最終話
ランドは今しかないとリナへとプロポーズを続ける。
「リナリア、いや、リナ俺と結婚しよう」
「ケーキとか作ってまでみんなに助けてもらって失敗だとか笑えないものね……しょうがないわね。この島開発もちゃんとやり遂げたいしキャバクラレストランもせっかく形になっていたから、今はランドにしか頼るしかなさそうね。振出しに戻ってしまったけど、私の野望はまだまだたくさんあるのよ」
「あぁ、知っているよ。お前のためならいくらでも俺は悪者になってやるよ。それにしてもやはり上から目線なのは変わらないんだな。まぁ、なんかそれも慣れるとプレイのような感じで悪くないのだが」
「ランドって……そんな溺愛系の王子だっけ? どちらかというと腹黒だと思ってた」
「俺もなんか自分で甘々なセリフが出ていて違和感しかないんだが、リナに対しては別みたいだ……なんかお前が愛おしくてたまらないんだ」
「ちょっと……やめてよっ。恥ずかしい。そんなこと言っても何も出ないんだからね。それに今はって言ったわよ」
「いや、今だろうが今度だろうがもう結婚の承諾はもらったからあとはどうでもいい」
2人が幸せな雰囲気を醸し出し見つめ合っていると、騎士団長様が涙を流し、震えながら二人の方にやってきた。
「あーリナ嬢が柔らかい笑みをしてらっしゃるなんて……これは世界の破滅を意味しているのかもしれません。でも、まぁ今回の件でなぜ陛下があなたをピルカから出したかったのかということがわかったような気がします」
「えっ、何よ。あんた失礼じゃないのってその憎まれ口をたたく毒舌は覚えている……今思い出したわ。フリーク騎士団長ね」
「え……リナ嬢が私の名を覚えていたなんて……私それだけでも幸せでございます」
「はいはい。そんなことはもういいから。私は父様に嫌われていたんじゃないの」
「違いますよ。魔力が集まる場所には必ず魔物が現れる。魔力が高いピルカ王国にいるのは危険だったのですよ。魔物が現れたら聖女様の莫大な魔力に気づいて襲いにやって来る。だから、魔法が使えない国ばかりチョイスされていたのですね」
「なら、私はお父様に嫌われていたのではなかったのね……よかったぁ。ちょっと嬉しいかも」
「そうですよ。陛下のあだ名を知っていますか? ここはピルカではないので不敬罪にならないから言えますけど『親バカ』ですよ?そして、私は単純な当て馬。陛下の言葉に踊らされただけですね……お幸せに」
「お父様によろしく伝えておいて」
「はい。リナ嬢が聖女様になり、魔物を倒し真実の愛を見つけたとお伝えしますね」
「な……なんで真実の愛ってどうしてわかるのよ」
リナは思わず頬を染め、照れくさそうに騎士団長に尋ねた。
「もう相変わらずツンからのデレは心に来るものがありますね……聖女様が誕生し聖剣が現れるとき、すなわち『愛の証明』と呼ばれているのですよ」
「ちょっと……もう何も言わないでちょうだい」
リナは自分のモヤモヤの正体が好きという気持ちからくるものだということに今さらながら気づいたのだった。全身茹でだこのように体がカッカしている。
思わずランドへと視線を向けてしまう。騎士団長を殺さんばかりに睨みつけていた表情とは打って変わって、今度は満面の笑みで嬉しそうな表情でリナを見つめている。
その視線がやたら熱いことに気づき、リナは余計に恥ずかしくなった。
騎士団長フリークは二人の様子に安心し、騎士たちと共にピルカ王国へと戻り、報告することにした。陛下は「聖女として目覚めたのは仕方がないな……でも、どうせ目覚めるのならこのピルカであってほしかったな。なら離れることもなかったのに……まぁリナが幸せなのが一番だ」と喜んでいたのだった。
ランドの頑張りと職権乱用もあり、島開発は急ピッチに進んだ。
リクは今回の件で記憶をなくしており、自分はトラクスの昔から続く有名貴族のテリーだと思い込んでいる。だから、リナのことも忘れているようだったが、リナはあえて何も言わなかった。
(きっとこれでいい。辛いことを思い出させるのは酷だと思う。初恋は実らないって言うしね)
リナは自分の中に眠っていた初恋にこうして終止符を打ったのだった。
そして、島開発はラミレスがピルカ王国と連絡を取り、魔術師たち数人をこちらに派遣されるように手配してくれたおかげで一気に効率も上がった。
アレクが中心となり魔術師たちに指示を出している。伝説のアレク様にご指南いただけるとあってか魔術師たちは軒並み必要以上に働いてくれた。アレクと出会えて幸運だったとリナはリクに感謝するのだった。
ブルトやゲイトは「紹介手数料が入らない。タダ働きだ」と文句を言いつつ、内心はどんどん島が発展していくのを楽しみにしていた。
トラクスの発展は、自分たちの利益にもつながる。長い目で見れば結果的にはプラスになるのだからと相変わらす商売熱心だったのだ。
※※※
そして、あれから1年経ち、ハッピー島は観光島として世界的に有名になった。トラクスといえば、ハッピー島という風にトラクスの名物島として人気となっている。今行きたい国ナンバーワンがこのハッピー島と呼ばれるぐらいまで、世間的に注目を浴びていた。
見たこともない癒し効果の温泉、食事、アトラクション、宿泊施設、恋する神殿等の観光が大成功した。そして、温水プール付きの宿泊施設は毎日が満室、稼働率120パーセントの大稼ぎしていた。
