿下は白を基調とした礼服を身にまとい、一段とまばゆい王子様オーラを
「本日は陛下にお目通りの機会をいただき登城いたしましたの。今しがたご
「そう、では謁見の間から? それにしてはずいぶん……」
ふと言葉を切った殿下が、私からクレイヴ様へと視線を移す。
その視線を追うと、クレイヴ様は表情を変えることなく
なんだろう、今のやりとり。
「ここまででいいよ、クレイヴ。あとは私が案内を引き
えっ、別にこのままで十分なんですが。
むしろファルス殿下の案内はご
「いえ、お二人のおじゃまになってもいけませんし」
慌ててかぶりを振るが、ファルス殿下はまったく聞き入れる様子を見せない。
「私たちは気にしないよ。そうだね、エレノア嬢」
「はい、殿下」
ふんわりと
しかも、気のせいかな……『私たちは』にアクセントがついていたような。
こんな調子で
エレノア嬢の隣に並ぶと、
ここがおそらく一番の安全地帯だ。間違いない。
「殿下が手配してくださった気球に乗る予定ですの。ご
き、気球?! 国王陛下が話していた準備ってこれのことか。
ひえ……王族のデートともなれば、上空にさえ飛び出してしまえるものなのか。
ふと背後に目を向けると、大きなポットを
布地でぐるぐると巻かれたあれも、何かの材料なのかな。
「あちらは紅茶ですわ。上空は肌寒いとお聞きし、温かい紅茶をご用意いたしましたの」
「まあ、
リーゼリット様もよろしければご賞味ください、とはにかむ姿が本当に愛らしい。
エレノア嬢を
エレノア嬢と他愛ない会話を楽しみ、ほどなくして目的地と思わしき場所に辿り着いた。
さきほど見た花の回廊とは異なり、こちらの庭園では整えられた植木が
その奥の広場で、二十メートルはあろうかという大きな気球が、ゆっくりとその身を起こしていた。五、六人ほどの作業員がロープを張り、気球の布地──
ギルベルト殿下の姿を木製のゴンドラ内に認める。殿下は私に気づくなり驚いた様子を見せ、ゴンドラの
「兄様。どちらでリーゼリット嬢と?」
「花の回廊で行き合ったんだ。父に呼ばれたらしい。案内役のクレイヴと共にここへ向かっていた」
「そうでしたか。……しかし、なぜまた花の回廊に」
「僕もあまりに遠回りをしているものだから、つい
念を押すように言うと、ファルス殿下はエレノア嬢とともに気球の方へと去っていった。
なるほど、あのやりとりはそういう……。
クレイヴ様が案内の
状況から察するに、落ち着いてお礼を言える場所に移動しただけだと思うんだけど。
もしくは、陛下との謁見で私があまりにも憔悴していたから、
「また何かやらかしたのか」
殿下はため息交じりに私を見やる。
ただお礼を言われただけよと答えようとして、ふと言葉に
……まさか、攻略対象かと疑ってまじまじ見ていたのを、見つめ合っていたと思われていやしないよね?
「クレイヴ様に跪いてお礼を言われたものですから、つい
「その場を
呟かれた内容にぎょっとなる。
そりゃそうだわ。
「何か、フォローすべきでしょうか」
「安心しろ。おまえのこの数日のふるまいのせいで、兄は別の方向に疑念を
……そ、それは、安心できることなのか。
「それで、陛下はどんな要件だったんだ」
「……
「……悪かったな。ついていてやれなくて」
なんと
「陛下は、あれを
「それはございません。ありがたくも、陛下の胸の内に秘めてくださることになりましたの。エレノア嬢も陛下にご自身ではないと打ち明けていたそうですが、二人の問題だからと内密にとりはかってくださいました」
そうかと
エレノア嬢に視線を移すと、ファルス殿下と一緒にゴンドラの
「もしやこの件をエレノア嬢が気にしていらっしゃるのではと不安でしたが、ファルス殿下とも仲
「そうか? 俺にはずいぶんと無理をしているように見えたが」
私は今このときしか知らないけれど、そんな日もあるのだろうか。
そしてそれを、ギルベルト殿下は感じ取っていると……。
「よく見ていらっしゃるのね」
「なんだ、気になるのか?」
……少しばかり咎めるような響きが入ってしまったのは認めよう。
殿下のからかうような様子に口を
原作小説の大前提はすでに
そうしたら、私はいったいどうなるのって思うじゃない?
問いには答えず、
殿下は、私が反発すると思っていたのだろう。面食らったような顔を見せた後、視線を泳がせ、
その一連の様子をばっちり見てしまった私は──
「て、照れるくらいなら言わないでよ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます