リナの両親の本音

 次の日、朝起きるといつもサラを抱きしめ寝ているはずのキラがいなかった。サラはトイレかと思い寝室から出た。


しかし、15分以上たっても戻ってこない。もしかして家族がいるって言ってたから帰ったのかもしれないとサラは不安になり船着き場まで急いで走っていった。


すると、海に浮かんでいるキラの姿が見えた。やっぱり、所詮キラの浮気性なのは変わらないのかもしれない。沈んだ気持ちで歩いていると、びしょ濡れのワンコが海沿いに横たわっていた。


「何この子、かわいいわね」


ブルブルと震えているが、まだ浅いが呼吸はあるようだった。急いで自分の家へと向かい、治療することにした。


サラは医者の助手として働いていたこともあり、看護師として知識も少しあった。それが犬に通用するかはわからないがやれることはやってみようとタオルで乾かし、暖炉で温める。


震えは止まったようだが、体が冷たすぎる。このままだと低温症で死んでしまう。なぜだかわからないが、この犬を助けるのが責任のように感じた。


家にあるだけの毛布を巻き付け、体をこすり続ける。毎日キラのことを思い出さないようにするにはちょうど夢中になれることがあって救われた。一生懸命看病した結果、その犬は目を覚めたのだった。


「あーよかった」


サラは安心したが、今度はその疲れからかサラが倒れてしまった。


「おいっ、大丈夫か」


その犬がしゃっべってることにも気付かなかった。



※※※


 キラは、朝早く起き朝一番に船に乗った。元々器用なタイプだったので、初めてだったが何の問題もなく出航することに成功した。問題は行き先である。


トラクス国はなんとなく港の雰囲気で分かるがピルカ王国など行ったことがない。まぁどちらにせよ、向かうしかないな。必死に船を漕いだので、疲労がたまる。


珍しく朝早く起きたこともあり、船の中で眠ってしまっていた。


「すみません、あの……大丈夫ですか」


酒焼けしているようなかすれた声が耳に響く。


「うっー。よく寝た。ここはどこだ?」


キラはその酒臭い息をしている男に尋ねた。


「あーここですか。ピルカ王国ですよ。そんなとこで眠っていては陛下に殺されてしまいますよ?」

「あぁ、忠告ありがとう。ところで、その陛下に会いたいのだがどこにいるんだ?」

「これはこれは、城関係者の方でしたか。それは失礼しました。長旅ご苦労様です」


急に態度を改める男。それほどまでにこの国は王族が恐ろしいのだろうか。

しかし、そのような敬う態度を取られて嬉しくないはずもない。少し声を貴族風に張って、偉そうに話してみる。


「で、城はどこなんだ?」

「あーあの大きな白い建物がそうですよ」

「ありがとう」

「いえ……お気をつけて」

「お前たちは、我々のような他国の貴族にあった場合どうするのか知らないのか?」

「えっ……申し訳ございません。下民ゆえ、存じ上げておりません。おっしゃる通りにさせていただきたく存じます」

「あぁそうか」


キラはこれまた騙しやすい男がかかったと喜んでいた。


「他国の貴族に会えば銀貨1枚を渡すのが礼儀だ。渡さなければ処刑されるぞ?」


ちょっと語彙を強めて脅せば、はいこの通り。銀貨一枚キラの手には握りしめられていた。顔面蒼白下男は立ち去っていった。


「ははは、これで当分生活には困らないな。よしっ、まずは衣装をどうにかしなくてはいけないな」


 キラは衣装屋で服を購入し一式着替え、腹ごなしに食事も取った。

気が付けば日が落ち夕方になっていた。歩いて行くには遠いようだったので、残りの金で行けるところまで馬車を利用することにした。


本当はあと10キロほど距離があったところで下ろされそうになったが、キラは巧みな話術で騙す。王族の知り合いで城まで送ってくれれば、王族に口利きしてやると言ったのだ。従者はそれを信じ城まで連れて来たのだった。


