車の誕生

 リナは少ししか食べていなかったが、疲れていたようであまり食欲もなかった。風が冷たくて風にあたっていると、いつの間にか意識を飛ばしていた。


ボンが小声で言う。


「リナ様が相当お疲れで眠ってしまったようだ。男の俺ですら足が棒になったかのようにじんじんと痛むんだ。きっと足も痛いに違いない。どうにかならんのか」


「お主も優しい奴だの。気に入った。魔石を使えば治癒できるぞ」


「そうか、なら頼む。寝たから回復したと思わせればいいだろうし」


「そうだな。お主はいいのか?」


「あぁ? 貴重な魔石なんだろう? そんなのは俺みたいに庶民に使うものではない」


「そうか」


 アレクは白の魔石を使い、優しいボンに感心しながらリナに疲労回復させたのだった。光に包まれて温かくなった体に違和感を感じたリナが背伸びして起きた。


すでに光は消えていたから、リナは気付かなかった。


「ごめん……私寝ちゃってたみたい。でも、寝たから元気になったわ」


「そうですか。ならよかったですね。では行きましょうか」


「ん? ちょっと待って‼」


いきなり大声を出すリナ。さすがのアレクも驚きリナに尋ねた。


「おい、リナ嬢どうした?」


「白の魔石が1つ足らないのよ。どっかに落としたのかも。ちょっと戻ってくる」


「おいっ……リナ嬢はバカではなくしっかり者だったようだぞ。どうするのじゃ?」


アレクは慌てたようにボンに尋ねる。ボンは頭を掻きながらリナに理由を述べることにした。


「あぁ……仕方ない。白状するしかねぇな。リナ様すみません。寝ている間に俺が足が痛くてアレクに頼んで治してもらいました」


「えぇ? そうだったの? なら最初から言ってよ。やっぱりね。今日はボンがおかしなことばかり言ってた原因はそれね。体調不良だったのね。治ったならよかったわ」


「はい。勝手に使いすみません。ありがとうございます」


アレクはボンの発言に思わず、肘でつついた。ボンはそれを押し返してアレクを睨みつけた。


「何二人は喧嘩しないでよ。疲れていたらいいことないわよね? 仕方ない。車作るわよ」


「車ですか……?」


「あぁ、もう説明も面倒だからちょっと待って。アレク、黒、白、赤、黄色の魔石を各3個ずつちょうだい」


「今度は何を作るつもりだ? それほどの量を使うということは大きいものだろう?」


「はいはい。魔法陣書くからどいて」


リナは魔法陣を書き、真ん中には車の絵を描いた。タクシーをイメージしたのだがもはや幼稚園児並みの落書きとも言えないようなレベルの絵である。


なぜかタイヤですらでこぼこしてしまっている。もしかすると、今どきの幼稚園児のほうがもっと上手いのかもしれない。自分の絵のセンスのなさを恨んだ。


リナはその絵の上に魔石を置いた。ボボボっと大きな音が鳴ったと思ったらタクシーではなく、なぜかオフロードカーが出てきた。


「待ってよ。やっぱりタイヤがでこぼこしたし、形もバランスもおかしくなったなとは思ったけど……まさかオフロードカーなんて。書こうと思っても絶対書けないわよ。でも、結果的にはラッキーね。ここは土地柄オフロードカーの方が向いているもの」


リナは1人で納得していたが、2人はデカい鉄の塊に驚いていた。


「リナ様……これはなんですか……」


「リナ嬢、これは見たこともないぞ。すごいぞ!!」


アレクは子供のように目をキラキラさせ興奮していた。リナは運転席に乗り、2人に言う。


「ほら乗って。行くわよ。これだと25分くらいで家まで帰れるわよ」


「これに乗るのですか? ってしかも25分だって。なんだよ。こんなすげぇもんがあるのか」


ボンも25分という言葉に感動してすぐさま飛び乗りリナの横に座った。


「ちゃんとシートベルトしてよ。私免許ないのよね。でも異世界だから免許要らないだろうし問題ないわよね」


「え……なにかよくはわからんけど、早ければいい。とにかく疲れたからこれ以上歩きたくないから助かる」


「あら、回復したんじゃなかったの?」


ボンは思わず自分の発言にシマッタと困っていると、アレクも後部座席に乗った。


「この椅子はなんだ? ふかふかで気持ちいいな」


「そうでしょ? さぁ出発しましょう」


アレクは鏡越しにボンへと片目をつぶり合図した。ボンはアレクに助けられたのだった。


あっという間に家までたどり着いたのだが、リナの運転はひどく二人とも車酔いになったようで、青白い顔で家に着くとすぐさまトイレに駆け込んだ。


ボンは間に合わなかったようでその場で寝転んだ。


すごい音が鳴り響いていたので、ミーシャたちは何事かと思い、家から飛び出してきていた。


大きな動く馬車だと興奮して騒ぎ、ルーミーは乗りたがるし、ちょっとしたモーターショーのように大変だった。


けれども、リナは少しずつ島の開発が進んでいることが嬉しかった。

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