ランド、突然のキス

 ランドは殿下らしからぬ大声で叫んだ。


「お……アレ……ク」


ランドの叫び声むなしく、アレクはオクトに飲み込まれたまま海の底へと沈んでいってしまった。


「嘘だろう……」


「殿下、アレクがあんな簡単に死ぬはずありません。ずっと眠っていたとはいえ王族を脅かす魔術師ですよ。それに陛下のご病気も治していただいてもいないのに死んでしまっては困ります」


「ラミレス、何かお前今重大な事実を口にしなかったか?」


ラミレスはアレクが死んだかと思い内心焦っていたために、秘密事項だったアレクの秘密について漏らしてしまっていたようだ。


「いえ……殿下アレクのことが心配で耳がおかしかったのではないでしょうか……あっ、島が見えてきましたよ?」


「おいっ、アレクがあの魔術師とは本当なのか。おい、答えろよっ」


「あーうるさいですね。そうですよ。そんなことより、テリー殿の正体を教えてくださいよ。あの人だけはどれだけ調べても情報が全くないので」


「あーそうだな。もういいだろう。テリーはリナリアの国で唯一心を許していたと言われている庶民のリクだ」


「そうですか。どおりで色々と詳しいわけですね。ならリナ様の国のことを知っていたのもすべて納得できます。でもなぜその庶民がこの国の貴族に?」


「あーあいつ立ち回りが上手くて、ここに来るまでに色んな貴族の下っ端で働いていたらしい。それである貴族がリクを養子に迎えて後を継がせたいと言い出してだな。それでそうなったんだ」


「では、あのテリーはリナ様と殿下の婚約を邪魔するために?」


「いや?そうじゃないらしい。テリーはリナリアが好きだったようだが、庶民だから結婚など不可能だ。でも、ピルカ王国の親父はリナリアに対して冷たかったそうで今回の相手が60代の爺だという噂もあったらしい。だから事実かどうか自分の目で確かめにきたんだと」


「何やらこじらせまくってますね」


「あぁそうだな。ってもう着いたのか?早いな。あそこがやけに騒がしいがやはり何かあったのだろうか」


ランドは必死に走っていった。ラミレスはランドのその様子に驚く。


あんなにも「走るなど無様なことはしない、体力の無駄遣いだ」とか言っていた殿下が今は一心不乱に全速力で走っているのだ。恋っておもしろいと呟いていたのだった。


 ランドがその場に行くと、1人の女性が泣き崩れていた。その女性を囲んでいる女性がランドに気づいた。


「殿下がどうしてここに?」


その言葉に反応してか、うずくまっている女性が顔を上げた。その顔を見て恐る恐るランドは名前を呼んだ。


「え……リナリアなのか?」


子供ように泣きじゃくっている姿など想像もつかないあのリナリアが泣いているなんて信じられなかった。まさかとは思ったが本当にどうしたんだろうか。


ランドの声に気づいたリナリアは逃げるようにその場から走り去り自分の部屋へと駆け込んでいった。


リナは部屋に入り、混乱していた。


「なぜ、ランドがここにるのだろうか。さっき魔道具で魔石が欲しいと言ったはずだけど、こんなにも早く届けることができるはずもない。なんで……?」


リナは泣いていたことを見られたのも恥ずかしかったが、ランドの登場に混乱していた。


トントン


扉がノックされている。


「おい、リナリア大丈夫か……さっきの通信でもおかしかったがどうした。開けてくれ。話そう」


「大丈夫です。ご心配をおかけし申し訳ありませんが、今夜は疲れておりますゆえ、お帰り下さい」


これ以上リナとやり合ってもきっとこの扉は開けてくれないと考えたランドは、さっき会った出来事を話してこちらに関心を示さすことにした。


「いや、帰れない。アレクがオクトに飲み込まれたんだ」


「えっ!!」


まさかのランドの言葉に驚き、リナは急いで扉の部屋を開けた。


「どういうことですか。アレクがなぜ?」


「あーなぜかはわからぬがこちらに来ていたようで、俺たちを救って……」


と言いつつも、出てきたリナリアは目が真っ赤で腫れている。今すぐ抱きしめてあげたいと良からぬ思いがランドの頭を駆け巡り、手を伸ばしたそのとき、リナが切り替えたようにあっけらかんと答えた。


「そうですか……でも、きっとアレクのことですからフラッと帰って来るんじゃないですか?」


「おいっ、お前はそんな人でなしだったのか……冷たすぎやしないか」


「アレクほどの魔力持ちがいくらオクトが強いとはいえ負けるわけありませんよ」


「その自信はどっからくるんだ……」


「そんなの決まってます。女の勘ですよ」


リナは笑いながら答えていた。本当はランドと話したことで少し元気が出ていたのはリナだけの秘密である。


「お前そんな風にふわっと笑うこともあるんだな。かわいいっ」


「ちょっと……殿下? まさかまた私を抱くつもりできたんですか。懲りない変態ですね。だから、娼婦に行ってください」


「ちがっ……お前を心配してだな……」


「はいはい。大丈夫ですよ。でも心配してくれたってことが嬉しいよっ……ありがとう」


照れくさそうに下を向きながら顔を赤めたリナを見たランドはなぜか心が鷲掴みされたように苦しくなった。


「う……っ、胸が痛いっ」


「えっ、どうしたのですか。大丈夫?」


とランドに駆け寄ってきたリナの上目遣いとあまりの可愛さに思わずランドは口づけしてしまった。


ちゅっ


「何するのよ!! この変態王子」


パチンと平手打ちの音が響き渡り、ランドは頬を真っ赤に腫らせたのだった。


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