制服

 いつも温和なミーシャがサラと口論している声が聞こえたので、リナは途中で降りるのをやめて傍観することにした。


「サラ、ちゃんと自分の当番を守って。今日は掃除当番でしょ」


「……そんなのどうだっていいでしょっ」


「みんなちゃんと当番制でやっているのだから、1人だけそんなわがまま許されると思うの? 恥を知りなさい」


ミーシャが、サラを叱っていた。やはり、年上だからみんなが嫌がるようなことも率先して言うのだろうか。サラが腹を立てたのかミーシャに手を上げようとした。


リナは階段から飛び降りて、そのままサラを叩いた。


パチン


「いい加減にしなさい。何小さい子みたいなこと言ってるの?」


「だって……」


「だってじゃないわよ。昨日だってそうよ。みんながレストランの片付けしていたときあなたはキラだっけ?何していていたの。挙句の果てにキスマークまでバッチリつけて。若くないんだからいい加減しなさいよ」


「キラとは久々だったからついっ熱くなっちゃって……」


「何が熱くなったなのよ。盛りのついたサルでもないんだからやることはしっかりやりなさい。今言っている『やる』は当番のことよ。勘違いしないでよ」


「いやよ……もう私はキラと仲良く過ごしたいの。邪魔しないで」


「のぼせ上がるのも大概にしてくれる? キラは既婚者よ? 不倫したんでしょ? 何回同じ過ちを繰り返せば気が済むのよ。あのね。不倫して楽しいのは当の本人だけで、された方の妻とかはめっちゃ傷つくんだから。そんなこともわからないなら、もう結構よ。ここを出て行きなさい。あなたたちは二人仲良く暮らせばいいわ。あのブタ小屋か何かで。ただし、ここにもレストランにも二度と出入りしないでちょうだい」


リナはブチ切れた。サラは泣いていたが、そのまま部屋に戻り簡単に荷物をまとめたのか大きなカバンを持って出ていたのだった。


「リナ様、よかったのですか?」


「ミーシャいつもごめんね。年上だからって嫌な役割ばかりさせて……」


「いえ……」


「ところでリナ様は……いえ何にもありません」


ミーシャは言いにくそうに下を向いた。他の者たちもなぜか下を向きリナに同情の目を向けていた。


(リナ様がここに来た理由がわかったわ。ランド殿下に不倫されたのね。だからあんなにも怒って、妻側の辛さを説いていたのだわ……)


周囲の者たちがそのように勘違いしているとは、リナ自身は思ってもいなかったのである。


 リナはその視線をはねのけるかのように話を始める。


「みんな聞いて。さっき魔道具で制服を作ったから一度着てみてほしいの。もし苦しいとかブカブカとかがあれば修正するから、今から着替えてもらっていいかな?」


「えっ……はい」


令嬢たちは驚きながらも、みんな「リナ様は今はお仕事することで嫌なことを忘れているのかもしれない」と思い、返事をしていたのだった。


 リナは自分の部屋に制服を取りに行き、制服を見てアレクのことを思い浮かべる。


(アレクが運んでくれたのだろうか。チェリが変な勘違いをしてくれないといいのだけど……)


それにしても、私はいつのまにナイトドレスに着替えていたのだろうか。それにこのドレス私のじゃないんだけど、作ったのかしら?


でもまさかアレクが着替えさせるわけないなと思いながらも、お尻ぺんぺんされたことを思い出すとあり得るかもしれないと考え直す。


ますますチェリとどういう風に顔を合わせていいのかわからない。まぁ、考えても仕方がないわね。


リナは気持ちを切り替え、下に降りていきまずはジェシーに制服を手渡した。


「はい、どうぞ」


制服を見たジェシーが顔を輝かせながら喜んだ。


「これすごい可愛いらしいですね。嬉しいです。けど、スカートの丈が短すぎやしませんか?」


「あぁ、それね。いいのよ。それくらいで。ジェシー可愛いから似合うと思うわよ。早く見せて。ついでルーミーも呼んできて。イラスト書いてると思うから」


「はーい」


嬉しそうにジェシーは上がっていた。ミーシャも渡すとすぐに自室へ向かい気づけばチェリと2人きりだった。


「あのね……チェリ。勘違いしないで聞いてほしいん……」


「ありがとうございますっ」


いきなりチェリがリナに抱き着いた。


「えっ、なに? どういうこと?」


「リナ様には申し訳ないのですが、リナ様の部屋に運んだ時に、初めてアレク様とお話しすることができたのです」


「あら、そう? ならいいのだけど……ところでこのドレスだけど……」


「あーそれならアレク様が帰られた後で、汗が出ていたようなので私が着替えさせました。嫌でしたか?」


「いや、ならいいのよ。ありがとう。とても楽だったわ。この服はチェリのかしら?」


「はい……」


「チェリは巨乳だからいいわね。私だと大きすぎてスカスカよ。たぶんドレスもキツイと思うから言ってね」


「ありがとうございます」


チェリはもうウキウキした様子で上がっていった。


(恋っていいな。うらやましい。私も幸せになりたかったな)


リナは少し暗い気分になってしまった。そこにルーミーがやって来た。


「ジェシーが大興奮で制服がかわいくてやばいって言ってたけどどんなのだ?」


「これよ。ルーミーも好きじゃないかしら?」


渡すとルーミーは目を見開いてパチクリと何度も瞬きをしていた。


「これ……すげぇな。着てきていいか」


「あーお願いね」


「おう」


ルーミーも上がっていた。さてと私も念のため着替えようかしらね。休日とか言って結局仕事みたいにならせてしまって悪いことしちゃったな。


リナは1人反省していたのだった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る