 キラはこんなにも騙しやすく、自分に都合のいいように進むこの町を気に入っていた。ここで女でも抱ければ最高なんだが……せっかくだから、姫さんでも落とすかな。


そんな浮き浮きした気持ちで城の門を叩いたのだった。


 城門が開いたと思えば、いきなり騎士たちがキラを取り囲み縄でグルグル巻きにした。そのまま家畜を引っ張るかのように無理やり乱暴に縄を引っ張り、城の中へと引きずりこまれた。


王族たちが、キラを睨んでいる。


「お前は誰だ?」


「陛下、この度は重大な事実をお知らせしたくトラクスより参りました。キラと申します」


「あのような国からなぜ?」


「陛下の大事なご令嬢リナリア様ですが、婚約破棄されて荒んだ島へと追い払われています」


「なんだとっ!!」


陛下は王座から立ち上がり興奮して怒っているようだ。そのご立腹な様子を一目見たいという好奇心が遅い、キラは顔を上げてしまった。その瞬間どこからか鉄拳が飛んできた。


「いたっ」


口の中を切ったのか、血の味がする。


「何するのですか……」


「キラと言ったな? お前は偽りを申している。もしそのようなことがあればこちらに連絡が入るようになっているのだ。我々には密偵者を雇っている」


「いや、でもこのことはシークレットになっているので誰も知らない情報です」


「バカ言うんでない。しつこいぞ。今すぐ我の魔法で消失させられたくなかったら帰れっ」


「ひょっえー」


キラはあまりの恐怖に逃げるように去っていた。それを確認した陛下はため息をついた。


「リクはいったい何をしているのだ」


ボソッと誰にも聞こえない程度に出た小言だったが、配下の者たちには聞こえていたようだ。しかし、彼らは知っている。陛下は娘が大好きな親バカなのだと……口や態度ではひどいことを言っているが、すべてはリナの幸せのためだと言うことを知っている。


「陛下、恐れながら一言よろしいでしょうか?」


騎士団長のフリークが手を上げた。


「なんだ、言ってみろ」


「リクを待っていても遅いので、私が迎えに行ってはいけないでしょうか?」


「はぁ? お前まさかっ……」


「実はリナリア嬢をお慕いしておりました」


「ならなぜ今頃言うのだ」


「いや、陛下が国の利益になると国交ばかりの婚約ばかりに目を向けられておられたので、俺では役不足かと……」


「はぁ、そんなことないが……だからお前は公爵令嬢カリナとの縁談を断ったのか?」


「あ……はい。なんだかリナリア嬢が結婚していないと知ったらなんだか諦めれなくて……」


「結婚したとあれほど盛大なパーティーをしたのに、なぜそれを知っている?」


「あの……陛下って結構バレバレですよ?」


陛下は思わず下を向いた。その姿は魔王と呼ばれた恐怖の表情ではなく、叱られた子犬のようにしょんぼりしていた。そのしょんぼりした頭を優しく撫でるお妃様は本日も麗しい。


「あなた、もうそんな無理しなくていいのですよ。不出来な娘程可愛いものね。もうなるようにしかならないのだし、呼び戻しましょう。万が一があっても、その時は全員でリナリアを守ればいいわよ」


「いや……でもだな」


「はいはい、過保護なのもいいけどあの子の運命を信じましょう。フリーク頼めるわね。ただし、リナリアに気持ちを告げるのは無しよ」


「あっ、はい。御意」


フリークは騎士たち10人を連れて、キラの後をつけることにした。


陛下は娘リナリアを心配していた。


「辛い思いをしていなければいいが……あの国なら自由に過ごせるかと思ったが間違いだったのだろうか」


「大丈夫よ。そのためにリクを送り出したのでしょ?」


「でも、アイツはリナよりも目先の利益に囚われるところがあるから不安なんだ」


「まぁね、やっぱり庶民だから過度な期待はしてはいけないんじゃなくて?」


「そうだな」


2人はそのまま王室へと戻ることにした。

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