ランドVSボン
リナたちの家に、ボンや夫妻たちがこんな夜中にやってきた。
「おいっ、なにやら船が着いたとかで気になってきてみたが、殿下がどうして?」
「あのですね……」
ミーシャが答えようとしたが、それをランドが手を上げ制止する。
「君かな? リナリアにお熱を上げている奴は?」
「はぁ? いきなり夜中に船でやって来たと思ったが、まさかそんな理由でか?」
「あぁ、俺のリナリアの様子がおかしかったもので気になってきてみれば浮気していることが発覚したからな。それで喧嘩してこのざまだよ」
「ははは。殿下もバカですね。リナ様は俺のことなんかなんとも思ってやしない。それにリナ様は最近疲れているのにこんな夜中に訪れるような常識外れな行動をするから嫌われるのではないですか?」
「おいっ、殿下に失礼だぞ。言いすぎだ」
ラクト夫妻たちがボンを宥めるが、ボンは止まらない。
「どいつもこいつもリナ様の苦労を知らない。1人でわけもわからない島に来たというのに強気な態度で皆を動かしている。この島の者、そして、ここにやって来た令嬢たちのことを考えていないように見せかけてはいるが、実は色々と考えて行動しているんだよ。そりゃあ疲れるだろうに。それなのにみんな自分のことばかり考えて。相手の気持ちすら考えない。いい加減にしろよ」
ミーシャはボンの言葉が胸に刺さる。自身もリナの涙を見るまでこんなにも背負わせていたのかということに気づいていなかった。どこかお客様とまではいかないが、従えばいいというくらいの軽い気持ちだったのだ。
「お前にリナリアの何がわかるんだ。俺の権限でお前の首をはねることだってできるんだ」
ランドは怒りのあまり立ち上がり、ボンに駆け寄ろうとした。
「おお? やるのか。貴族程度の奴に負けるようなやわな鍛え方などしておらん。ほらっ、こいよっ」
ボンが手招きをし、もはや一触即発だった。そのとき、ラミレスがランドの頭を叩いた。
「殿下、わがままもいい加減にしてください。そもそもあなたが婚約破棄したいと言わなければこんなようなことにはなっていないでしょう?」
「「えぇ―――――!!!」」
全員の驚く声がうるさく家中に響き渡る。こんなにも騒々しければ、さすがにリナだって起きないはずもない。寝ぼけ眼でリナが、リビングへと下りてくる。
「うるさいわねっ。何事よ」
寝起きのリナは男性陣には色香が強すぎたようだ。透き通ったドレスに釘付けになる。ミーシャは慌てて自身が来ていたカーデガンを羽織らせた。
「リナ様、寒いのでこちらを……」
「えっ? うん。ありがとう」
寝起きだから子供のように素直でかわいいというのになにか気だるけな雰囲気に周囲は驚き目をパチクリとしていた。
いつもとは違うギャップ萌えにボンは鼻血を出し、ラミレスは眼鏡を落とし割ってしまい、ランドは気絶してしまった。
夫妻たちはその様子に呆れながらも、自分たちが色眼鏡でリナを見ていたことに気が付き、等身大のリナはこんなにも子供っぽいのかもしれないと考えを改めた。
(この子、もしかして本当はすごい素直で精神年齢は幼いのかもしれない。しっかりしていたから勘違いしていただけなのかもしれないけど……でも、この艶っぽさはさすがに犯罪者が現れてもおかしくないほど危険だわ)
夫妻たちはリナへの印象が変わったのだった。
「で、どうしたの?」
「リナ様が……婚約破棄されていたということを聞いて……」
ボンはなぜか鼻を抑えるも、嬉しそうに尋ねている。
「あーバレっちゃったか。でも、私たちの王国には秘密にしてね?」
「えっ……はいわかりましたが、ならリナ様はまだ誰とも結婚していない独身なのですね?」
ニヤリと悪い笑みを見せたボンに、苦笑いしながら答えるリナ。
「そうだけど、なんでそんなに嬉しそうなのよ。失礼しちゃうわね」
「いや……でも、殿下はならなぜここに?」
「知らないわよ。てか本当にもう今何時だ思っているのよ。明日は私なしでミーシャが中心となってレストランの営業練習して。開店時刻にお客として私が行くわ。わかったなら、もう寝なさい」
「はい」
ミーシャとチェリは自分の部屋へと向かった。
「あーもう夫妻たちも遅いし、来客用の一部屋で寝てくれる?ボンとランドはもうこのリビングでいいわね?」
「えぇー。コイツと一緒とか嫌なんだが」
「わがまま言わない」
「はい」
「なら私は部屋に戻るわね」
「ちょっと……リナ様私はどうしたら?」
「キリンいたのね。そうね。あなたは殿下と一緒じゃないと駄目じゃない。主従カップリングなんだから」
「はぁ……意味が分かりませんが、ココで休ませていただきます。それにしてもリナ様は公になってしまった今テリーと元に戻るおつもりですか?」
「どうしてここでテリーが出てくるのよ。テリーって誰だっけ?」
「いや……忘れているならいいんです。失礼しました。おやすみなさい」
ラミレスはごまかして、眠ろうとしたがリナがそれを許さなかった。目の前にはリナの顔があった。
いつもの気の強そうなリナの様子にラミレスは喜んでいた。内心このまま罵ってくれとさえ思っていた。
「キリン、どういうことか説明しなさい」
「あっ、はい。リナ様の国にいたリクという者だそうです」
下僕であるラミレスは何の躊躇いもなく、あっさりとテリーの正体を告白してしまう。
「ちょっと待って……」
今までに見たこともないような動揺を見せるリナに、ラミレスの方がびっくりしてしまう。やはり、2人はそのような関係だったのだろうか。問いただそうとしたが、リナはそれ以上何も言わずにおぼつかない足取りで2階へと上がってしまった。
「リナ様、どうしたのだろう……」
ラミレスは心配しつつ、いつの間にか眠ってしまっていた。そして、長い夜はやっと終わった。
かと思いきや、騒ぎを聞きつけたキラがずっと隠れて話を聞いていたのである。朝一番に船でピルカ王国へと旅立つことを決意したのだった。
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