魔物の出現、そして、動き出した恋心

 アレクは本来の姿に戻り、魔石なしでテリーの家まで転移した。


リビングでのんびりくつろぎ、お茶を飲んでいるテリーに思わずイラ立ち、胸ぐらを掴む。


「お主はいったい何をしているのだ!!」


「えっ……なぜアレクがここに? てか苦しいから離せよ」


「お主は……リナ嬢が心配ではないのか……?」


アレクは落ち着きを取り戻し、テリーの胸ぐらを離した。


「ゲホッ。リナは心配だよ。でも俺にはどうしようもできないじゃないか……」


「残ると言う選択肢もできただろうに。あの若造のように」


「まぁ、そうだけど……リナは気付いていなかったし、俺もまだそんなに準備できていないから」


「はぁ」


アレクはテリーの頼りなさにがっかりした。


「で、なぜアレクがここに?」


「あーリナ嬢が体調が芳しくないのだが、魔石を欲しいとのことだ。お前にリナ嬢の無理をやめさせてほしくて急遽こちらにやって来たのだ」


「そっか……でも、リナは今魔石を欲しがってるんだよね? なら俺今から魔石取って来るわ」


そういうと馬に乗り走らせて行ってしまった。そんなテリーの様子にがっくりとうなだれ、アレクは呆れてしまう。


「テリーはリナ嬢にふさわしくない。体調が悪いと言っているのに一言も心配した素振りを見せなかった」


やはり、あのボンという男がいいのか……それとも……あの王子か……


アレクは会いたくはないが、リナへの気持ちがあるのかどうかの最終確認をするためにも城へと向かった。


すると、ブルクと鉢合わせしてしまう。アレクの顔を見たブルクはすかさずアレクの腕を縛り上げた。


「おいっ、貴様がなぜここにいる?」


「テリー様の命で帰って参りました」


「嘘をつけ。テリー殿も驚いていて船内を探し回っていたのだぞ。やはり、お前は怪しい」


ブルクはアレクを引っ張り、そのまま城へとアレクを連行したのだった。


城内は何やら慌ただしく侍女、メイド、騎士たちが走り回っていた。ブルクが侍女の一人を掴まえ確認する。


「どうした? 何事だ……」


「あの……その……」


なかなか口を割ろうとしない侍女にアレクは自白の魔法をかけた。一瞬侍女がボーとしたかと思えば、いきなり何かを思い出したかのように話し始めた。


「実は殿下が1時間ほど前から行方不明なのです。なので全員で城内を捜索しているのです」


「なんだと……?どういうことなのだ。まさかお前が誘拐したのか?」


ブルクはアレクを睨みつけた。


「いえいえ。そんなことしておりません。神に誓って」


「嘘くさいが、その驚いた目を見る限り偽りではなさそうだ。とりあえず、私は貴族たちに水面下で探すように手配する。お前もテリー殿にすぐ捜索に参加するように伝えておけ」


「はい」


ブルクが急いで廊下を歩きだしたのを確認し、アレクは反対方向へと向かい殿下の部屋へと向かったのだった。


ランドの部屋に入るのは困難かと思っていたが、意外にもこの騒ぎのおかげですんなりと部屋への入室ができた。


アレクは念のため、ここで気づかれてしまっては本当の誘拐犯になると思い、透視化し自分の姿が見えないようにした。


そして目をつぶり、部屋にあるランドの気を集め始め、気配をたどる。


目の奥に移った状況は、とんでもないものだった。どうしてあんなところに騎士たちも連れずにたった二人でいるのだろうか……危ない。


アレクは急いでランドとラミレスの元へと駆けつけようとしたが、今は転移を使えることを思い出し、船着き場まで転移した。


※※※


 船着き場では、船の漕ぎ方すらわからないラミレスとランドが試行錯誤して船を出航させようとしていた。


「おい、ラミレス、この縄は外していいのか?」


「殿下、その縄は我々が乗ってから最後に離さないといけないのではないですか? それにしてもこのような時間にどうしたのですか」


「あ……リナリアが心配なんだよ。電話の声がいつもより沈んでいたのだ」


「えっ、リナ様がですが? 珍しいですね。何かあったのでしょうか。それは何としても出航しなくてはなりませんね。ラミレス、この命に代えてもこの船をなんとかして出航させてみせますよ」


「ラミレスは本当に変わったな。いったい誰に仕えているか最近分からぬ」


「仕えているのは殿下ですが、尊敬しているのはリナ様ですよ」


「あーなんか聞くんじゃなかったわ。イラつくな」


「イラつくと言うことはもしや、殿下……?」


「はぁ? なんだ? どういうことだ?」


ラミレスはそれ以上何も言わなかったが、ランドの変化に違和感を覚えたのだった。


そこにアレクが船の先端に立ち、いきなり現れた。


「あぁ、誰かと思ったらアレクなのか。どうしてここに? まぁ今そんなことどうでもいい。リナリアは異常ないか?」


「ランド王子、もしやと思いますがリナ嬢が心配でこのような時間から出航しようとお考えなのですか?」


「あぁ? それ以外何があるんだよ。あのじゃじゃ馬姫は口は悪くても喧嘩早いのが取り柄のようなものだろう? そのリナリアの様子が泣いているとかおかしすぎる。何か変なものを食べたとか病気しか考えられないだろう」


「だからといって、今は魔物のオクトが出現する時間だから危険だ。明日にしろ」


アレクはここからあの島へはなぜか転移できなかった。すでにこの地域一帯は魔物が魔力の制御をしているのかもしれない。


しかし、ランドは諦めきれなかった。


「無理だ。今もこうしてお前と話している間にもリナリアが苦しんでいたらどうするんだ。なぜだかわからないが心配なんだ」


「それって……」


アレクがその意味の正体を答えようとした瞬間、大きな赤いぶつぶつとした足が8本ある赤いオクトが飛び出してきた。船はその瞬間に縄が外れ、沖へと流されてしまった。


オクトはその船を飲み込むために必死で追いかけようとした。それを見たアレクが魔法でオクトの目に光を当てる。


しかし、それは逆効果だったようで魔物のオクトにとっては栄養を貰ったような状態になり、さらに肥大していた。


「おいっ、アレクお前の魔法が大きくしてるようだぞ。何をしているんだ」


「心配しないでください。長年眠っていたせいで昔の魔物とちょいと性能が変わっていたみたいですね。ちょっと体の探索してみます……ってこいつ3つも心臓あるのかよ。これはやばいな」


アレクの焦ったような声はランドたちに聞こえてしまっていた。


「おい、大丈夫じゃなさそうだぞ」

「はいはい。ランド王子は心配なリナ嬢の元へでも急いでください。船にちゃんとつかまってくださいね。アップ」


とアレクが呟くと船はいきなりスピードを上げ進みだした。


「アレクっ。おいっ」


「あのもしかしてですけど、死んじゃったら後悔しそうなんで伝言お願いしてもいいですか」


「あぁ、なんだ。早く言わないと聞こえないと思うぞ」


「ならチェリ嬢に心を動かされていますとお伝え願いますか?」


「こんな状態で告白とかお前も余裕だな。まぁいい。伝えておくが死ぬなよ」


「もちろんですよ。アレクは決して死にません」


とアレクは魔力を最大限に引き上げようと集中し始めた頃、大きなオクトに丸呑みされてしまったのだった。

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