両替所はトラクスの一部だと言うことで、トラクスの貨幣でやり取りすることになっていたので必要なかった。
メニューの価格もブルト曰く、安すぎると怒られたので言われたとおりに変更することにした。気づけば、ブルトにはアシスタントという名の管理料を7パーセント取られていた。
ゲイトも宿泊施設の掃除係やスタッフの経費があるからと7パーセントを売上から収めさせられるようになってしまった。やはり、あの二人は侮れなかったとリナは残念に思いながらも、今のハッピー島の利益は凄まじいものだったので痛くもかゆくもなかった。
そして、この島の最大限の売りはキャバクラ風レストラン「リル・チジサミ」である。令嬢たちの行儀のよいお作法とルーミーの妹キャラが思いの外、受けたのだ。
気づけばジェシーがナンバーワンだと見込んでいたが、キャラ立ちしていたせいかルーミーがナンバーワンだった。店長はミーシャに任せている。サラも子犬だったアレクを救っていたことを考え、今このレストランで働かせることにした。
リナはと言うと、なんと1年ぶりにランドと会うのだ。ここで結婚披露宴をする予定になっている。これも実は広告塔になる算段なのだが……
~回想~
実はあのあとリナはランドと揉めたのだ。
「なら結婚したのだから帰ってこい」
「いやよ。それにもう結婚しているのだから今のままで問題ないわ」
「いや……俺だってだな、好きな女と離れたくない」
「だから娼婦へ……」
「あーわかったよ。待てばいいんだな。最大限に権力を駆使して早く島開発を終わらせてやる。終わったらいいな?」
「開発終わって軌道に乗ればね。キリンが言ってた通り魔術師を呼びましょう。アレクもいるし魔石も上手く使いましょう」
「あー待つのは辛いが、惚れた弱みだな……」
「待ってくれたら、いいことがあるかもよ?」
「えっなんだ……それは楽しみだな」
「なら3年のところ1年でやってやるよ」
「そんなの無理よ」
「じゃあな。無理するなよ」
「ありがとう、ランドもね」
ランドが再び口づけしようとしたが、さらりとかわされてしまった。
~回想終わり~
というようにそんなことがあり、今日がその約束の日なのである。
リナは披露宴ということもあり化粧ばっちり、フルメイクでドレスアップしている。
チェリとアレクもなんだかんだ仲良くやっている。ジェシーはなぜかリクが気になるようだ。傷つけられたリクを一生懸命看病していた。
ルーミーはなぜかボンが気になりだしているようだ。ハゲハゲと罵って遊んではいるが、まだまだ恋に発展するのは難しそうだ。
ミーシャはというとブルト閣下が来るとどうもミスが増える。きっと年上好みだったのかもしれない。あれだけしっかりしていれば、年上を好むのも無理ないのかもしれない。聞くところによるとブルトも妻に先立たれ寂しい人生を送っていると言うので意外にお似合いなのかもしれない。
ラミレスはというと、私がランドと結婚したのなら一生リナ様に仕えることができると喜び、嬉し泣きをしていた。全く最後まで読めない奴だったというのがラミレスに対しての感想だった。
もちろんリナの両親も今日はこちらにやってくる予定だったのだが、お母様は二人目妊娠中ということもあり、来れなかった。てかあの年で2人目ってどれだけ現役なのだろうか。聞いた娘の私が少し恥ずかしかったけど、妹か弟ができるのは嬉しい。
お父様は来て早々、このキャバクラレストランにドはまりしてしまっていた。裏メニューを何度も利用しジェシーに「ニャンニャン」と言ってくれとか、ルーミーには「お兄ちゃん」って呼んでとか男の本質を見せられたような気がした。
そのような父親の姿など見たくなかったが、浮気するよりまぁしかなと我慢することにした。このことはお母様には絶対言えない秘密である。
そして、ランドたちがやってきた。ランドはリナを見て目を円くして驚いている。
「あの時の……俺の天使」
「ふふふ、騙しててごめんね?」
「マジかよ。俺はずっとリナだけを愛していたってことなのか……」
「ちょっと……恥ずかしいこと言わないでよ」
「いいだろうが。今日から俺たちは本当の夫婦なんだから」
「そうね……お疲れ様だったな。リナ」
「うんっ。ご協力ありがとう、ランド、チュッ」
ランドは突然のリナからの口づけに顔を真っ赤にして今にも倒れそうである。
「リナ……いいことってまさか……」
「今はこれで許してね?」
「おぉ……なんだろう。襲いたいとか抱きたいとか色々あったはずなのに俺当分これだけで満足できるかもしれない」
「ランド―そんなんじゃ子はできぬぞ。ほら、うちの子供と孫が同い年とか最高だろう。今からベッドへ連れこめっ」
「お父様、下品ですわ」
「陛下、俺はリナを大事にしますので、一生傷つけないと誓います」
「当たり前だ。あの拳銃の件は有効だし、何かあればこちらはいつだってお前の国をぶっ潰す」
「お父様ぶっ潰したら、ココには通えませんわね」
「いやっ、それは……困る。そうだな。ランドだけを潰そう。そうしよう」
幸せそうにみんな笑顔になっていたのであった。
~完~
じゃじゃ馬姫は島開発を条件に契約結婚のはずが、なぜこんな結果になってしまったのでしょうか SORA @tira154321
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます